こんにちは、マイクロ法人の設立支援の実績が豊富な税理士の植村拓真です。
弊所では、数多くのマイクロ法人の設立に携わってきましたが、最初に相談されるのが下記のような内容です。
本記事を読んでいる方の中にも、上記のような不安を抱えている方がいらっしゃるのではないでしょうか。特に、マイクロ法人の設立を検討されている方の中で、マイクロ法人の違法性について懸念される方は多くいらっしゃいます。
そこで今回は、マイクロ法人の設立が違法と判断されるリスクのあるケースに関して詳しく解説します。また、マイクロ法人の正しい設立方法や設立するメリットとデメリットも合わせて説明しますので、マイクロ法人を設立しようか迷われている方は、本記事を参考にしてみてください。
マイクロ法人の定義とは
本項目では、マイクロ法人の定義に関して解説します。マイクロ法人がどんな事業形態なのかあまり詳しく知らない方向けに、以下の3つに分けて説明します。
- マイクロ法人と一般的な法人の違い
- マイクロ法人と個人事業主の違い
- マイクロ法人と1人社長の違い
順番に見ていきましょう。
マイクロ法人と一般的な法人の違い
マイクロ法人は、役員や従業員を自分1人で兼ねるのが特徴で、節税が主な目的です。マイクロ法人で選択する業種には、設備投資や仕入にコストのかかりにくい、ITエンジニアやWEBデザイナー、アフィリエイターなどのIT業やネットビジネス業が適しています。
一方、一般的な法人は事業規模の拡大を目的とするため、従業員を増やしたりしながら、売上の維持や向上を目指します。
マイクロ法人と個人事業主の違い
マイクロ法人と個人事業主の違いは、働き方に大きな差はなく、法人格を有しているかどうかだけです。しかし、違いとして挙げられるのが、起業する際の手続きや、税制面の優遇措置などです。
個人事業主は、納税地を所轄する税務署に開業届を提出するだけで手軽に事業を始められます。一方、マイクロ法人は事業を始めるにあたって、法人登記や定款作成などの手間や費用がかかります。
しかし、マイクロ法人の設立によって見込まれるのが、高い節税効果や社会的な信用の向上などです。上記の理由から、1人社長の法人ではマイクロ法人の設立を選ぶケースがあります。
関連記事:会社と個人事業主はどっちが得?違いやメリット・デメリットを比較して法人化を検討
マイクロ法人と1人社長の違い
自分1人で法人を設立して経営する点においては、マイクロ法人も1人社長も同じです。
1人社長の場合、事業規模の拡大や利益の向上を主たる目的としており、状況によっては、従業員を雇う場合もあります。
一方で、マイクロ法人の主たる目的は節税です。繰り返しになりますが、マイクロ法人は事業規模の拡大を重視せず、最小規模での運営に特化しています。
関連記事:法人化で一人社長になるとは?メリット・デメリットや個人事業主との違いを税理士が解説
マイクロ法人を設立するうえでの前提条件
本項目では、マイクロ法人を設立するうえでの前提条件に関して解説します。マイクロ法人を設立するうえでの前提条件は、次のとおりです。
- 個人事業主との二刀流
- 従業員は雇わない
- 異なる業種の事業が2つ以上ある
- 役員報酬を最低限に設定する
上記に関して1つずつ見ていきましょう。
個人事業主との二刀流
個人事業主がマイクロ法人を設立するケースでは、個人事業をマイクロ法人へと引き継ぎ、個人事業を廃業する場合もありますが、あまり数は多くありません。あくまでも、節税効果を見込んでマイクロ法人は設立されるため、個人事業主とマイクロ法人の二刀流で運営するケースがほとんどです。
マイクロ法人と個人事業主の二刀流で節税するメリットとデメリットについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人と個人事業主の二刀流で節税するメリット・デメリットを解説
従業員は雇わない
従業員を雇うと、給与を支払ったり、社会保険料の一部を会社が負担したりする必要があります。上記のような負担が増え、節税効果が薄れてしまわないよう、マイクロ法人は経営者1人で事業を運営し、コストを最小限に抑えるのが基本です。
異なる業種の事業が2つ以上ある
同じ業種を個人事業主とマイクロ法人に分けた場合、実態のない法人とみなされて、違法と判断されるおそれがあります。
上記のリスクを回避するために、マイクロ法人は個人事業主と異なる業種で設立しましょう。異なる業種であれば、経理や税務会計の処理を明確に区別して行えるため、税務上のトラブルを避けられます。
以上を踏まえて、マイクロ法人は単に節税目的の法人ではなく、実態のある法人として運営しましょう。マイクロ法人が違法とみなされるケースについては、本記事の後半で詳しく解説します。
役員報酬を最低限に設定する
役員報酬の金額に応じて社会保険料と所得税が決まるため、月額10,946〜45,000円の範囲内で役員報酬の金額を設定すると節税効果が高まります。上記は、令和6年時点の情報となります。
役員報酬の金額を月額63,000円未満で設定すれば、社会保険料を最も低くできますが、役員報酬を下記のように設定しておかないと、社会保険に加入できないおそれがあるため注意しましょう。
40歳未満の場合 | 10,946円以上 |
40〜64歳の場合 | 11,410円以上 |
また、役員報酬の金額の目安として上記で45,000円と表記しているのは、役員報酬が年間55万円未満であれば給与所得控除の控除額内に収まるので、所得税がかからなくなるためです。
以上のように、マイクロ法人の役員報酬の額を適切に設定すれば、節税効果を高められます。役員報酬の金額設定については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
参考:全国健康保険協会(令和6年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|東京都)
参考:国税庁(No.2508 給与所得となるもの)
関連記事:役員報酬はいくらが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
