こんにちは、植村会計事務所代表の植村拓真です。
役員報酬は基本的に全額を損金算入できるため、設定する金額次第で節税効果が高くなります。
それゆえに、会社設立時に役員報酬の金額設定で困りますよね。
節税を意識せずに決めてしまった方もいるでしょう。
と考えている方が多いのではないでしょうか。
以前Twitterでもつぶやいたのですが、役員報酬での節税は考えることが多いです。
役員報酬の適切な金額設定って難しいですよね。金額を高くすると、法人税が少なくなって個人に多額の税金がかかります。一方金額を低くすると、反対に法人税が高くなりますし、役員自身の生活が苦しくなります。適切な金額は状況により異なるため、節税シミュレーションを希望される方が多いです。
— 植村拓真@公認会計士・税理士 (@Takuma_Uemura_) June 3, 2021
そこで本記事では、役員報酬の金額設定で悩んでいる方向けに役員報酬の節税対策について効果を最も高める方法といくらが得かをあわせて徹底解説します。
節税効果を高めて、手元に少しでも多くの資金が残るようにしましょう。
役員報酬で節税対策!基本情報と決める手順
役員報酬の基本情報と決める手順について解説していきます。まずは、基本情報と決める手順から確認していきましょう。
役員報酬とは?
役員報酬とは、取締役、会計参与、監査役といった、会社の重要な役職に就いている役員に支払う報酬のことです。
給与との違いは、雇用契約を結んでいる従業員に労働の対価として支払うお金かどうかにあります。
役員は会社と雇用契約を結んでいないため、給与ではなく報酬としてお金が支払われます。
そんな役員報酬は、ルールの範囲内であれば自分の裁量で決められて、うまく設定すれば効果的に節税できる重要な会社の経費です。代表者の給与で、会社設立時に金額を決定します。
その際、先ほど解説したように、高く設定すると会社利益が減って法人税は少なくなります。
・・・と思いがちですが、それは間違いです。
役員報酬を高くすると、役員個人にかかる所得税や住民税、さらに社会保険料も多額になってしまうからです。
結果、法人税は少なくできたけど個人に多額の税金がかかり、会社と役員の全体で見ると税金が高くなっているケースもあります。
というのも、残念ながら正しい考え方ではありません。役員報酬を極端に下げてしまうと、反対に法人税が高くかかります。
そして、極端な話ですが役員報酬をゼロにすると、役員は自身の生活費を払えません。
ですので、役員報酬は会社利益や法人税、役員個人の税金や生活費などを総合的に考えて、絶妙なバランスで設定しましょう。
本記事では以上の点を踏まえて、役員報酬をいくらに設定すれば最も節税できるのかについて解説します。
役員報酬をゼロに設定する際のデメリットや注意点については、以下の記事で詳しくお話ししています。
関連記事:役員報酬をなしにするデメリットと注意点|決める手順も解説
役員報酬の相場
後ほど詳しく解説しますが、役員報酬の金額は同業種や同規模他社と比較して高すぎる場合、税務署から損金算入を否認される恐れがあります。
そのため、役員報酬を活用して節税する際は、相場を考慮して金額を決めなければなりません。
役員報酬の金額を決める際は、相場とバランスの良さを意識しましょう。
そんな役員報酬の相場ですが、本項目では国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査-調査結果報告-」に記載されている、株式会社の役員報酬(2021年時点)の年間平均額を紹介します。
資本金額 | 男性 | 女性 | 合計 |
2,000万円未満 | 667万円 | 375万円 | 581万円 |
2,000万円以上 | 972万円 | 493万円 | 856万円 |
5,000万円以上 | 1,177万円 | 634万円 | 1,086万円 |
1億円以上 | 1,397万円 | 635万円 | 1,313万円 |
10億円以上 | 1,502万円 | 608万円 | 1,426万円 |
※1万円未満は切り捨て
役員報酬の決め方と手順
役員報酬は勝手に変更できません。金額を変更する場合は、株主総会の決議が必要です。
