こんにちは、WEBマーケティング業の顧問実績が豊富な税理士の植村拓真です。
Web広告運用、SNS運用代行、SEOコンサルなどのWEBマーケティング業で安定した収益を得ている方の中には、そろそろ会社を設立して法人として事業に取り組むべきかとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
WEBマーケティング業の会社設立には税金面や信用面で大きなメリットがあるため、同じように考えている方は少なくありません。
しかし、注意点もあり、すべての方がメリットを享受できるわけではありませんので、慎重に検討する必要があります。
そこで今回は、WEBマーケティング業で会社設立するメリットや注意点を税理士が解説します。
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WEBマーケティングで会社設立するメリット
WEBマーケティング業の方が会社を設立すると、さまざまなメリットを享受できるケースがあります。主なメリットは以下のとおりです。
- 1人でも会社を設立できる
- 節税につながるケースがある
- 社会保険に加入できる
- 決算期を自由に決められる
- 社会的な信用度が向上する
会社設立が節税につながるといった内容を知っている方は多いと思いますが、他にもメリットはあります。
WEBマーケティング業で会社を設立すべきか迷っている方は、設立するかどうかを判断するうえで参考にしてみてください。
1人でも会社を設立できる
WEBマーケティング業の方の中には、個人事業主としての自由な働き方を維持しながら、事業拡大を見据えて法人化を検討している方もいます。
本ケースにおいて会社設立のメリットとして注目されるのが、1人でも会社を設立できる点です。
特に、合同会社であれば取締役会や株主総会の設置義務がなく、最低限の手続きで会社設立できるため、個人の判断でスピーディーに事業を進めたい方に適しています。
1人で設立した会社でも法人としての法的地位を持つため、契約面や信用力の面で有利です。
さらに、業務内容の決定権や利益の分配なども自由に設定できるため、個人事業主と同じ感覚で意思決定を行いながら、法人の枠組みを活かした事業運営ができます。
節税につながるケースがある
WEBマーケティング業で会社を設立すると、税制上の仕組みをうまく活用すれば、手元に残る資金を増やせる見込みがあります。
いくつかあるので、順番に見ていきましょう。
所得が多いほど節税につながる
まずは、個人事業主と法人の税率構造の違いです。
個人事業主のWEBマーケターに適用される所得税の税率は、累進課税制度が適用されて最大45%まで上がります。
一方、法人のWEBマーケターに適用される法人税は所得800万円以下で15%程度、超過分は約23.20%とされており、利益水準によっては税率が下がるケースがあります。
役員報酬に給与所得控除が適用される
WEBマーケターが会社を設立すると、給与所得控除を活用できる点も大きな違いです。会社があなた個人に支払う役員報酬には給与所得控除が適用されて、課税対象となる所得を圧縮できます。
さらに、会社から支給される退職金は損金扱いできるため、事前準備すれば将来の資金計画にも役立ちます。
赤字の繰越期間が最大10年に伸びる
最後は赤字の繰越制度についてです。個人WEBマーケターの場合、事業で生じた赤字を最大3年間しか繰り越せません。
しかし、法人のWEBマーケターであれば最大10年間繰り越せるため、より長期間、黒字と相殺して納税額を抑えられます。
以上のとおり、所得にかかる税率の違いや控除制度の有無、経費処理の幅、赤字の繰越期間など、会社設立には収支構造に大きく影響する要素がいくつもあります。
一定以上の売上を得ていたり、事業規模の拡大を計画していたりするWEBマーケティング業の方であれば、享受できる会社設立のメリットは税金面で大きいです。
社会保険に加入できる
WEBマーケティング業の方が会社を設立すると、健康保険と厚生年金保険への加入義務が発生します。
そのため、社会保険料の負担がデメリットとして紹介されがちですが、メリットがないわけではありません。
原則、個人は国民健康保険と国民年金に加入しますが、会社を設立すれば社会保険の制度を利用できます。
厚生年金に加入すると、将来受け取る年金額が国民年金に比べて増える見込みがあり、老後の生活資金を安定させられます。
社会保険に加入できれば従業員にとってもプラスになるため、リクルートのハードルを下げる手段としても有効です。
さらに、健康保険には傷病手当金や出産手当金など、就労が難しくなった際の経済面での支援制度が整っており、万が一に対する備えにもなります。