マイクロ法人を設立するタイミング
本項目で解説するのは、マイクロ法人を設立するタイミングについてです。マイクロ法人の設立を検討するタイミングの目安は、次のとおりです。
個人事業主の課税所得が800万円以上になったとき | 法人税の税率が所得税の税率を下回り、税負担が軽減される |
副業の課税所得が500万円以上になったとき | 節税効果や社会的な信用の向上が期待できる |
課税売上高が1,000万円を超えたとき | 消費税の免税期間を引き延ばせる(ただし、インボイス制度の影響で免税事業者のメリットは少なくなっている) |
マイクロ法人の設立には、節税効果の見込みや社会保険料の削減、社会的な信用の向上といったメリットがあります。ただし、役員報酬の適正な設定や、マイクロ法人特有の経理や税務会計の処理など、専門知識が必要な場面も多くあります。
判断に迷う場合は、マイクロ法人に強い税理士に相談してみるのがおすすめです。
関連記事:マイクロ法人設立は年収いくらから?社会保険を最安化させる目安も解説
マイクロ法人として設立するのにおすすめな事業
本項目では、マイクロ法人として設立するのにおすすめできる事業に関して解説します。
在庫や設備投資が少なく、個人でも始めやすい事業が、マイクロ法人として設立するのに向いています。具体的には、以下のような業種です。
- ITエンジニア
- SNSマーケター
- ECサイト制作
- コンサルティング
- スクール事業
- 広告代理店業
繰り返しになりますが、個人事業主とマイクロ法人を明確に区別できる事業や業種を運営するのが重要です。
マイクロ法人として設立するのに向いている事業や業種については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人でおすすめの事業や業種の選び方を税理士が解説
マイクロ法人を設立する際の会社の種類
本項目では、マイクロ法人を設立する際の会社の種類に関して解説します。マイクロ法人を設立する際、会社の種類は、下記のいずれかが選ばれるケースが多いです。
- 株式会社
- 合同会社
上記それぞれの特徴に関して順番に見ていきましょう。
株式会社
株式会社の特徴は、次のとおりです。
設立にかかる費用 | 22万〜25万円程度 |
設立にかかる手間 | 合同会社よりもかかる |
設立にかかる時間 | 2週間~1ヵ月程度 |
定款の認証 | 必要 |
株式による資金調達 | できる |
社会的な信用度 | 合同会社より高い |
選ばれるケース | 将来的に会社の規模を大きくしたい場合 |
合同会社
合同会社の特徴は、次のとおりです。
設立にかかる費用 | 10万円程度 |
設立にかかる手間 | 株式会社よりもかからない |
設立にかかる時間 | 2週間~1ヵ月程度 |
定款の認証 | 不要 |
株式による資金調達 | できない |
社会的な信用度 | 株式会社より低い |
選ばれるケース | 設立にかかる負担を軽減したい場合 |
会社の種類は設立後に変更もできます。合同会社を設立したものの、株式による資金調達を行いたくなった場合、合同会社から株式会社に変更するケースも認められています。
参考:e-Gov(会社法|第七百四十三条 組織変更計画の作成)
参考:法務局(持分会社の組織変更の登記申請書)
マイクロ法人の設立にかかる費用
本項目で解説するのは、マイクロ法人の設立に、どのくらいの費用が発生するのかについてです。下記の2つに分けて解説します。
- 株式会社の場合
- 合同会社の場合
株式会社と合同会社のどちらで設立しようか迷われている方は、本項目を参考にしてみてください。それぞれについて順番に見ていきましょう。
株式会社の場合
株式会社で設立する場合に生じる費用は、次のとおりです。
登録免許税 | 15万円〜(資本金の額によって変動) |
定款を紙で作成した際の収入印紙代 | 4万円(電子定款なら不要) |
定款の認証にかかる手数料 | 3万円〜(資本金の額によって変動) |
定款の謄本請求手数料 | 2,000円程度 |
上記に加えて、マイクロ法人の設立を税理士に依頼する場合は、別途費用が発生します。会社を設立する際の税理士の必要性や、依頼する場合にかかる費用については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:会社設立に税理士は必要?費用相場やメリットについて解説
合同会社の場合
合同会社で設立する場合に生じる費用は、次のとおりです。
登録免許税 | 6万円〜(資本金の額によって変動) |
定款を紙で作成した際の収入印紙代 | 不要 |
定款の認証にかかる手数料 | 不要 |
定款の謄本請求手数料 | 不要 |
合同会社の場合、定款認証が不要のため、株式会社よりもコストがかからずにマイクロ法人を設立できます。繰り返しになりますが、上記の費用に加えて、税理士にマイクロ法人の設立を依頼する場合は、別に費用が発生しますので注意しましょう。
合同会社を設立する場合の税理士の必要性については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:合同会社に税理士は必要?費用相場や不要なケースも解説
マイクロ法人の維持にかかる費用
本項目では、マイクロ法人を設立後にかかる維持費に関して解説します。マイクロ法人を設立したあとに、年間でかかる維持費は、最低でも以下のとおりです。
法人住民税 | 約70,000円〜(赤字でも納付する必要がある) |
社会保険料 | 約132,000円〜(会社負担分のみ) |
役員報酬 | 約132,000円〜(個人負担分の社会保険料込み) |
合計 | 約334,000円〜 |
上記以外にも、場合によっては、下記のような維持費が発生します。
- 法人税
- 地方法人税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税及び地方消費税
- 税理士の顧問料(年間で約50万円〜)
- 弁護士の顧問料(年間で約50万円〜)
- バーチャルオフィスの契約料
- 電話代行サービスの契約料
- オフィスの家賃
- 水道光熱費
