こんちには、会社設立や法人化支援の経験が豊富な税理士の植村拓真です。
事業を始める際、法人か個人事業主のどちらを選ぶべきかで迷っている方がいるのではないでしょうか。
今回はそんな方に向けて、会社(法人)と個人事業主のどちらが得かについて違いやメリット・デメリットとあわせて解説します。
個人事業主が法人成りすべきタイミングについても解説するので、参考にしてみてください。
法人成りを検討している方は、令和5年10月から始まっているインボイス制度についても確認しておきましょう。
関連記事:インボイス制度と法人成り|タイミングから影響と対策まで解説
会社と個人事業主の違いとは?どっちが得?
会社(法人)と個人事業主の大きな違いは、以下のとおりです。
・社会的な信用
・納める税金
・経費にできる範囲
詳細については、後ほど項目ごとに解説します。
具体的な法人と個人事業主の違いについて知る前に、個人事業主と法人の特徴を確認しておきましょう。
事業形態を選択するうえで参考にしてみてください。
個人事業主・フリーランスとは?
個人事業主は、組織に属さず個人で事業を行う人のことです。
事業を開始してから1ヶ月以内に税務署に開業届を提出すれば、個人事業主として認められます。
税務署に開業届を提出しなくても、個人事業主は名乗れます。
しかし、青色申告ができないので注意しましょう。
個人事業の開業届出をダウンロード(国税庁のホームページに移動します)
個人で仕事ごとに契約を結んでいるフリーランスは、個人事業主と混同されがちですが、会社を設立している法人のケースもあります。
個人事業主とは異なり、税務署に開業届を提出する必要はありません。
法人とは?
法人とは、法律によって人と同じく権利能力を与えられた組織のことです。
法人を大きく分けると、以下の2種類に分類されます。
- 営利法人(株式会社・合同会社など)
- 非営利法人(NPO・公益法人など)
個人が法人成りにより法人格を得ると、個人とは別の権利義務の帰属主体となります。
会社を設立して個人の事業を引き継ぎ運営することを、法人化または法人成りといいます。
個人事業主と法人の違いについて、次の項目で詳しく見ていきましょう。
個人事業主の法人成りの詳細は、以下の記事でご確認いただけます。
関連記事:個人事業主の法人成り|適切なタイミングから注意点まで解説
法人と個人事業主の開業手続きの違い
法人と個人事業主の違いについて、まずは開業手続きの違いから解説します。
先ほど解説したとおり、個人事業主は税務署に開業届を提出すれば開業できます。
特に複雑な手続きは行いませんし、フリーランスであれば開業手続きが不要です。
一方、法人の開業手続きは、設立する会社の種類によって方法、登記完了に必要な時間、かかる費用が異なります。
法人成りの主な手続きの手順は、以下のとおりです。
↓
会社名を決定する
↓
定款を作成する
↓
法人の印鑑を作成する
↓
役員報酬を設定する
↓
資本金を銀行に振り込む
↓
登記書類を作成して申請手続きを行う
↓
法人設立届けを2ヶ月以内に提出する
個人事業主の開業手続きに比べると、手順が複雑です。
もちろん、法人成りに手間がかかる分、さまざまなメリットがあります。
法人成り後の手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:会社設立手続きを自分で行う5つのステップ|費用や流れについて解説
法人と個人事業主の社会的な信用の違い
先ほど法人成りの手続きは、複雑で手間がかかると解説しました。
定款や印鑑の作成、資本金の振込、登記手続きなど、個人事業主の開業手続きに比べて作業が多いです。
もちろん、法人成りの手続きに時間がかかる分、社会的な信用を得られるメリットがあります。
事業のために時間やお金をかけることになるので、事業に対する本気度が取引先や金融機関などに伝わるからです。
また、法人が金融機関から融資を受ける際、社会的な信用の高さから審査に通りやすいです。
法人は会社設立時に時間とお金がかかりますし、税金などの維持費もかかります。
しかし、社会的な信用を得て事業拡大につなげられるので、売上が伸びてきている方は法人成りを検討してみましょう。
法人と個人事業主が納める税金の違い
法人と個人事業主では、以下のように納める税金の種類が違います。
法人 | 個人事業主 |
法人税 (最高23.20%) |
所得税 (最高45%) |
消費税 | 消費税 |
法人住民税 | 住民税 |
法人事業税 | 個人事業税 |
中小法人である場合、課税対象の所得額800万円を超える部分に法人税23.30%がかかります。
一方で個人事業主は課税対象の所得額に応じて、最高45%の所得税が発生します。
そして、法人と個人事業主では、経費の範囲が大きく異なります。
個人事業主が法人成りすると、決算時に経費計上できる項目が多くなるからです。
法人成りで増える主な経費項目は、以下のとおりです。
- 役員報酬
- 社宅の家賃
- 出張費
- 生命保険料
など
法人は個人事業主よりも経費項目が多いため、節税に有利です。
経費にできる範囲の違いについては、次の項目で詳しく解説します。
法人と個人事業主の経費にできる範囲の違い
