こんにちは、法人化の支援実績が豊富な税理士の植村拓真です。
法人化のメリットやタイミングなどについて調べると、上記のような言葉を見かける機会があります。
具体的な内容は省略しますが、
- 年間の利益が800万円を超える
- 課税売上高が1,000万円を超える
①なら所得税と法人税の税率②なら消費税に注目した場合、法人化したほうが有利です。
ただし、法人化にはまだまだ考慮しなければならない点があるため、よく調べずに法人化して後悔する方がいらっしゃいます。
そこで本記事では、法人化で後悔したくない方向けに後悔するパターンと失敗しないための対策についてお話しします。
法人化で後悔するよくある7つのパターンと対策
弊所では、法人化後に顧問契約のご依頼をいただくケースがあるのですが、中には「法人化をして後悔した」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
法人化にはさまざまなメリットがありますがデメリットもありますので、知らずに会社を設立して後悔するケースもあります。
そこで本項目では、法人化を考えている方向けに、法人化で後悔するよくある7つのパターンと対策を紹介します。
法人化する際の注意点やデメリットでもあるので、会社を設立する前にご覧ください。
①利益が安定せず節税につながらなかった
法人化を後悔する主な理由として、節税効果を期待していたほど得られなかった点が挙げられます。
節税目的で法人化を検討する方が多いですが、十分な計算を行わずに実施してしまうと節税につながらないケースもあります。
たとえば、個人事業主の利益が年間800万円を超えてからすぐに法人化して、法人で利益が落ちてしまった場合、法人税の税率が所得税の税率よりも高くなるので節税につながりません。
個人事業主の所得税は利益に応じて5~45%、一方で法人の法人税は条件にもよりますが15~23.2%で課税されます。
法人化の節税効果は、誰でも一律に得られるものではありません。
法人化に伴う経費や状況によっては損をするケースもあるため、法人化のメリットやデメリット、節税効果を事前にしっかり計算して、十分に検討する必要があります。
②思っていたより自由にお金を使えなかった
個人事業主が法人化すると、個人と法人の財産が区別されます。
売上金は法人が受け取ったお金であるため、たとえご自身の会社のお金であっても自由に使えません。
ひとり社長の法人でも口座から無断で現金を引き出すと、税務上のトラブルにつながる恐れがあります。
法人化後に会社のお金を横領以外で多く使いたい場合は、役員報酬の調整、経費、役員貸付金、賞与、退職金の見直しを行いましょう。
たとえば、役員報酬の調整は法人と個人に現金を適切に残す方法ですが、一定の金額を保つ必要があります。
法人の年間所得が増えると法人税が高くなるデメリットもあるため、金額の調整には注意が必要です。
法人化に伴う財産の区別や税務上の注意点を確認して、個人で使えるお金の調整を行いましょう。
役員報酬を用いた節税方法については、以下の記事でお話ししています。
関連記事:役員報酬の節税効果を最も高める方法|いくらに設定するべき?
③法人化に必要な費用が想像以上に大きかった
法人化にはまとまった資金が必要であるため、事前にシミュレーションせずに会社を設立して「想像以上にキャッシュが出ていってしまった」と後悔する方もいます。
個人事業主が法人化する際にかかる主な費用は、以下のとおりです。
- 収入印紙代(4万円)
- 定款の認証手数料(3万~5万円)
- 謄本の発行手数料(約2,000円)
- 登録免許税(15万円)
会社の形態によってかかる費用は異なりますが、株式会社であれば約25万円かかります。
電子定款を利用すれば収入印紙代の4万円が不要です。
しかし、それでも一度に約20万円もの費用が必要になるので、事前にしっかり法人化にかかる費用のシミュレーションを行なって準備しておきましょう。
④維持費を考慮していなかった
事業が赤字の場合、個人事業主なら所得税と住民税は課税されませんが、法人では住民税を納税しなければなりません。
法人の住民税には法人税割と均等割の2種類あり、法人税割は損益により課税されるため赤字決算ならゼロです。
しかし、均等割は法人の規模に応じて課税されるため、たとえ一人法人でも約7万円を納税しなければなりません。
ですので、節税目的で法人化する際は、維持費として住民税の均等割がかかることを考慮しておきましょう。
また、法人には社会保険への加入が義務付けられており、従業員数に関係なく社会保険料を支払わなければなりません。
社会保険料は給与の約30%で従業員と法人で折半するため、法人は約15%を負担します。
⑤決算申告などの手続きが難しいうえに時間がかかった
法人の税務申告や事務作業などは個人事業主よりも複雑であるため、顧問税理士を探しておけば良かったと後悔する方もいます。
決算申告や社会保険手続き、変更登記などは想像以上に手間がかかるため、すべて自分で行なっていると事業にかける時間が減ってしまいます。
会計事務所にもよりますが、顧問税理士をつけておけば決算申告を代行してもらえるだけでなく、
- 適切な節税対策の提案
- 効率的な経理・財務の管理
- 助成金・補助金の活用支援
- 税務調査の対応
上記のようなメリットがあります。
十分な売上がある方は顧問税理士をつけて、法人経営の安定化や効率化を図ってみましょう。
⑥共同経営者や出資者と経営方針がズレてしまった
法人を共同経営者または出資者と設立している場合、経営方針をご自身で決定できなくなる恐れがあります。
共同経営者または出資者の経営方針が、ご自身の経営方針とズレるケースもあるからです。
また、経営方針のズレから株主総会で役員解任が決議されて、辞めさせられる恐れもあります。
たとえば、3人で法人化しており株式の割合がご自身4割、あとの2人で合計6割であれば、ご自身の意思に関係なく解任させられてしまいます。