- 通信費
以上のように、マイクロ法人を設立したあとにかかる維持費は、少なくありません。
マイクロ法人の設立で後悔する理由と対策については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人設立で後悔する理由と対策を税理士が徹底解説
マイクロ法人の設立手順
本項目では、マイクロ法人の設立手順について解説します。
マイクロ法人の設立手順は、以下のとおりです。
- 会社概要の決定
- 法人用の実印作成
- 定款の作成と認証を受ける
- 資本金の払い込み
- 登記書類の作成と申請手続き
- 設立登記後の各種手続き
上記に関して1つずつ順番に見ていきましょう。
①会社概要の決定
マイクロ法人を設立するには、まず会社概要を決める必要があります。主に以下の項目について検討しましょう。
会社名 | 商標登録を侵害しない名称を選ぶ(特許情報プラットフォームで確認するのがおすすめ) |
事業内容 | どのような事業を行うのかを決める |
所在地 | 住所は公開されるため、プライバシーを考慮し、バーチャルオフィスなどでも良い |
会社形態 | 株式会社や合同会社などの選択 |
資本金 | 1円以上で設定できるので、事業規模に応じて検討する |
決算の時期 | 事業運営に適した時期を選ぶ |
上記の情報は、後述する定款の作成時に必要なため、事前にしっかりと決めておきましょう。
②法人用の実印作成
マイクロ法人を設立する際には、法人用の印鑑が必要です。
会社の実印 | 法務局への登記申請や契約書に使用(18mm程度の大きさで深彫りがおすすめ) |
個人の実印 | 法務局への登記申請や契約書に使用(12mm程度の大きさで深彫りがおすすめ) |
銀行印 | マイクロ法人の銀行口座を開設する際に必要 |
角印 | 領収書や請求書といった社外文書に使用(マイクロ法人の場合、必須ではない) |
印鑑の作成は、インターネットでも発注でき、早ければ、2〜3日で出来上がります。印鑑の作成にかかる費用は、3,000~10,000円程度です。
作成した会社の実印と個人の実印は、それぞれ印鑑登録を行い、印鑑登録証明書を受け取りましょう。
③定款の作成と認証を受ける
定款はマイクロ法人の活動に関する規則を定めた重要な文書です。定款には、必ず記載しなければならない事項が決められており、記載漏れがあった場合、無効になるおそれがあります。
定款の作成に取り掛かる前に、下記の内容について確認しましょう。
会社法が規定する定款の絶対的記載事項は、次のとおりです(会27条)。
①目的
②商号
③本店の所在地
④設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
設立に際して発行する株式の総数(設立時発行株式総数)については、出資される財産の総額にかかわらず、設立時発行株式数が定まる改正前商法の規定は、設立手続を硬直化させるおそれがあるとして、絶対的記載事項から除き、会社の設立に際して出資される財産の価額又はその最低額を定めて定款に記載すべきであるとされました(会27条4号)。
⑤発起人の氏名又は名称及び住所以上の事項の記載を欠く定款は無効です。
なお、会社が発行する株式の総数(発行可能株式総数)については、定款作成時に定める必要はないものとし、設立中の株式引受け状況を見極めながら、設立登記申請時までに定款に定めればよいことになっています(会37条、98条)。
引用:日本公証人連合会(Q2. 株式会社の定款の記載事項について、どのようなものがありますか。)
定款の作成が終わったら、会社の所在地を管轄している公証役場で、定款認証を受ける必要があります。
定款認証にかかる手数料は、資本金の額によって変動し、3万〜5万円です。また、定款を紙で作成した場合、収入印紙代4万円がかかります。なお、電子定款を利用すれば、上記の収入印紙代を節約できます。
定款の作成には、専門知識も必要なため、税理士の助けも借りながら進めるのがおすすめです。
④資本金の払い込み
資本金は、会社を経営するうえで、元手となる資金です。
資本金は、発起人もしくは代表者の個人名義の銀行口座へ振り込む場合が多いです。上記の理由として、マイクロ法人の登記が完了しておらず、マイクロ法人の銀行口座が開設できていないためです。
資本金の払い込みは、資本金があるのを証明する作業のため、資本金として設定した金額に銀行口座の残高を合わせるのではなく、資本金として設定した金額を銀行口座に振り込む点に注意しましょう。
たとえば、資本金を300万円に設定した場合、銀行口座の残高を300万円にするのではなく、銀行口座に300万円を振り込む必要があります。
資本金の払い込み後、通帳の表紙や振込明細のページをコピーし、資本金を振り込んだ事実を証明する書類として保管してください。上記の証明書類は、マイクロ法人の登記申請時に必要となります。
⑤登記書類の作成と申請手続き
マイクロ法人の登記に必要な書類は、株式会社で設立する場合と合同会社で設立する場合とで違いがあるため、それぞれについて説明したあとで、登記の申請手続きに関して解説します。
株式会社で設立する際に必要な登記書類
マイクロ法人を株式会社で設立する際に必要な登記書類は、次のとおりです。
参考:法務局(株式会社設立登記申請書|取締役会を設置しない会社の発起設立)
合同会社で設立する際に必要な登記書類
マイクロ法人を合同会社で設立する際に必要な登記書類は、次のとおりです。
- 登記申請書
- 登録免許税の収入印紙を貼付した納付用台紙
- 定款(認証は不要)
- 代表社員、本店所在地及び資本金を決定したことを証明する書面
- 代表社員の就任承諾書
- 代表社員の印鑑登録証明書
- 印鑑届出書
- 資本金の払い込みを証明する書類
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 登記するべき事項を記載した書面もしくはデータ
参考:法務局(合同会社設立登記申請書|代表社員が法人でない場合)
登記の申請手続き
マイクロ法人の登記の申請手続きは、本店所在地を所轄する法務局で行います。マイクロ法人の登記の申請手続きは、資本金の払い込み後、2週間以内に行う必要があります。
