こんにちは、植村会計事務所所長の植村拓真です。
個人事業主が法人成り前後で特定の条件を満たしていると、最長2年間消費税の免税事業者になります。
法人成りのメリットとしてよく挙げられるため、ご存知の方も多いでしょう。
・社会的な信用が得られる
・経費処理の範囲が広がる
・欠損金を10年間繰越できる
・消費税が2年間免除される
・最高税率が約30%法人化にはさまざまなメリットがあります。ただし、住民税の均等割や社会保険料など、会社を維持するには費用がかかるため、いきなり法人化するのは資金的にきついです。
— 植村拓真(公認会計士・税理士) (@Takuma_Uemura_) June 2, 2021
では、消費税の免税事業者になるためには、どんな条件を満たせばいいのでしょうか。
今回は法人成りを検討している方向けに、法人成りで消費税の免税事業者になる要件について解説します。
法人成りによる消費税免税の恩恵を最大限に受けたい方は、以下の記事でインボイス制度の詳細を確認しておきましょう。
関連記事:インボイス制度とは?法人成りのタイミング・影響と対策も解説
法人が納める消費税とは?
まずは法人が納める消費税の基礎知識について解説します。
本項目で解説する内容は、以下のとおりです。
- 発生から納付まで
- 48万円を超えると翌期に中間申告が必要
- 赤字でも納税義務がある
それでは詳しく見ていきましょう。
発生から納付まで
消費税の課税事業者は、消費者に商品・サービスを提供して消費税を預かります。
そして他社から商品を仕入れて、消費税を負担する消費者でもあります。
本来であれば、仕入れで発生した消費税は事業のコストとなり、商品の販売価格に加算されてさらに発生します。
しかし事業で発生した分を控除できるので、納税する必要はありません。
消費税の課税事業者は、決算日の翌日から2ヶ月以内に確定申告書を税務署に提出して、銀行などで消費税を納税します。
↓
商品を販売する
↓
事業で発生した分に控除を適用する
↓
申告・納税する
48万円を超えると翌期に中間申告が必要
法人で前事業年度の消費税の年税額(地方消費税額を除く)が48万円を超える場合、翌期に中間申告が必要です。
中間申告を行う回数は、消費税の年税額によって増加します。
消費税の年税額が48万円超えで1回、400万円超えで3回、4,800万円超えで11回行います。
法人で消費税の免税事業者になる際の注意点
法人で消費税の免税事業者になる際の注意点から解説しておきます。
本記事で解説する条件を満たしても、法人成り後に消費税の課税事業者となるケースがあります。
つまり、消費税の免税事業者になれない可能性があるわけです。
事業年度開始日に特定新規設立法人である場合、消費税は免税されません。
特定新規設立法人とは、以下の条件を満たす会社を指します。
①:新規設立法人の発行済株式の50%超えを、他者(株主)が直接・間接に保有している(特定要件)
②:「①の株主」もしくは「①の株主と一定の特殊な関係にある法人」のいずれかが、
新規設立法人の1期目の基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円を超える
基準期間とは、前々事業年度(2期前)のことです。
課税売上高が5億円を超える大規模会社から出資を受けていると、消費税の免税事業者になれません。
法人成りで消費税の免税事業者になる理由
それでは、法人成りすると消費税の免税事業者になる理由を解説していきます。
本項目で解説する内容は、以下のとおりです。
- 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えない
- 法人成り直後は2期前の基準期間がない
- 法人成りで課税売上高がリセットされる
それでは詳しく見ていきましょう。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えない
消費税の課税事業者の判定基準は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えているかどうかです。
たとえば、2023年の課税売上高が1,000万円を超えている場合、2事業年度後の2025年度は消費税の課税事業者になります。
- 2024年度←(課税売上高が1,000万円を超える)
- 2025年度
- 2026年度←(消費税の課税事業者になる)
法人成り直後は2期前の基準期間がない
法人成り直後の1期目と2期目には、2期前の基準期間がありません。
課税売上高が1,000万円を超えることはないので、法人成りから最長2年間は消費税の免税事業者となります。
参考:国税庁(No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例)
法人成りで課税売上高がリセットされる
課税売上高が1,000万円を超えている個人事業主でも、法人成りすれば消費税の免税事業者となります。
繰り返しになりますが、法人成り直後は基準期間がないからです。
そのため、間も無く消費税の課税事業者となる個人事業主が法人成りすると、過去の課税売上高がリセットされて消費税の免税事業者となります。
たとえば、2023年に課税売上高が1,000万円を超えている個人事業主が、同年に法人成りしたとします。
本来であれば2025年に消費税の課税事業者となりますが、2023年に法人成りすれば2期先の2025年までは消費税の免税事業者です。
個人事業主の法人成りについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:個人事業主の法人成り|適切なタイミングから注意点まで解説
法人成りで消費税の免税事業者となる条件