そして、株主総会議事録を作成して保存しましょう。様式や書式に規定はありませんが、会社法施行規則で以下の内容を記載すると定められています。
- 株主総会の開催日時と場所
- 議事の経過の要領および結果
- 出席者の氏名
- 議長の氏名
- 議事録を作成した取締役の氏名
議事録のひな形がネットでダウンロードできるので、印刷して書き込み・押印・保管しましょう。
役員報酬額の変更に関する議事録のテンプレートをダウンロードする
役員報酬を変更した際は、社会保険の手続きが必要なケースもあります。
毎月支払う社会保険料は、標準報酬月額の等級によって決まっているからです。
役員報酬の変更で標準報酬月額が2等級以上変わる場合は、月額変更届を所属の健康保険組合や年金事務所に提出して随時改定を行いましょう。
標準報酬月額の区分については、以下のページから最新情報をご確認ください。
役員報酬とかかる税金との関係性
役員報酬で節税する前に、節税について知っておきましょう。
そもそも節税とは、法律の範囲内で控除や制度を利用して納税額を減らす行為です。
主な節税方法は以下のとおりです。
- 利益自体を減らす
- 利益にかかる税率を下げる
- 税額控除を活用して納税額を減らす
続いて、役員報酬とかかる税金との関係性について解説します。
- 法人税との関係
- 所得税と住民税との関係
- 社会保険料との関係
役員報酬の金額と法人・個人に課される税金、社会保険料は関係しているので、節税するうえでの前提知識として知っておきましょう。
法人税との関係
法人税と役員報酬の関係は以下のとおりです。
法人税 | |
役員報酬を増額 | 減少 |
役員応酬を減額 | 増加 |
上記のように法人税が役員報酬と連動しているのは、税引前当期純利益に法人税率を掛け合わせて算出するからです。
役員報酬の増額は経費の増額と同じですので、法人の利益が圧縮されて法人税が少なくなります。
普通法人(資本金1億円以下)が納める税金の種類と税率は、以下のとおりです。
税金の種類 | 税率 |
法人税 | 23.4% |
地方法人税 | 法人税額×10.3% |
住民税 | 16.3% (東京都23区内の場合) |
事業税 | 3.78% |
※法人税率は2023年7月時点の数字です
※法人税は防衛費増額のために2024年4月から増税予定でしたが、自民党の増税調査会の幹部会合にて、引き上げ困難のため2025年以降に先送りすると確認があったことが報道されました
参考:日本経済新聞(防衛増税の24年実施は見送り 自民税調会長、25年以降に)
上記の税率を合わせたものを実効税率といいます。
その他にも、会社は以下の税金を納税します。
- 固定資産税
- 消費税
- 印紙税
- 復興特別法人税
など
法人には本項目で紹介した約38%の税金が課税されます。設立直後の法人にとっては、かなり大きな税率です。
少しでも節税して法人の資金を確保しましょう。
法人成りに関する詳しい情報は、以下の記事でまとめています。
関連記事:個人事業主の法人成り|適切なタイミングから注意点まで解説徹底解説
所得税と住民税との関係
ご自身の会社から役員報酬を受け取った場合、所得扱いになるため所得税を納税します。
所得税の税率は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
上記のとおり、最低5%から最高45%の7段階あり、受け取る役員報酬と比例して変動します。
所得税 | |
役員報酬を増額 | 増加 |
役員応酬を減額 | 減少 |
社会保険料との関係
役員報酬と社会保険料の関係は、役員報酬と所得税の関係と同じです。
役員報酬の金額に比例して社会保険料の負担額も変動します。
役員報酬と社会保険料の関係は、以下のとおりです。
社会保険料 | |
役員報酬を増額 | 増加 |
役員応酬を減額 | 減少 |
また、健康保険料は標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。
標準報酬月額は第1級5万8,000円から第50級139万円まで、全50等級に区分されています。
詳細は、全国健康保険協会のホームページにてご確認ください。