登記書類の提出方法は、窓口へ持参、郵送、オンラインの3つです。窓口へ持参した場合、不備があれば、その場で指摘してもらえます。
提出した登記書類に不備がない場合、通常10日程度で登記が完了します。マイクロ法人の登記の申請手続きは自分1人でも行えますが、揃える書類が多かったり、専門知識が必要な箇所があったりするため、税理士の助けを借りながら進めるのがおすすめです。
⑥設立登記後の各種手続き
マイクロ法人の設立登記が完了したあとにも手続きがあります。場合によっては、不要なものもありますが、主な手続きは、以下のとおりです。
提出書類 | 提出先 |
法人設立届出書 | 本店所在地を所轄する税務署 |
法人設立届出書 | 本店所在地を所轄する都道府県税事務所 |
法人設立届出書 | 本店所在地を所轄する市町村役場 |
給与支払事務所等の開設等届出書 | 本店所在地を所轄する税務署 |
青色申告の承認申請書 | 本店所在地を所轄する税務署 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 本店所在地を所轄する税務署 |
適格請求書発行事業者の登録申請書 | 本店所在地を所轄する税務署 |
健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 本店所在地を所轄する年金事務所 |
上記のように、マイクロ法人の設立登記が完了したあとにも多くの手続きがあります。
関連記事:会社設立手続きを自分で行う5つのステップ|費用や流れについて解説
マイクロ法人を設立するメリット
本項目では、マイクロ法人を設立するメリットに関して解説します。マイクロ法人の設立で得られるメリットは、以下のとおりです。
- 社会保険料の負担が軽減できる
- 所得税や住民税の節税が見込める
- 消費税の免税事業者になれるケースがある
- 課税所得を抑えられる
- 取引先や金融機関からの信頼が得られやすい
- 資金調達がしやすくなる
- 経費に算入できる範囲が広くなる
上記について順番に見ていきましょう。
社会保険料の負担が軽減できる
マイクロ法人を設立すると、社会保険に加入できるようになります。個人事業主が加入する国民健康保険には扶養の概念はありませんが、社会保険には扶養の概念があるため、家族を自分の扶養に入れられます。
上記は、マイクロ法人の設立によって得られるメリットの1つです。
また、個人事業主とマイクロ法人の二刀流をすれば、個人事業主で売上を伸ばしつつ、マイクロ法人を活用して社会保険料の負担を最小限にできます。社会保険料は、毎月の報酬額に基づいて計算されるので、マイクロ法人の役員報酬を低く設定すれば、社会保険料を抑えられるからです。
ただし、サラリーマンがマイクロ法人を設立するケースでは、すでに雇用先で社会保険に加入しているため、マイクロ法人を活用した社会保険料の節約ができない点に注意してください。
関連記事:マイクロ法人設立でサラリーマンが節税するメリットや注意点を解説
所得税や住民税の節税が見込める
マイクロ法人を設立すれば、所得税や住民税の節税が期待できます。マイクロ法人から自分に役員報酬を支払うと、給与所得控除が適用され、課税対象となる所得金額を減らせます。
上記は、マイクロ法人の設立によって得られるメリットの1つです。たとえば、年間の役員報酬を1,625,000円以下に設定すれば、給与所得控除として550,000円が差し引かれ、所得税や住民税の負担が軽減されます。
個人事業主の所得税の税率は最大45%であるのに対し、法人税の税率は最大23.2%だからです。以上のように、マイクロ法人の設立によって、所得税や住民税の節税が期待できます。
消費税の免税事業者になれるケースがある
マイクロ法人を設立して、個人事業主とマイクロ法人それぞれの課税売上高が1,000万円以下になれば、消費税の免税事業者になれるケースがあります。
消費税の納税義務が生じるのは、原則として、前々年度の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。しかし、マイクロ法人を設立して、個人事業主とマイクロ法人に売上を分ければ、どちらも免税の対象となる場合があります。
たとえば、課税売上高が1,100万円の事業者が、節税を目的としてマイクロ法人を設立するケースを見ていきましょう。仮に、課税売上高を個人事業主のプログラマーで800万円、マイクロ法人のITコンサルタントで300万円に分ければ、どちらも免税事業者になれる見込みがあります。
ただし、2023年10月のインボイス制度導入後、取引先次第で免税事業者になる点がメリットだといえなくなるので注意が必要です。
関連記事:インボイス制度がやばい・ひどい理由|抜け道と対策を解説
課税所得を抑えられる
課税所得を抑えられるのも、マイクロ法人を設立するメリットの1つです。たとえば、マイクロ法人を設立したあと、役員報酬を下記のいずれかの要件で支払う場合、経費として計上できるからです。
役員報酬が経費計上されると、法人税の課税所得を少なくできるため、節税効果が見込めます。
参考:国税庁(No.5211 役員に対する給与|平成29年4月1日以後支給決議分)
参考:財務省(6「法人税」を知ろう)
関連記事:役員報酬はいくらが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
取引先や金融機関からの信頼が得られやすい
マイクロ法人を設立すると、取引先や金融機関から信頼が得られやすくなるのもメリットの1つです。
上記の理由から、事業の実態を客観的に確認できるため、社会的な信用が向上します。
個人事業主は信用度が低く、法人との取引を避けられてしまうケースがありますが、マイクロ法人の設立によって社会的な信用を獲得できると、取引できる範囲の拡大が期待できます。また、金融機関からの融資や、法人向けの補助金や助成金制度を活用しやすくなる点も、マイクロ法人を設立するメリットの1つです。
資金調達がしやすくなる
マイクロ法人の設立によって、資金調達がしやすくなります。