個人事業主が法人成りすると消費税の免税事業者になる理由について解説しました。
続いては消費税の免税事業者となる条件について解説します。
平成23年に消費税法が改正(施行は平成25年)され、資本金1,000万円未満の会社が消費税の免税事業者となる期間は1期目のみになりました。
2期目は、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 特定期間の課税売上高が1,000万円以下
- 特定期間の給与支払額の合計額が1,000万円以下
- 設立1期目が7カ月以下
それでは詳しく見ていきましょう。
①:特定期間の課税売上高が1,000万円以下
まずは、特定期間の課税売上高が1,000万円以下であるかどうかです。
特定期間とは、以下の期間のことを指しています。
事業形態 | 期間 |
個人事業主 | 前年1月1日~6月30日まで |
法人 | その事業年度の前事業年度開始日以後6ヶ月 |
②:特定期間の給与支払額の合計額が1,000万円以下
特定期間の給与支払額が1,000万円以下の場合も、2期目に消費税の免税事業者となります。
調整方法は以下のとおりです。
調整方法 | 詳細 |
月末締め、翌月支払い | 1月~6月分の給与を5ヶ月分に減らす |
給与の一部を下記の賞与で支払う | 上半期の給与から下半期に回せる部分を下半期に回す |
業務委託を活用する | 業務委託先に外注費を支払って、給与支払額を減らす |
特定期間の上半期に支払う給与は、下半期に回すか業務委託を活用すれば調整できます。
給与支払額の計算は、支払ったものを計算するので発生したものは除外します。
③:設立1期目が7ヶ月以下
法人で会社を設立する際、1期目が7ヶ月以下なら2期目まで消費税の免税事業者となります。
1期目が7ヶ月以下の場合は特定期間の条件に当てはまらないため、①と②の条件を満たす必要はありません。
つまり、特定期間にあたる期間中の課税売上高と給与支払額の合計額が1,000万円を超えていても、消費税の免税事業者となるわけです。
最長1年7ヶ月の間消費税の免税事業者となるので、会社設立の際は1期目の期間も意識してみましょう。
会社設立については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:会社設立手続きを自分で行う5つのステップ|費用や流れについて解説
2期目から消費税を納税した方が得なケース
2期目も消費税の免税事業者に該当する法人でも、課税事業者になる方が得なケースがあります。
それは、仕入税額が売上額を超えるときです。
消費税は以下の式を用いて算出します。
-(マイナス)
商品の税抜き価格に付随して支払った消費税(仕入税額)
そのため、仕入税額が売上税額よりも多い場合、差額が還付されます。
消費税の還付を受けられるのは、消費税の課税事業者だけです。
つまり、消費税の免税事業者は受けられません。
会社設立時に初期投資額が多く売上高が少ない場合は、消費税の課税事業者を選択した方が得する可能性があります。
法人成りすべきかお悩みの方は、以下のページかページ最下部のフォームからお気軽にご相談ください。
弊所では顧問先様からしっかりヒアリングを行ったうえで、法人成りについてご提案させていただいております。
消費税課税事業者届出書を届け出る方法
消費税の課税事業者となる際、納税地を所轄する税務署に消費税課税事業者届出書を提出する必要があります。
本項目ではそう考えている方向けに、消費税課税事業者届出書について解説します。
消費税の課税事業者になることを想定して、内容を確認しておきましょう。
消費税課税事業者届出書について
消費税課税事業者届出書は、会社設立時から消費税の課税事業者である場合、納税地を所轄する税務署への提出は不要です。
2期目に消費税の課税事業者となる場合は、消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出する必要があります。
国税庁:消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書をダウンロードする
わからないことがあれば、税務署の個人課税(第一)部門(個人の場合)、法人課税(第一)部門(法人の場合)に相談してみましょう。
ちなみに、消費税課税事業者届出書を提出して消費税の課税事業者となった場合、課税期間の初日~2年経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、消費税課税事業者選択不適用届出を提出できません。
また、調整対象固定資産を購入した場合も、届出書を提出できないケースがあるので注意しましょう。
届出書を提出し忘れると還付を受けられない
消費税課税事業者届出書を納税地を所轄する税務署に提出しなかった場合、自動で消費税の課税事業者となります。
しかし、消費税の還付を受けるには、消費税課税事業者選択届出書の提出が必要なので注意しましょう。
まとめ
今回は、法人成りで消費税の免税事業者になる要件について解説しました。
法人成り後に最長2年間消費税の免税事業者となる条件について、もう一度振り返っておきましょう。
- 必須:資本金1,000万円未満
- ①:特定期間の課税売上高が1,000万円以下
- ②:特定期間の給与支払額の合計額が1,000万円以下
- ③:設立1期目が7カ月以下
①か②を満たさなくても、③の条件に該当すれば消費税の免税事業者となります。
法人成りするとどの程度節税できるか、そもそも法人成りすべきかなどについては、以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。
弊所では顧問先様からしっかりヒアリングを行ったうえで、法人成りについてご提案させていただいております。