以上が、役員報酬と法人に課される税金の関係です。
役員報酬を活用して節税する際に必要な知識ですので、覚えておきましょう。
役員報酬で節税対策・変更する際のルールと注意点
役員報酬の損金算入と設定・変更には、税務上のルールと注意点があります。役員報酬を損金算入するには、一定のルールを守らなければなりません。
本項目で解説する内容は以下のとおりです。
- そもそも損金算入とは
- 損金算入できる3つの役員報酬
- 報酬額の変更に関するルール
税務署に否認されない正しい金額設定を行い、役員報酬を活用した節税対策で会社により多くの利益を残しましょう。
そもそも損金算入とは
役員報酬を損金算入するためのルールや注意点の前に、損金算入について解説しておきます。
そもそも損金算入とは、利益を得るためにかかった費用を税務上損金扱いすることです。
利益から差し引ける費用、原価、損失を損金といいます。
原則、役員報酬は損金算入できません。納税額を減らすための金額変更を防止するためです。
ただ、以下のいずれかに該当する場合は損金算入できます。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
次の項目で順番に解説していきます。
損金算入できる役員報酬
定期同額給与
定期同額給与とは、1ヶ月以内の一定期間ごとに支払われる給与が毎月同額である給与のことです。
従業員の給与と同じく定期的に支払われますが、事業年度内に給与額が変動しない点が異なります。
残業代やボーナスなどを支給してしまうと、役員報酬の一部が損金算入できなくなるので注意しましょう。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、事前に税務署に届け出る必要がある給与のことです。
届出は株主総会で作成した議事録の内容に基づいて記載して、税務署に届け出ます。
本来、役員の臨時報酬である役員賞与は損金算入できませんが、税務署に届け出内容と時期と金額が同じであれば損金算入が認められます。
毎年、役員に役員賞与を支給する予定の方は、事業年度ごとに税務署に届け出ましょう。
業績連動給与
業績連動給与とは、会社の業績と連動して支払われる役員報酬のことです。
先ほど解説した定期同額給与や事前確定届出給与とは異なり、報酬額は固定されていません。
ただし、業績連動給与を役員に支給するためには、複雑な要件を満たさなければなりません。
詳しくは、国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」のページをご覧ください。
報酬額の変更に関するルール
すでに役員報酬を設定しており節税目的で報酬額を変更する場合は、以下のルールを守りましょう。
原則、役員報酬の金額は1事業年度に一度しか変更できません。
そして、変更できる期間は事業年度開始から3ヵ月以内です。
変更回数と期間に注意して、計画的に金額の変更を行いましょう。
4ヵ月以降から翌年度までに変更する場合は、以下の点に注意しましょう。
役員報酬を増額 | 元の金額分のみ経費計上できる
増額分には法人税と所得税が課税される |
役員報酬を減額 | 減額後の役員報酬が定期同額給与の基準となる
減額前の超過部分には法人税と所得税が課される |
役員報酬を事業年度開始から4ヵ月以降に変更する場合、金額の低い方が定期同額給与の基準です。
超過部分に法人税と所得税が課されます。
また、以下のケースでは、臨時改定事由として役員報酬の変更が認められるので覚えておきましょう。
- 役員が昇格または降格する
- 従業員が役員に昇格する
- 会社の業績が悪化する
事前確定届出給与に関しては、以下のどちらかの早い日に税務署への申告が必要です。
- 株主総会の決議終了から1ヶ月以内
- 事業年度の開始日から4ヶ月が経過する日
上記のルールを守れなかった場合、役員報酬を活用した節税の効果が最大限に得られませんので注意しましょう。
役員報酬で節税対策して手取りをより多く増やす方法
それでは、具体的な役員報酬で節税対策して手取りをより多く増やす方法について解説します。
本項目で解説する内容は、以下のとおりです。