上記は、個人事業主と比較したときに、規模の大きな資金調達を実現しやすい点が特徴です。また、金融機関からの融資の多くは、法人を対象としており、個人事業主のときよりも審査の通過率は高いです。
繰り返しになりますが、マイクロ法人は個人事業主と比べて社会的な信用が高いため、より良い条件で融資を受けられる機会が増えます。資金調達を計画する場合、マイクロ法人の設立を活用する方が有利なケースがあります。
参考:中小企業庁(中小企業者のためのエクイティ・ファイナンスの基礎情報)
経費に算入できる範囲が広くなる
マイクロ法人を設立すれば、個人事業主と比べて経費として認められる範囲が広がり、節税効果が高まります。たとえば、以下のようなものが経費として認められるようになります。
経費として算入できるか判断に迷う場合は、税理士に相談するのをおすすめします。
関連記事:法人はなんでも経費で落とせる?よくある勘違いと判断基準を解説
マイクロ法人を設立するデメリット
本項目では、マイクロ法人を設立するデメリットに関して解説します。マイクロ法人を設立するうえでのデメリットは、次のとおりです。
- 設立の手続きに手間がかかる
- 設立の費用がかかる
- 赤字でも法人住民税を納める必要がある
- 維持にコストと手間がかかる
- 将来もらえる年金が減るおそれがある
上記に関して順番に見ていきましょう。
設立の手続きに手間がかかる
マイクロ法人を設立する場合、個人事業主と比べて手続きが複雑で時間がかかります。個人事業主は開業届を提出するだけで始められますが、マイクロ法人の場合は、定款の作成や認証、登記申請書の提出といった手続きが必要です。
マイクロ法人を設立するための準備や申請には、1ヵ月程度かかるおそれもあり、手間がかかるのがマイクロ法人を設立するデメリットの1つです。マイクロ法人の設立を自分1人で行うのが難しい場合は、税理士への依頼も検討してみましょう。
設立の費用がかかる
繰り返しになりますが、マイクロ法人を設立する場合、設立にあたって費用がかかります。個人事業主は開業時にかかる費用は特にありませんが、マイクロ法人を設立するときには、設立する会社の種類ごとに異なる費用が発生します。
株式会社でマイクロ法人を設立する場合にかかる費用は、22万~25万円程度です。合同会社でマイクロ法人を設立する場合にかかる費用は、10万円程度です。
上記の費用には、登録免許税や定款認証の手数料などが含まれます。詳細は、前述のマイクロ法人の設立にかかる費用の項目をご参照ください。
赤字でも法人住民税を納める必要がある
赤字でも法人住民税を支払う必要がある点は、マイクロ法人を設立するうえでのデメリットです。
個人事業主の場合、赤字であれば所得税や住民税が免除されるため、上記の点は法人特有の負担といえます。マイクロ法人を設立する際は、赤字でも法人住民税の納付が発生するのを考慮に入れながら、計画を進めるのが重要です。
維持にコストと手間がかかる
維持にコストと手間がかかるのも、マイクロ法人を設立するデメリットの1つです。具体的には、以下のようなコストと手間がかかります。
- 間接経費がかかる
- 経理や税務会計の手間が増える
上記について順番に見ていきましょう。
間接経費がかかる
マイクロ法人を設立すると間接経費が増加してしまう点もデメリットです。
特に、マイクロ法人の確定申告や決算申告は専門知識が求められるため、税理士への依頼が必要なケースが多くなります。また、会社の所在地を変更したり、役員の任期満了に伴う変更をしたりする場合は、あらためて登記の手続きと費用が必要です。
マイクロ法人を設立すると、上記のような間接経費が積み重なるため、念頭に置きましょう。
参考:法務省(役員の変更の登記を忘れていませんか?再任の方も必要です)
参考:法務局(株式会社変更登記申請書)
参考:法務局(株式会社本店移転登記申請書)
経理や税務会計の手間が増える
経理や税務会計の手間が増えてしまう点は大きなデメリットです。繰り返しになりますが、経理や税務会計の業務は、マイクロ法人と個人事業主とで分けて行う必要があります。
決算申告には、多くの書類作成が求められて手続きも煩雑です。また、決算申告は専門知識も必要なため、税理士へ依頼するケースが一般的です。
マイクロ法人の設立によって、経理や税務会計の業務の時間が増えるため、営業活動や現場での業務に充てられる時間が減ってしまうおそれがあります。
上記について加味しながら、マイクロ法人の設立には、十分な検討が必要です。決算申告を税理士に依頼する場合の費用相場については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:【法人の決算申告】税理士なしのリスクと依頼時の費用相場
将来もらえる年金が減るおそれがある
マイクロ法人の設立は節税を目的としており、社会保険料の負担を抑えるために、役員報酬を低く設定するケースが多いです。しかし、上記の場合に懸念されるのが、将来もらえる年金の額が減ってしまうおそれです。
厚生年金は、保険料を納めた期間と働いていたときの給与に応じて、受給額が決まります。上記の理由から、役員報酬を最低限に設定すると、老後の備えが十分でなくなるリスクがあります。
短期的な手取りの増加だけでなく、長期的な視点で、将来の生活設計について検討する必要があります。
参考:厚生労働省(年金額・保険料シミュレーション)
参考:厚生労働省(国民年金と厚生年金の仕組み)
関連記事:マイクロ法人と個人事業主の二刀流で節税するメリット・デメリットを解説
マイクロ法人を設立するのが良いケース
本項目では、マイクロ法人を設立するのが良いケースについて解説します。以下のようなケースでは、マイクロ法人を設立するのがおすすめです。
- 社会保険料の負担を軽減したい
- 事業を拡大したい
- 社会的な信用を高めたい
上記に関して1つずつ見ていきましょう。
社会保険料の負担を軽減したい
所得の増加に伴い、国民健康保険料の負担も増えていると感じる個人事業主は、マイクロ法人の社会保険に加入するのがおすすめです。
