こんにちは、合同会社設立の支援実績が豊富な税理士の植村拓真です。
弊所では、合同会社の設立を迷っていらっしゃる個人事業主(フリーランス)や会社員の方から、以下のようなご相談をいただく機会が多いです。
個人事業主として売上が伸びてくると、節税目的で合同会社を設立して法人化を検討する方がいらっしゃいます。
しかし、なんとなく節税できるとわかってはいるものの、他にどんなメリットやデメリットがあるかまで把握できている方は多くありません。
中には、合同会社を設立する手順について調べたものの、難しくて時間がかかりそうであるため、事業に集中するためにご相談くださる方もいらっしゃいます。
今回は上記のような方向けに、個人事業主から合同会社に切り替えて法人化する手順やメリット・デメリットについて解説します。
関連記事:会社と個人事業主はどっちが得?違いやメリット・デメリットを比較して法人化を検討
個人事業主から合同会社に切り替えて法人化する手順
個人事業主から合同会社に切り替えて法人化する際、いくつかの手順を踏んで法人登記の手続きを進めます。まずは個人事業主で合同会社に切り替える手順を知りたい方向けに、主な手順について解説します。
↓
②必要書類の定款を作成する
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③資本金を代表の口座に振り込む
↓
④法務局にて登記申請を行う
↓
⑤合同会社の設立完了
①合同会社の基本事項を決める
個人事業主が合同会社に切り替えて法人化する際、まずは合同会社の基本事項を決めます。合同会社の基本事項は以下のとおりです。
- 会社名(商号)
- 事業目的
- 資本金
- 所在地
- 事業年度
- 役員の構成
事前に決めておいて、法人登記の手続きをスムーズに完了しましょう。
会社名(商号)
合同会社の会社名では、以下の文字や記号を使用できます。
- 漢字
- ひらがな
- カタカナ
- 英文字(大文字、小文字)
- アラビア数字
- &
- ’
- ,
- -
- .
- ・
そして、原則として自由に設定できるのですが、他社と同じや似たような名前を設定すると、法的なトラブルに発展するおそれがあるので注意しましょう。
法務省が運営している登記情報提供サービスのホームページでは、既存の会社名を検索できます。自社の会社名を決定する前に確認しておきましょう。
事業目的
合同会社で行う事業の内容だけでなく、今後取り組みたい事業の内容を記載します。
資本金
資本金は1円から自由に設定できます。
しかし、金額が低いほど金融機関や取引先などの第三者からの信用を得づらい傾向があります。今後、資金調達や新規取引先の開拓を行う予定の方は、安すぎる金額を設定しないようにしましょう。
所在地
合同会社の所在地は、自前のオフィスだけでなく、分譲マンションやアパートの住所も使用できます。ただし、物件の管理規約や契約条件によっては法人登記できないケースもあるので、事前に確認しておきましょう。
事業年度
合同会社の事業年度は個人事業主とは異なり、事業主自身が自由に決定できます。事業の繁忙期を避けるだけでなく、売上が伸びる時期を意識して決められるため、うまく設定すれば節税につながるケースもあります。
関連記事:【失敗しない】決算期の決め方|変更方法から調べ方まで解説
役員の構成
合同会社は一人社長や身内のみで登記するケースが多いため、役員の構成を決める必要がある方は多くありません。しかし、複数人で合同会社を運営する場合は、個人事業主から合同会社に切り替える際に役員構成を決める必要があります。
②必要書類の定款を作成する
続いては、合同会社の法人登記で必要な書類である定款を作成します。
定款には必ず記載する絶対的記載事項、任意で記載する相対的記載事項があります。各記載事項の内容は以下のとおりです。
・事業目的
・所在地
・資本金
・代表社員の氏名や住所
・業務執行社員の氏名
・全社員を有限責任社員とする旨
・業務執行社員の指名または選任する方法
・監査役の任期の伸長
・公告方法(貸借対照表の公告義務なし)
・存続期間または解散事由
など
合同会社の法人登記を行う際は、上記2つの定款を作成します。
③資本金を代表者の口座に振り込む
定款を作成したら、代表者の口座に資本金を振り込みましょう。資本金を振り込む際は、振り込んだとわかる通帳のページをコピーしておいてください。振込証明書として利用します。
④法務局にて登記申請を行う
最後に、法務局にて合同会社の登記申請を行います。法務局に持参する必要書類は以下のとおりです。
- 定款