- 配偶者を役員にして報酬を支払う
- 親族を役員にして報酬を支払う
- 役員社宅制度を利用する
- 小規模企業共済を活用する
- 中小企業倒産防止共済を活用する
- 通勤手当を支給する
順番に見ていきましょう。
配偶者を役員にして報酬を支払う
配偶者を役員にして報酬を支払えば、役員報酬を活用して節税できます。
ご自身と配偶者に役員報酬を分散させれば、トータルで納める所得税を抑えられるからです。
所得税は累進課税制度を採用しているため、受け取る役員報酬が多いほど税率が大きくなります。
課税される所得金額 | 税率 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
たとえば、役員報酬1,000万円をご自身ひとりで受け取る場合、所得税率が33%、所得税は330万円かかります。
一方、ご自身と配偶者で役員報酬を500万円ずつ受け取る場合、1人あたりの所得税率は23%、所得税は115万円(2人で230万円)です。
単純に所得税にのみ焦点を当てて例を挙げましたが、所得税が100万円違います。
配偶者がいらっしゃる方は、配偶者を役員に任命する節税方法を検討してみましょう。
親族を役員にして報酬を支払う
配偶者だけでなく、親族を役員に任命して役員報酬を支払っても節税できます。
たとえば、役員報酬2,000万円をご自身ひとりで受け取る場合、所得税率が40%、所得税は800万円かかります。
一方、ご自身が役員報酬1,400万円、子供2人が300万円ずつ受け取る場合、ご自身の所得税率は33%で所得税は462万円、子供1人あたりの所得税率は10%で所得税は30万円(2人で60万円)です。
今回も単純に所得税にのみ焦点を当てて例を挙げましたが、所得税が278万円違います。
親族であれば姉妹、兄弟、親戚でも問題ありません。
役員社宅制度を利用する
役員社宅制度を利用すれば、役員報酬を活用して節税できます。
役員が会社名義で借りたマンションに社宅として住めば、役員報酬から賃貸料相当額を差し引けます。
役員社宅制度を利用するには特定の条件を満たす必要があるので、事前に詳細を確認しておきましょう。
国税庁ホームページ「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」をご覧ください。
小規模企業共済を活用する
小規模企業共済とは、小規模企業の役員や個人事業主のための退職金制度です。
年間最大84万円までの掛金を所得控除することで、税負担を軽減できます。
掛金は月1,000~7万円までの範囲(500円単位)で自由に選択、変更できるため、会社の業績に合わせて柔軟に金額設定できます。
共済金を受け取るタイミングは、廃業または退職時です。
また、掛金の範囲内であれば貸付制度を利用できるため、急な出費にも対応できます。
中小企業倒産防止共済を活用する
中小企業倒産防止共済とは、経営セーフティ共済とも呼ばれており、中小企業の倒産を防止するための共済制度です。
掛金は5,000~20万円までの範囲(5,000円単位)で自由に選択できて、800万円まで積み立てられます。
そんな中小企業倒産防止共済は、掛金の240万円を上限に損金算入できます。
役員報酬の金額から掛金分を減らせば節税になりますので、万が一に備えて加入を検討してみましょう。
中小企業倒産防止共済の加入には条件がありますので、事前にご確認ください。
通勤手当を支給する
最後に解説するのは、通勤手当を支給する方法です。
単純な方法ですが、通勤手当の支給額を役員報酬の金額から引けば、所得税や住民税を負担する額を減らせます。
自宅と会社が別で公共交通機関や車、バイクなどを利用して出勤する場合、従業員と同じように通勤手当を支給できます。
電車やバス、自家用車で通勤している方は、役員報酬を活用して節税する方法として検討してみましょう。
参考:
役員報酬で節税対策する際に意識するべき4つのポイント
役員報酬を活用して節税するうえで、以下の意識するべき4つのポイントがあります。
- 急な売上の増加に備える
- 極端に高額に設定しない
- ゼロ円にしない
- 個人と法人の税負担を考慮してバランスを取る