マイクロ法人では、役員報酬を自由に設定できるため、役員報酬を低く設定すれば、社会保険料の負担を大幅に軽減できます。社会保険料は、毎月の報酬額に応じて決められているからです。
国民健康保険では、所得に基づく高額な保険料が発生してしまうため、マイクロ法人を効果的に活用しながら、保険料の負担を軽減させていきましょう。
関連記事:役員報酬で税金がかからないのはいくらまで?税金の種類もあわせて解説
事業規模を拡大したい
将来的に事業規模の拡大も視野に入れている場合、マイクロ法人の設立は有効な選択肢です。
マイクロ法人は、個人事業主と比べ、社会的な信用が高いためです。また、法人を対象としたサービスを受けられるようになったり、法人限定の展示会に申し込めるようになったりするため、事業拡大のチャンスが増えます。
事業規模の拡大を将来的な目標として持っている方は、上記のようなメリットを得るために、マイクロ法人の設立を検討する価値があります。
社会的な信用を高めたい
社会的な信用を高めたい場合、マイクロ法人の設立はおすすめです。
法人の設立時や維持には手間や費用がかかるため、法人を設立するのは、腰を据えて長期的に事業を行っていく意思のあらわれでもあります。上記の理由から、法人は個人事業主と比べ、取引先に安心感を与えられます。
一方、個人事業主は廃業が簡単にできるイメージから、年単位の長期契約を交わす場面において、取引先から不安視されるケースは少なくありません。法人を取引の相手にしたい場合、社会的な信用が重要となるケースが多いため、マイクロ法人の設立によって、信用度を高めておくのは効果的な手段の1つです。
マイクロ法人が違法と判断されるケースに注意
本項目では、マイクロ法人が違法と判断されるケースについて解説します。マイクロ法人を下記のように疑われた場合、違法とみなされるおそれがありますので注意しましょう。
- ペーパーカンパニー
- 事業の重複
上記に関して順番に見ていきましょう。
ペーパーカンパニー
ペーパーカンパニーとは、法人として登記されているにも関わらず、事業として活動がみられない、実態のない会社を指します。
マイクロ法人を設立する際は、専門家に相談しながら進めると安心です。ペーパーカンパニーと呼ばれているのは、主に以下の3つです。
- 休眠会社(ゴースト会社)
- ダミー会社
- 虚偽情報を記載した会社
上記に関して順番に見ていきましょう。
休眠会社(ゴースト会社)
休眠会社やゴースト会社は、法人として登記しているものの、事業活動を停止または放置している会社を指します。
また、本店所在地を所轄する税務署や役所などに休眠の届出を行えば、納税の負担を軽減できます。
ダミー会社
ダミー会社とは、詐欺や悪徳商法を行う組織が設立するペーパーカンパニーの一種です。上記の会社は、組織の実態を隠す目的で設立されるため、実際の経営者や支配者は、法人の役員名簿に記載されていない場合が多いです。
虚偽情報を記載した会社
虚偽情報を記載した会社とは、本業と実質的に一体で運営しているにもかかわらず、登記を分けて、別事業であるかのように装った法人を指します。たとえば、社会的なイメージが悪い事業を隠す目的や、脱税を狙って設立されるケースが多いです。
上記のような行為は、税法上の不正行為とみなされるリスクが非常に高いです。
事業の重複
事業の重複に関して、以下の3つに分けて詳しく説明します。
- 同じ事業と判断される基準
- 合法なケース
- 違法のおそれがあるケース
それでは、1つずつ見ていきましょう。
同じ事業と判断される基準
法律上、同じ事業と判断される基準は、明確に定められていません。
上記のため、税務署はケースごとに判断します。同じ事業と判断されないためのポイントは、以下の2つです。
- ①1つの事業を無理やり分割していないか
- ②マイクロ法人の設立目的が節税以外にも説明できるか
上記が明確であれば、同じ事業と認定されるおそれは少ないです。しかし、同じ事業と判断される基準がはっきりしていない以上、明確に説明できたとしても、税務署に同じ事業と判断されてしまうリスクはつきまといます。
合法なケース
前の項目で説明した、同じ事業と判断される基準と照らし合わせながら、合法なケースとして、下記の場合について見ていきましょう。たとえば、個人事業主でITエンジニア、マイクロ法人でITコンサルタントの事業を行うケースは、合法といえます。
ITエンジニアの主な事業内容 | クライアントから受託したアプリケーション開発やWEB制作の納品 |
ITコンサルタントの主な事業内容 | クライアントの経営課題を解決するためのIT戦略の策定やシステム導入の提案 |
上記は客観的に見ても、別の事業であるのが分かるため、1つの事業を無理やり分割しているとはいえません。また、下記のような理由からマイクロ法人を設立したのであれば、節税以外の目的であるのを示せます。
違法のおそれがあるケース
前の項目で説明した、同じ事業と判断される基準と照らし合わせながら、違法のおそれがあるケースとして、下記の場合について見ていきましょう。
もともと個人事業主としてせどり業を行っていた方が、節税効果を期待してマイクロ法人を設立し、商品の仕入部分をマイクロ法人で行おうとするケースは、違法とみなされるおそれがあります。
上記のようなケースでは、租税回避のために事業を無理やり分けていると税務署から指摘されるリスクが高いです。また、個人事業主とマイクロ法人間の業務委託は厳しく審査されるため、注意しましょう。
参考:裁判所(所得税更正処分等取消請求事件|平成30年4月19日判決)
マイクロ法人が違法と判断された際のペナルティ
本項目では、マイクロ法人が違法と判断された際のペナルティについて解説します。
マイクロ法人が、節税目的で事業の実態がないケースや、個人事業主と重複しているとみなされる場合、違法と判断されるおそれがあります。上記は、実質所得者課税の原則に基づいて判断されるためです。
マイクロ法人が違法と判断された場合、マイクロ法人の収入が個人事業主の収入とみなされるため、確定申告のやり直しが必要です。上記の場合、所得税や住民税、消費税などが追加で発生し、納税を求められます。また、過少申告加算税や延滞税などの追徴課税が発生します。