複数人での法人化を検討している方は、経営方針のズレが生じないように、他のメンバーと十分に話し合っておきましょう。
合同会社の設立を検討している方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:合同会社で後悔する理由|個人事業主や株式会社と比較して設立を検討
⑦法人の廃業が簡単ではなかった
法人化後、経営がうまくいかず解散や廃業が必要になるケースもあります。
法人の解散や廃業の手続きは煩雑で時間とコストがかかるため、後悔する原因になり得ます。
手続きの主な手順は、以下のとおりです。
- 法務局で解散登記と清算人選出登記を行う(解散日から2週間以内)
- 税務署と市区町村に移動届出書を提出する
解散決議から清算手続きまでに2ヵ月以上が必要で、登録税4万1,000円、官報公告費用約4万円がかかります。
そして、法人に債権や債務を残して解散できません。
資産売却、債権回収して資金調達すれば、通常清算で債務弁済できて解散が成立します。
債務超過で完済できない場合、裁判所への破産申立てが必要です。
債権者数や債務金額によりますが、弁護士費用で50万~150万円が必要になります。
要するに、法人化後に経営がうまくいかず解散や廃業する場合、手続きが煩雑で時間とコストがかかる点が後悔の原因となります。
法人化を検討している方は、解散決議から手続きが完了するまでに長い時間がかかり、費用もかなりかかることを念頭に置いておきましょう。
後悔するよくあるパターンを確認したうえで法人化を検討している方は、会社設立前後の手続きについても確認しておきましょう。
関連記事:会社設立手続きを自分で行う5つのステップ|費用や流れについて解説
法人化(法人成り)にはメリットもある
そもそも法人化とは、個人事業主が会社を設立して、法人に事業や資産、負債などを引き継ぐことを指します。
同じ意味でよく使われる会社設立ですが、会社を設立する点ではどちらも同じです。
しかし、法人化は個人事業主の事業や資産、負債などを新規会社に引き継ぐため、まったく同じ意味ではありません。
会社を一から新規設立する場合、資本金以外はゼロの状態から始まります。
法人化と会社設立の違い自体は重要ではありませんが、法人化では未払金や掛け金などの負債も引き継がれるので覚えておきましょう!
そんな法人化ですが、冒頭でお話ししたとおり、実施すれば税金面でメリットを享受できます。
そして、業種にもよりますが社会的な信用が高まる点でも、実施を検討する個人事業主がいます。
ただし、次の項目で紹介しますが、法人化にはデメリット・注意点もあるため、実施後に後悔している個人事業主の方も多いです。
個人事業主で法人化を検討している方は、メリットだけでなくデメリット・注意点も確認しておきましょう。
個人事業主が法人化するメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しくお話ししています。
関連記事:個人事業主の法人成り|適切なタイミングから注意点まで解説
法人化で後悔したくない方からよくある質問
弊所の関与先様が法人化する際、後悔しないために事前に質問をいただくケースが多いです。
今回、関与先様から質問内容の掲載許可をいただきましたので、法人化を検討している方向けに質問内容と回答を紹介しておきます。
あえて法人化しない人もいますが理由は何ですか?
個人事業主で年間の利益が増えているのに、あえて法人化を選択しない方もいます。
主な理由は以下のとおりです。
- 手続きや事務作業が煩雑だから
- 事業規模を大きくする気がないから
- 売上が落ちたら税負担や維持費がきついから
法人化する際はメリットだけでなくデメリットも考慮したうえで、ご自身の事業に適した形態を選択しましょう。
個人事業主があえて法人化しない理由については、以下の記事で詳しくお話ししています。
関連記事:あえて法人化しない理由とは?したほうがいいケースも解説
法人化を検討する年収の目安を教えてください
繰り返しになりますが、法人化は売上が安定していないと税金や維持費の負担が大きくのしかかります。
ですので、あくまで法人化を意識するキッカケとして年収の目安を紹介しておきます。
本記事の冒頭でも触れましたが、法人化を検討する年収の目安は、以下のとおりです。
- 年間の利益が800万円超え
- 課税売上高が1,000万円超え
①なら所得税と法人税の税率②なら消費税に注目した場合、法人化したほうが有利です。
ただし、法人化にはまだまだ考慮しなければならない点があります。
デメリットや注意点についてよく調べてから、法人化を実施しましょう。
関連記事:法人成りのベストタイミングはいつ?後悔しない会社設立時期の選び方
インボイス制度が導入されますが法人に関係ありますか?
インボイス制度の導入に伴い、法人も適切な記載要件を満たした請求書の発行や保存が必要になります。
事業主は制度導入に向けて、請求書の発行・保存に関する手続きや記載要件について理解、対応しておく必要があります。
インボイス制度については以下の記事で触れていますので、法人化前に確認しておきましょう。
関連記事:インボイス制度とは?法人成りのタイミング・注意点について徹底解説
法人化に税理士は必要ですか?
法人化で税理士が必要かどうかは、企業の規模や状況、リスクと費用などから総合的に判断しましょう。
法人化を実施したからといって、必ず税理士が必要なわけではありません。
自社で税務に対応できる専門知識やリソースがあれば税理士は不要です。
ただし、企業の規模が大きい、顧問税理士がいれば節税や営業に専念できると考える場合は、顧問税理士をつけるメリットを享受できます。
法人化を税理士に相談する必要性については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:法人成りを税理士に相談する必要性|メリットや費用相場も解説