個人事業主が経費計上できる費用は、以下のとおりです。
- 自宅兼事務所の家賃
- インターネットの通信費
- 水道光熱費
- 交際費
など
事業や取引先との付き合いでかかった費用は、税務署から経費として認められます。
ただし、事業とプライベートのどちらでかかったか曖昧な費用は、家事按分を行って処理します。
個人事業主の場合は、交際費に法人のような限度額はありません。
ただし、金額があまりにも大きい場合、税務調査に入られる可能性があるので注意しましょう。
法人の場合、個人事業主が経費にできる範囲に加えて、役員報酬や賞与、退職金なども経費計上できます。
ご自身が会社から受け取れるお金は、給与所得扱いになるからです。
また、法人で生命保険を契約しておくと、契約内容次第ではかかる費用をすべて経費計上できます。
法人は個人事業主に比べるとコストはかかりますが、経費にできる範囲が広いです。
法人の節税対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:【法人版】節税対策の裏ワザ|手元により多くの資金を残す方法
法人と個人事業主のメリット・デメリット
法人と個人事業主の特徴を振り返って、メリットとデメリットを確認しておきましょう。
※赤文字:メリット、青文字:デメリット
事業形態 | 法人 | 個人事業主 |
種類 | 株式会社や合同会社など、さまざまな種類がある | 特になし |
開業手続き | 税務署、地方自治体に届出書を提出する | 税務署に開業届を提出する |
社会的な信用 | 個人事業主より高い | 法人より低い |
納める税金 | 法人税・消費税・法人住民税・法人事業税 | 所得税・消費税・住民税・個人事業税 |
経費にできる範囲 | 個人事業主の範囲に加えて、役員報酬・賞与・退職金なども経費計上できる | 自宅兼事務所の家賃 ・インターネットの通信費 ・水道光熱費 ・交際費 など |
法人は開業時に時間と費用がかかりますし、その後も維持費がかかります。
書類や印鑑の作成時間、登記、納める税金、社会保険料など、コストは個人事業主に比べると高めです。
しかし、その分個人事業主よりも社会的な信用が高く、経費にできる範囲が広いです。
接待交際費は会社の規模により年間800万円まで、接待飲食費の50%と制限はありますが、役員報酬や賞与、退職金も経費計上できます。
課税売上高が大きく伸びてきている個人事業主の方は、事業拡大や節税を意識して法人成りを検討してみましょう。
法人成りのメリット・デメリットの詳細は、以下の記事を参考にしてみてください。
関連記事:法人成りのメリットは責任・信用・節税面にあり!デメリットもあわせて解説
個人事業主が法人成りするタイミング
個人事業主が法人成りする主なメリットは、以下のとおりです。
- 社会的な信用を得られる
- 経費にできる範囲が広がる
課税売上高が伸びて事業を拡大していくなら、法人成りは必須です。
金融機関の融資を受けたり新規取引先を増やしたりするなら、社会的な信用は欠かせません。
そして、課税売上高が伸びれば納税額が増加します。法人成り後に節税して、会社に少しでも多くの資金を残しましょう。
とはいえ、状況によっては法人成りしない方がいいケースもあります。
そこで本項目では、個人事業主が法人成りするタイミングについて解説します。
所得が一定の金額を超える
年間の所得額が800万円を超え始めたら、法人成りを検討してみましょう。
先ほど解説したとおり、個人事業主が納める所得税は、所得額に応じて高くなるからです。
所得税の税率が法人税の税率より高くなる場合は、法人成りを検討してみてください。
所得額が多いほど法人成りするメリットがあります。
課税売上高の増加で消費税の免税事業者となる
もう一つのタイミングは、消費税の課税事業者になるときです。
2事業年度前の課税売上高が1,000万円を超えていると、消費税の納税義務が発生します。
法人成りする場合、2事業年度前がなくなるため消費税の免税事業者となります。
ただし、法人1期目の開始日から6ヶ月間に課税売上高が1,000万円を超えると、2期目は消費税の課税事業者となるので注意しましょう。
法人成りで消費税の免税事業者になる要件については、以下の記事で詳しく解説しています。
個人事業主の法人成りでよくある質問
個人事業主の法人成りでよくある質問で、個人事業主と法人を同時に経営できるかといったものがあります。
結論から言うと、問題なく経営できます。
ただし、個人事業主と法人の事業内容が別でなければなりません。
たとえば、個人事業主として投資業を行い、法人として飲食店を経営することができます。
また、会社は何社でも設立できるので、どんどん事業に挑戦してみてください!
個人事業主と法人の掛け持ちについては、以下の記事をご覧ください。
関連記事:個人事業主と法人を掛け持ちするメリット・デメリットについて税理士が解説
個人事業主とマイクロ法人の二刀流といった選択肢もあります。
関連記事:【マイクロ法人設立で節税】個人事業主と二刀流のメリット・違法性を解説
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