マイクロ法人が違法と判断されないための対策
本項目では、マイクロ法人が違法と判断されないための対策について解説します。対策として考えられるのは、以下のとおりです。
- 外部からの売上の確保
- 法人名義で契約を結ぶ
- 法人名義で書類を作成する
- 法人口座に売上を入金する
- 個人事業主と法人で経理や税務会計の処理を区別
上記について1つずつ順番に見ていきましょう。
外部からの売上の確保
マイクロ法人が違法と判断されないための対策の1つ目は、外部との取引によって売上を確保することです。
繰り返しになりますが、個人事業主とマイクロ法人間の業務委託は厳しく審査されるため、原則として、マイクロ法人の売上は外部との取引に基づくものにしましょう。また、マイクロ法人から個人事業主へ業務委託費を支払う場合、代表者が同一かつ従業員がいないケースでは、経費として計上するのを否認されるおそれがあります。
参考:裁判所(所得税更正処分等取消請求事件|平成30年4月19日判決)
法人名義で契約を結ぶ
マイクロ法人が違法と判断されないための対策の2つ目は、取引先との契約は法人名義で結ぶことです。
マイクロ法人が違法と判断されないためには、繰り返しになりますが、売上がマイクロ法人の活動から生じているのを明確にする必要があります。上記のためには、取引先と契約を交わす際は、マイクロ法人名義で契約を締結しましょう。
上記により、マイクロ法人が実態のある事業だと示せるので、税務上のトラブルを防ぎやすくなります。
法人名義で書類を作成する
マイクロ法人が違法と判断されないための対策の3つ目は、法人名義で書類を作成することです。
マイクロ法人が違法と判断されないためには、繰り返しになりますが、法人としての実態を示すのが重要です。法人としての実態を示すために、請求書や領収書などの書類は、マイクロ法人名義で作成しましょう。
また、書類は適切に保管し、万が一、税務調査に入られた際に提示できるように準備しておきましょう。
法人口座に売上を入金する
マイクロ法人が違法と判断されないための対策の4つ目は、法人口座に売上を入金することです。
上記のために、マイクロ法人の売上は、マイクロ法人の銀行口座に入金しましょう。売上の入金に個人口座を使用してしまうと、マイクロ法人と個人事業主の売上が混同され、事業の実態を疑われるリスクが高まります。
マイクロ法人の売上は、マイクロ法人の銀行口座へ入金するのを徹底すれば、法人としての実態も証明できます。また、入金の記録も正確に管理し、万が一、税務調査に入られても冷静に対応できる状態を保ちましょう。
個人事業主と法人で経理や税務会計の処理を区別
マイクロ法人が違法と判断されないための対策の5つ目は、個人事業主と法人で経理や税務会計の処理を明確に区別することです。
個人事業主とマイクロ法人は、それぞれで税務申告が必要なため、同じ銀行口座や帳簿を使わないようにしましょう。上記を行ってしまうと、マイクロ法人の実態が曖昧になり、税務署に疑われるリスクが高くなります。
上記の区別が明確であれば、法人としての実態を証明しやすくなり、税務上のリスクを回避できます。
マイクロ法人を設立して後悔したこと
本項目では、マイクロ法人を設立して後悔したことについて、下記の2つのタイミングに分けて解説します。
- マイクロ法人の設立直前や直後
- マイクロ法人を設立したあと
それでは、順番に見ていきましょう。
マイクロ法人の設立直前や直後
マイクロ法人の設立直前や直後の後悔としてよくあるのが、以下のような内容です。
上記のように、マイクロ法人を設立するには、専門知識が必要だったり、手続きに時間や費用がかかったりします。
自分1人だけでマイクロ法人の設立を進めようとすると、本業に手が回らなくなったり、知識不足でミスしてしまったりなど、上記のような後悔をしてしまうおそれがあります。マイクロ法人を設立する場合は、支援実績が豊富な税理士の力を借りながら進めると安心です。
マイクロ法人を設立したあと
マイクロ法人を設立したあとの後悔としてよく挙げられるのは、以下のような内容です。
バーチャルオフィスにかかる費用や、赤字でも発生する法人住民税などの維持コストが思ったよりも負担になった…
個人事業主の場合、自力で確定申告を行えるケースが多いですが、マイクロ法人の場合は、自力で適切な税務申告をするのは難しいケースが多いです。
特に、経理や税務会計の面で専門知識が必要な場面が増え、判断に迷うケースも多いです。また、マイクロ法人を設立した方の中には、ランニングコストに悩まされてしまう方もいらっしゃいます。
マイクロ法人を設立して後悔しないための対策については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人設立で後悔する理由と対策を税理士が徹底解説
マイクロ法人の設立を税理士に依頼する際のポイント
本項目で解説するのは、マイクロ法人の設立を税理士に依頼する際のポイントについてです。
マイクロ法人の設立にあたって、非常に多くの手間がかかります。しかし、本業が忙しく、なかなか時間を捻出できない事業者が多いのも事実です。
そこで、税理士に依頼すれば、マイクロ法人を設立する際の負担が軽減できます。マイクロ法人の設立を税理士に依頼する場合に確認すべきポイントは、次のとおりです。
- 費用やサービス内容が明確か
- 助成金や節税などのアドバイスがもらえるか
- 設立後も継続的なサポートをしてくれるか
上記について順番に見ていきましょう。
費用やサービス内容が明確か
マイクロ法人の設立を税理士に依頼する際に確認すべきポイントの1つ目は、費用やサービス内容が明確かどうかです。
安価に見えるサービスでも、実際は最低限のサポートしか含まれていない場合があります。また、曖昧な料金体系や誤解を招く表現を使っているケースもあるため注意が必要です。
マイクロ法人の設立を税理士に依頼する場合は、マイクロ法人の設立も関する支援実績が豊富な税理士に依頼すると安心です。
助成金や節税などのアドバイスがもらえるか
マイクロ法人の設立を税理士に依頼する際に確認すべきポイントの2つ目は、助成金や節税などのアドバイスがもらえるかどうかです。