- 振込証明書
- 印鑑届出書
- 設立登記申請書
- 登録免許税の収入印紙
- 磁気ディスク(OCR用申請用紙は配布終了)
- 発起人の同意書
- 代表社員の印鑑登録証明書
必要書類を揃えて手続きを行いましょう。合同会社の登記申請に必要な書類の詳細については、法務局のホームページでも確認して漏れがないようにしましょう。
個人事業主から合同会社に切り替えたあとの手続き
合同会社の設立を完了したあとも、期限までにさまざまな手続きが必要です。個人事業主から合同会社に切り替えて終わりではないので注意しましょう。
本項目では、個人事業主から合同会社に切り替えたあとの手続きについて解説します。
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②各機関への届出を期限までに提出する
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③合同会社に資産や債務を移行する
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④個人事業主の廃業届を提出する
①法人名義で銀行口座を開設する
合同会社を設立する際、事業に関する資金を個人と法人で分ける必要があり、法人名義の銀行口座が必要になります。合同会社の設立が完了すると、法人名義の銀行口座を開設できるようになりますので開設しましょう。
役員報酬や法人のデメリットについて調べるとよく記載されているのですが、法人化すると個人事業主のように自由に事業で稼いだお金を使えません。自社からの貸付金扱いであれば、社長個人でも使用できます。
しかし、税金や利子が発生したり融資の審査に通りづらくなったりするなど、さまざまなデメリットがありますので、合同会社のお金は使わずに個人としっかり分けて管理しましょう。
②各機関への届出を期限までに提出する
合同会社を設立したあと、以下の機関で各種書類を期限までに提出しなければなりません。個人事業主から合同会社に切り替える際は、設立後の手続きも考慮したうえでスケジュールを組んでおきましょう。
税務署
書類名 | 提出期限 |
法人設立届出書 | 合同会社の設立日から2ヶ月以内 |
青色申告の承認申請書 | 合同会社の設立日から3ヶ月以内 または最初の事業年度の終了日 上記のいずれか早い方の前日 |
給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所の開設から1ヶ月以内 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | なし |
適格請求書発行事業者の登録申請書 | なし |
市町村役場
書類名 | 提出期限 |
法人設立届出書 | 提出する場所によって異なる 東京23区は不要 |
都道府県税事務所
書類名 | 提出期限 |
法人設立届出書 | 都道府県によって異なる 東京23区は15日以内 |
年金事務所
書類名 | 提出期限 |
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 被保険者資格の取得から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 合同会社の設立から5日以内 |
健康保険被扶養者(異動)届 | 事実発生から5日以内 |
労働基準監督署
書類名 | 提出期限 |
労働保険保険関係成立届 | 従業員の雇用日翌日から10日以内 |
労働保険概算保険料申告書 | 従業員の雇用日から50日以内 |
適用事業報告書 | 従業員を雇ったら迅速に提出 ※同居の親族のみの場合は不要 |
就業規則(変更)届 | 常時10人以上の従業員を雇っている場合は、速やかに提出 |
金融機関
書類名 | 提出期限 |
法人口座新規開設届 | 法人名義の口座を開設したとき |
ハローワーク
書類名 | 提出期限 |
雇用保険被保険者資格届 | 従業員の雇用日翌日から10日以内 |
雇用保険適用事業所設置届 | 適用事務所になった日の翌日から10日以内 |
③合同会社に資産や債務を移行する
個人事業主から合同会社に切り替えたあと、個人事業主の資産や債務を合同会社に移行する必要があります。個人事業主の資産や債務を移行する方法は以下の4つです。
売買契約
個人事業主から合同会社に資産や債務を移行する簡単な方法として、売買契約が挙げられます。個人事業主が所有する資産を合同会社に売却して、双方で契約を結ぶだけです。