節税効果を高めるために、本項目の内容を意識しながら報酬額を決めましょう。
それでは、順番に解説していきます。
①急な売上の増加に備える
繰り返しになりますが、原則、役員報酬の金額は一度決定すると期末までは変更できません。
つまり、急に売上が増加して納税額が増えたからといって再調整できません。
ですので、役員報酬の金額を決める際は急な売上の増加に備えて、年間で売上や原価、経費などがどの程度発生するのかを想定しておきましょう。
②ゼロ円にしない
役員報酬をゼロ円にすると以下のデメリットが生じるので、節税対策を実施する際は注意しましょう。
- 法人の税負担が増加する
- 金融機関や取引先の信用を失う恐れがある
- 社会保険の加入条件を満たせない
役員報酬をゼロ円にすると、個人の節税につながります。
他にも、会社の資金繰りを安定させたり、株主に経営の立て直しに尽力しているアピールにつながったりします。
しかし、一方で法人の税負担が増える、対外的な信用を得られない恐れがある、社会保険に加入できない恐れもあるので注意しましょう。
役員報酬をゼロ円にするデメリットや注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:役員報酬をなしにするデメリットと注意点|決める手順も解説
③極端に高額に設定しない
繰り返しになりますが、役員報酬の金額は同業種や同規模他社と比較して不相当に高い場合、税務署から損金算入を否認される恐れがあります。
そのため、役員報酬を活用して節税する際は相場を考慮しなければなりません。
そして、役員報酬の金額を極端に高額に設定しないほうがいい理由として、個人の税負担が増加することが挙げられます。
法人税を抑えるために所得税が増加してしまっては意味がありません。
累進課税を採用している所得税の税率は、役員報酬の金額が大きいほど法人税の税率より大きくなる恐れがあります。
役員報酬を受け取りすぎると節税効果が低くなるので、バランスを考慮して金額設定しましょう。
④個人と法人の税負担を考慮してバランスを取る
という話ですが、意識しておくべきポイントがこちらです。
- 法人税は、800万円以下の利益には15.0%の税率しかかからない
- 一方、800万円超の利益にかかる税率は23.2%に跳ね上がる
つまり、上記の利益800万円が一つの基準となります。
役員個人にかかる所得税や住民税、社会保険料などの税率をすべて合わせると、800万円以下の法人税率15.0%を超えるケースが多いです。
利益が少ないうちは、役員報酬を少なめに設定してできるだけ会社に利益を残すようにすれば、高い節税効果を見込めます。
そもそも、日本の所得税は累進課税方式を採用しているため、個人が稼ぐほど多くの税金が取られる仕組みとなっています。
そのため、税率が一定である会社に利益を出させたほうが、多く節税できるケースが多いのです。
ただ、利益が800万円を超えると法人税率が23.2%に上がるので、そこまできたら役員報酬の額も一定水準の金額に設定しておいたほうが、全体として最も高い節税効果を見込めます。
役員報酬の節税シミュレーション|効果は社会保険の加入状況で異なる
ここまで、役員報酬を活用した節税対策について解説してきましたが、具体的な数値がないとよくわからない状態ではないでしょうか。
そこで、本項目からは、1人社長の会社で利益が1,000万円までのケースでシミュレーションしてみましょう。
役員報酬をいくらにすれば最も節税できるかについては、役員が社会保険に加入しているかどうかで結果が異なります。
そもそも、役員の社会保険とは健康保険・厚生年金のことです。
役員には2つとも加入が義務付けられているのですが、特定の条件下においては加入していないケースもあります。
特定の条件については複雑なので今回は省略しますが、役員が社会保険に加入していない場合、国民健康保険・国民年金に加入します。
ただ、社会保険料と国民健康保険料・国民年金保険料では計算方法が異なるため、節税効果が見込める役員報酬の金額も変わってくるわけです。
役員報酬について考えるときは、社会保険についても考慮しなければなりません。