マイクロ法人を設立した際、一部の自治体では、条件を満たせば、助成金や補助金が給付されるケースがあります。せっかく税理士へ依頼しているにも関わらず、上記のような情報を提供してもらえない場合、受け取れたはずの助成金や補助金を逃してしまうおそれもあります。
また、役員報酬の適切な金額設定やマイクロ法人特有の節税対策など、専門家ならではのアドバイスを積極的にくれる税理士へ依頼すれば、より安心してマイクロ法人の経営が始められます。税理士選びで失敗しない方法については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
参考:J-Net21(支援情報ヘッドライン)
参考:中小企業庁(補助金等公募案内)
設立後も継続的なサポートをしてくれるか
マイクロ法人の設立を税理士に依頼する際に確認すべきポイントの3つ目は、設立後も継続的なサポートをしてくれるかどうかです。
マイクロ法人を設立したあとは、法改正や制度変更に合わせて、ルールに則った運営が求められ、自分1人で判断するのが難しい場面が多く出てきます。また、マイクロ法人特有の経理や税務会計の処理や、決算業務などは作業の負担も大きく、専門知識がないと税務申告で苦労するケースも少なくありません。
上記のような課題を解決するためには、マイクロ法人を設立したあとも継続的なサポートを提供してくれる税理士を選ぶのが重要です。
関連記事:マイクロ法人に強い税理士は必要?費用相場や後悔しない選び方を解説
関連記事:顧問税理士とは?顧問契約の必要性・メリットや注意点を解説
マイクロ法人の設立に関するよくある質問
最後に、マイクロ法人の設立に関するよくある質問についてご紹介します。マイクロ法人の設立を検討している方は、本項目を参考にしてみてください。内容は随時追記していきます。
マイクロ法人は売上なしでも大丈夫ですか?
マイクロ法人は売上なしでも大丈夫です。
一般的に、事業が軌道に乗るまでの期間は、売上がなかったり、赤字経営だったりするからです。特に、マイクロ法人は節税を目的として設立される場合が多く、役員報酬を最低限に設定したりするため、赤字経営になりやすい傾向があります。
ただし、売上がなかったり、赤字経営だったりしても、決算申告や法人住民税の納付は必要になりますので注意しましょう。また、売上がなかったり、赤字だったりする場合、融資の審査が下りにくくなるおそれがある点にも留意しましょう。
サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリットはありますか?
サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリットとして挙げられるのは、以下のとおりです。
サラリーマンがマイクロ法人を活用して節税するメリットや注意点については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人設立でサラリーマンが節税するメリットや注意点を解説
マイクロ法人の設立を検討する目安は年収いくらからですか?
本記事のマイクロ法人を設立するタイミングの項目でも解説しましたが、マイクロ法人の設立を検討する年収の目安は、以下のとおりです。
個人事業主の課税所得が800万円以上になったとき | 法人税率が所得税率を下回り、税負担が軽減される |
副業の課税所得が500万円以上になったとき | 節税効果や社会的な信用の向上が見込める |
課税売上高が1,000万円を超えたとき | 消費税の免税期間を引き延ばせる(ただし、インボイス制度の影響で免税事業者のメリットは少なくなっている) |
マイクロ法人を設立すべきかどうかの判断に迷われている場合は、一度、税理士に相談してみるのをおすすめします。
夫婦で個人事業主を営んでいますが、マイクロ法人の設立も検討した方が良いですか?
夫婦で個人事業主を営んでいるケースでは、マイクロ法人の設立によって、社会保険料や税金の負担を抑えられる見込みがあるため、マイクロ法人の設立について検討する価値があります。
たとえば、下記の2つのケースと比較して、個人事業主として納付している国民健康保険料や国民年金の保険料よりも、安くなるかどうかを計算してみるのがおすすめです。
- 夫婦のうち片方が、マイクロ法人の役員として社会保険に加入する
- 夫婦2人とも、マイクロ法人の役員として社会保険に加入する
マイクロ法人を設立すれば、節税効果が期待できる一方で、マイクロ法人の設立時や維持などにコストがかかってしまう点に注意しましょう。また、上記の社会保険料の試算や、見込まれる節税効果の算出には専門知識が必要です。
まとめ
今回は、マイクロ法人の正しい設立方法や設立するメリットとデメリットを解説しながら、マイクロ法人の設立が違法と判断されるリスクのあるケースについて詳しく解説しました。
まず、マイクロ法人を設立するうえでの前提条件は、以下のとおりです。
- 個人事業主との二刀流
- 従業員は雇わない
- 異なる業種の事業が2つ以上ある
- 役員報酬を最低限に設定する
次に、マイクロ法人を設立するメリットは、次のとおりです。
- 社会保険料の負担が軽減できる
- 所得税や住民税の節税が見込める
- 消費税の免税事業者になれるケースがある
- 課税所得を抑えられる
- 取引先や金融機関からの信頼が得られやすい
- 資金調達がしやすくなる
- 経費に算入できる範囲が広くなる
マイクロ法人を設立するメリットがある一方で、下記のようなデメリットもあります。
- 設立の手続きに手間がかかる
- 設立の費用がかかる
- 赤字でも法人住民税を納める必要がある
- 維持にコストと手間がかかる
- 将来もらえる年金が減るおそれがある
また、節税効果を期待してマイクロ法人を設立した場合、ペーパーカンパニーや事業重複とみなされないように注意しましょう。マイクロ法人が違法と判断されないためには、以下のような対策が考えられます。
- 外部からの売上の確保
- 法人名義で契約を結ぶ
- 法人名義で書類を作成する
- 法人口座に売上を入金する
- 個人事業主と法人で経理や税務会計の処理を区別