しかし、合同会社が資産の購入費用を支払う必要があり、個人事業主側では売却に伴う税金が発生するケースがあります。売買契約を選択する際は、税金や必要な費用について確認しておきましょう。
現物出資
現物出資とは、個人事業主が保有する金銭以外の資産を、合同会社を設立する際に資本金として出資する方法です。車両、PC、不動産、有価証券などが対象資産で、合同会社の資本金を増やす効果があります。
ただし、実際の金銭が増えるわけではないため、資金繰りに直接影響しません。また、価額総額が500万円を超える場合は、検査役である公認会計士や弁護士などの調査が必要で手続きに時間と手間がかかります。
賃貸借契約
賃貸借契約は、不動産など売却が困難な資産を個人事業主から合同会社に貸し出す形式で移行する方法です。本契約により、資産の所有権は個人事業主に残り、合同会社は賃借料を支払います。
個人事業主は受け取った賃借料を所得として申告する必要があります。賃貸借契約は手続きが簡単で、資産の所有権を保持しつつ法人で利用できる点が特徴です。
贈与契約
贈与契約とは、個人事業主が保有する資産を合同会社に無償で譲渡する資産引き継ぎ方法です。合同会社側で購入資金を用意する必要がないため、負担を軽減できます。
ただし、税制上では資産が時価で譲渡されたと見なされるため、譲渡所得が発生します。個人事業主には所得税、合同会社には受贈益に基づく法人税が課されるので注意しましょう。
④個人事業主の廃業届を提出する
個人事業主から合同会社に切り替えて資産や債務の移行が完了したら、個人事業主の廃業届を提出します。廃業日から1ヵ月以内に、税務署へ個人事業主の廃業届出書を提出してください。
また、都道府県税事務所にも事業廃止等申告書を提出する必要があります。個人事業主の廃業届については以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:法人成りで個人事業主の廃業届を提出する必要性やタイミングを解説
個人事業主から合同会社に切り替えるメリット
個人事業主から合同会社に切り替えるメリットは、以下のとおりです。
- 対外的な信用度が個人事業主より高まる
- 責任の範囲が有限になる
- 所得が多いほど節税につながる
- 経費の範囲が広がる
- 社会保険があるのでリクルートしやすい
まず、合同会社は法人であるため、金融機関や取引先からの信用度が高まり、融資審査や新規取引先の開拓で有利になります。
そして、合同会社は有限責任で運営されるため、事業の負債が発生しても社長個人の財産を守りながら事業を継続できるので安心です。さらに、最大税率23.20%の法人税の適用や所得の分散で節税できます。
また、社会保険の加入義務が義務が発生するため負担は増えますが、福利厚生が向上してスタッフのリクルートや定着率で有利です。
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個人事業主から合同会社に切り替えるデメリット
個人事業主から合同会社に切り替える際は、以下のデメリットに注意しましょう。
- 設立に費用と時間がかかる
- 維持費として法人住民税7万円がかかる
- 社会保険料を負担する必要がある
- 経理や税務会計の難易度が上がる
合同会社を設立するには、登録免許税や定款認証の費用などが約10万円かかります。
そして、毎年必ず法人住民税が赤字でもかかるため、事業を継続するためには維持費が必要です。法人化すると社会保険への加入義務が発生するため、社会保険料もかかります。
経理や税務会計に関しては、個人事業主よりも専門知識が必要で事務作業も多いです。合同会社は個人事業主の確定申告よりも手間がかかるため、顧問税理士の必要性が高まります。
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まとめ
今回は、個人事業主から合同会社に切り替えて法人化する手順やメリット・デメリットについて解説しました。
個人事業主から合同会社に切り替える際、さまざまな手続きが必要です。
合同会社の設立時だけでなく、設立後にも各機関で期限までに書類の提出が必要ですので、事業が止まってしまうおそれがあります。法人化の際はスケジュールを組んで、計画的に合同会社への切り替えを行いましょう。
また、法人化にはメリットだけでなくデメリットもありますので、ご自身のケースでは損をしないか確認したうえで慎重に検討してください。
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