こんにちは、1人社長の顧問実績が豊富な税理士の植村拓真です。
個人事業主で売上が伸びている方の中には、節税目的で法人成りをして1人社長の会社を設立する方がいらっしゃいます。
そして節税対策を徹底して、少しでも税金を抑えたいと考える方が多いです。
節税対策を検討する中でよく出てくるのが、法人の家賃を経費にする節税です。
家賃を毎月数十万円支払っている方であれば、特に家賃を経費にできないかどうかを考えるのではないでしょうか。
今回はそんな方に向けて、1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点について税理士が解説します。
関連記事:一人社長(一人会社)の税理士の必要性|費用相場と選び方も解説
1人社長は自宅の家賃を経費にできる
個人事業主が法人成りをして1人社長になり、自宅を事業所として利用する場合、自宅兼事務所の家賃の一部を経費にできます。
自宅兼事業所の家賃のうち経費にできる金額は、個人事業主の家事按分とは異なる算出方法を用いて計算します。
1人社長が住む自宅兼事業所の家賃を経費計上する際、個人事業主のように事業にかかった経費といった概念は適用しません。
法人と役員個人間の契約に基づいて、家賃から経費に該当する金額を算出します。
個人事業主とは経費計上する際のルールが異なり経費に該当する金額が増えるため、1人社長の会社を設立した後、自宅兼事業所に住んで家賃を経費計上する方がいます。
関連記事:法人成りのメリットは責任・信用・節税面にあり!デメリットもあわせて解説
1人社長の自宅の家賃を経費にする方法
1人社長が自宅兼事業所の家賃を支払う方法は、主に法人が負担するケースと役員自身が負担するケースの2パターンあります。
本項目では1人社長の自宅の家賃を経費にする方法について、法人が負担するケースと役員自身が負担するケースのパターンごとに解説します。
- 前提知識:賃貸料相当額とは
- 法人が役員個人に賃貸料相当額を支払うケース
- 役員個人が賃貸料相当額を支払うケース
前提知識:賃貸料相当額とは
まずは1人社長の自宅の家賃を経費にする方法を紹介するうえで重要な、賃貸料相当額について解説しておきます。
1人社長の自宅の家賃を経費計上するためには、法人から借りて役員個人が住んでいる物件に合わせた計算方法を用いて賃貸料相当額を算出する必要があります。
物件ごとの賃貸料相当額を算出する方法を紹介するので、見ていきましょう。
法人から役員個人に貸す社宅や寮が小規模な住宅である
法人から役員個人に貸す社宅や寮が小規模な住宅である場合、賃貸料相当額は以下の式の合計金額です。
(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント(注)会社などが所有している社宅や寮などを貸与する場合に限らず、他から借りて貸与する場合でも、上記の(1)から(3)を合計した金額が賃貸料相当額となります。
引用:国税庁(No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき)
賃貸料相当額に役員個人の負担する金額が満たない場合は法人が多く負担しますし、逆のケースでは給与課税が行われます。
法人から役員個人に貸す社宅や寮が小規模な住宅ではない
法人から役員個人に貸す社宅や寮が小規模な住宅ではない場合、賃貸料相当額の算出方法は物件が法人所有か他者所有かで異なります。
まず法人所有の場合、賃貸料相当額は以下の式の合計金額の12分の1です。
(1)自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12パーセント
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12パーセントではなく、10パーセントを乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6パーセント
引用:国税庁(No.2600 役員に社宅などを貸したとき)
続いて他者所有の場合、賃貸料相当額は法人が物件所有者(家主)に支払う家賃の50%、もしくは上記の計算式にて算出した金額のどちらか高額なほうです。
法人が家主に支払う家賃の50パーセントの金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
小規模な住宅や社会通念上で社宅と認められない豪華社宅の定義については、国税庁のホームページをご確認ください。
法人が役員個人に賃貸料相当額を支払うケース
それでは1人社長の自宅の家賃を経費にする方法について解説します。
まずは法人が役員個人に賃貸料相当額を支払うケースです。
役員個人が持ち家を自宅兼事業所として使用する際、法人が役員個人に賃貸料相当額を支払います。
そして法人は、役員個人に支払った賃貸料相当額を経費として計上できます。
法人が上記の流れで賃貸料相当額を経費計上する際、対応と注意点は以下のとおりです。
- 法人と役員個人間で賃貸借契約を結ぶ
- 自宅と事務所部分を明確に区分できる
- 法人が役員個人に家賃として賃貸料相当額を支払う
- 役員個人は不動産所得を確定申告する
- 賃貸料相当額は類似物件の家賃相場を参考にして決める
役員個人が賃貸料相当額を支払うケース
法人所有の物件に役員個人が住んでいる
法人所有の自宅兼事業所に役員個人が住む場合、賃貸借契約を役員と法人間で結びます。
そして法人は役員個人から賃貸料相当額を家賃として受け取り、自宅兼事業所に関する諸費用を経費計上できます。
自宅兼事業所に関する諸費用は、以下のとおりです。
- 固定資産税
- 減価償却費
- 火災保険料
- 住宅ローンの支払利息
- 修繕費
など
法人が役員個人から受け取る家賃が賃貸料相当額よりも低い場合、差額分は給与として課税されます。
役員個人が契約している賃貸に住んでいる
役員個人が契約している賃貸を事業所として使用する場合、法人で賃貸借契約を結び直します。
そして法人が物件所有者(家主)に家賃を支払い、役員個人の給与から賃貸料相当額を家賃として天引きします。
1人社長の自宅の家賃を経費にする以外の節税対策
最後に1人社長の自宅の家賃を経費にする以外の節税対策を紹介します。
節税対策を実施する際は、以下のようなお金がかからないものから選択しましょう。
- 役員報酬を適切に設定する
- 未払費用を計上する
- 出張手当を支給する
- 自家用車を社用車扱いにする
- 売却損・除却損(廃棄損)・評価損を計上する
売上が伸びてきている1人社長で節税対策を徹底したい方は、お金がかかるものも実施してみてください。
- 短期前払費用を計上する
- 社員旅行を実施する
- 健康診断を実施する
- 経営セーフティ共済に加入する
- 資格取得費を支給する
- 中小企業投資促進税制を使う
法人の節税対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
節税対策を徹底したい方は、あわせてご覧ください。
関連記事:【法人版】節税対策の裏ワザ|手元により多くの資金を残す方法
まとめ
今回は1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点について、税理士が解説しました。
1人社長でも自宅を事業所として使用すれば、家賃の一部を経費計上できます。
少しでも税金を抑えて手元に多くの資金を残したい方は、常識の範囲内で自宅兼事業所の家賃を経費計上してみてください。
極端に高額だと経費計上を否認される恐れがありますので、家賃相場を考慮しつつ、事業で使用している面積に応じた適切な金額を設定しましょう。