さて、ここからは役員が社会保険に加入しているときと加入していないときに場合分けして計算した結果、最も節税できる役員報酬額がいくらなのかのシミュレーションを紹介します。
※所得控除は、社会保険料控除・基礎控除のみ、社会保険料は、東京都で介護保険第2号被保険者に該当する場合で試算した結果です
役員が社会保険に加入している場合
役員が社会保険に加入している場合は、会社利益が800万円を超えるまで、できるだけ役員報酬を少なくすると大きな節税効果が見込めます。
先ほどお話したとおり、利益800万円の基準を意識しましょう。理論上、役員報酬をゼロにすると最も節税できます。
ただし、役員報酬をゼロに設定すると、年金事務所などから社会保険の加入を断られかねません。社会保険料を支払えるとは思えないからです。
現実的には役員報酬をゼロに設定するのは難しいでしょう。
社会保険料の支払いの他に、所得税や住民税、役員個人の生活費の支払いもあるため、どれだけ役員報酬を低く抑えたくても、最低でも月5万円以上は確保しておくのがおすすめです。
一方、会社利益が800万円を超えると、役員報酬にもある程度の金額を配分したほうが良くなります。
たとえば、会社利益が900万円程度の場合、役員報酬を100万円程度にすると最も節税でき、会社利益が1,000万円の場合、役員報酬を200万円程度にすると最も節税できます。
役員が社会保険に加入していない場合
続いて、役員が社会保険に加入していないケースについてお話しします。
会社利益が500万円を超えるまでは、役員報酬の金額=会社利益の金額と設定すれば最も高い節税効果が見込めます。
たとえば、会社利益が300万円の場合、役員報酬を300万円に設定すれば最も節税できるわけです。つまり、会社利益をゼロにして役員に利益を分配したほうが節税できるという結果になります。
上記のようになる理由は、社会保険料(健康保険・厚生年金)は報酬額に比例してどんどん高くなるのに対して、役員が社会保険に加入していない場合、報酬がどれだけ増えても月額約16,000円固定の国民年金に加入することになるからです。
国民年金保険料が固定されていることにより、役員個人にかかる税率も下がるため、結果的に会社より役員に利益を分配した方が節税できます。
一方、会社利益が600万~900万円程度のときは、役員報酬額を500万円程度にすると最も節税でき、会社利益が1,000万円のときは役員報酬額を600万円程度にすると最も節税できます。
役員報酬の節税対策でよくある質問
最後に、役員報酬の節税対策に関してよくある質問と回答を紹介しておきます。
- 役員報酬に税金はかかりますか?
- 役員報酬と給与の違いは何ですか?
役員報酬に税金はかかりますか?
役員報酬は税法上では給与所得と同じです。
会社の役員個人が受け取ると、所得税や住民税といった税金に加えて社会保険料(役員負担分)がかかります。
各種税金と社会保険料は役員報酬から引かれて、残金が役員の手元に残ります。
役員報酬と給与の違いは何ですか?
役員報酬は、会社の役員に労働の対価として支払う金銭のことです。
一方で給与は、会社と雇用契約を結んでいる従業員に労働の対価として支払う金銭を指します。
役員報酬の金額は、一定のルールを守ったうえで変更しなければなりません。
対して給与は、雇用している側とされる側の双方が合意すれば変更できます。
役員報酬の節税シミュレーションを承ります
以上、役員報酬についての決め方について解説しました。
正直、役員報酬は考えるべき要素が色々と絡み合って複雑なので、一概に「この金額に設定したほうがいいです!」とは言えないのが本音です。
自社の現状にピッタリな役員報酬の金額を知りたい場合は、専門家である税理士に状況を詳しくお話ししたうえでご相談していただくのがベストです。
他の法人の節税対策については、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【法人版】節税対策の裏ワザ|手元により多くの資金を残す方法
弊所では『役員報酬をいくらにすればどれくらい節税できるのか』が分かる、節税シミュレーションを承っております。
他の節税対策も徹底したい、安心して相談できる税理士をお探しの方は、以下のフォームよりお気軽にご連絡ください。