WEBマーケターの事業と生活の両面で安定を求める方にとって、社会保険の適用は検討すべき要素です。
関連記事:役員報酬なしの社会保険の加入義務は?合同会社の一人社長向けにも解説
決算期を自由に決められる
会社設立には、決算期を自由に設定できるメリットもあります。
個人事業主の場合、所得は1月1日から12月31日までの暦年で集計されるため、事業の収支がどの時期に集中しているかに関係なく、申告と納税のスケジュールは固定されています。
一方、法人の決算期は会社設立時に事業年度を任意で決められるため、固定されていません。
たとえば、広告収入が年末に偏る方であれば、年度末を3月や6月に設定すれば、納税までの期間に時間的な余裕が生まれて、資金繰りや経費の調整が行いやすくなります。
さらに、設立日と決算期の組み合わせ次第では、消費税の免税期間を最大限に引き延ばせるケースもあります。
創業初期に手元資金を厚く確保したいWEBマーケター業の方にとって、決算期を柔軟に設定できる仕組みは、節税と資金計画の両面で役立つ手段です。
関連記事:【失敗しない】決算期の決め方|変更方法から調べ方まで解説
社会的な信用度が向上する
事業者としての社会的な信用度が高まる点も、WEBマーケティング業の方が会社を設立する大きなメリットです。
法人の登記情報は法務局やネットにて手続きを行えば第三者でも確認できて、事業の継続性や組織の信頼感を示す根拠になるからです。
WEBマーケティング業の方が法人格を有していると、大手企業との取引がスムーズに進みやすくなるケースがあります。
実際に、法人のみと契約している企業もあるため、個人WEBマーケターのままでは得られなかった商談の機会を得られるケースも少なくありません。
社会的な信用度の向上は資金調達やリクルート、業務提携などといった取り組みにもつながります。事業規模の拡大を予定しているWEBマーケター業の方は、会社設立を検討してみましょう。
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WEBマーケティングで会社設立する際の注意点
WEBマーケティング業の方の会社設立には、節税や社会的な信用度の向上などといった多くのメリットが期待される旨の内容を解説しました。

上記のように考えている方もいると思われますが、会社設立に伴って注意しておくべき点もあります。
- 複雑な事務作業の量が増加する
- 会社設立にまとまった費用がかかる
- 社会保険料や法人住民税の均等割がかかる
なんとなくメリットを享受できるからと会社を設立すると、あとから後悔するケースがあります。
WEBマーケティング業で会社設立を検討している方は、本項目の内容に目を通したうえで慎重に検討しましょう。
複雑な事務作業の量が増加する
WEBマーケティング業の方が会社を設立して法人になると、社会的な信用力の向上や節税効果などが期待される一方で、事務作業の複雑さが増す点には注意が必要です。
個人の場合、確定申告と簡単な帳簿付けで完結する場面が多いですが、法人は手続きや管理項目が格段に増加します。
会社設立後は、税務署や自治体への各種届出をはじめ、毎月の仕訳入力、源泉徴収の管理、年1回の決算報告、さらには法人税や消費税、住民税の申告と納付などが必要です。
たとえば、節税を意識した役員報酬の設定や株主総会の議事録作成といった法人独自の対応も発生して、書類作成の正確性と期限遵守が重要となります。
各種業務は、WEBマーケティングの企画や運用とはまったく異なるスキルが必要になり、事業に集中する時間が削られるおそれもあります。
効率よく事業に取り組みたい方は、会社を設立した直後から税理士に相談して、適切な節税対策や記帳代行、申告支援などの活用を検討しましょう。
会社設立にまとまった費用がかかる
会社設立の手続きを進める際、まとまった初期費用がかかります。
たとえば、合同会社を設立する場合は登録免許税で6万円かかり、株式会社では最低でも15万円以上が必要です。さらに、株式会社は定款認証が必要であるため、公証人への手数料も追加で発生します。
定款を紙で提出する際の費用は、収入印紙代として4万円かかりますが、電子定款を活用すればかかりません。さらに、法人印鑑の作成、法人名義の銀行口座の準備、印鑑証明の取得などで細かい費用もかかります。
- 合同会社の登録免許税:最低6万円
- 株式会社の登録免許税:最低15万円
- 定款認証の手数料:1.5万〜5万円
- 収入印紙代(電子は不要):4万円
- 法人印鑑の作成などで諸々の細かい費用
WEBマーケティング業で会社を設立する際、創業初期は広告費や人件費、ツールの導入など事業に必要な支出も多くなりがちですので、売上が不安定な状態で手続きを急ぐと、運転資金の圧迫につながりかねません。
WEBマーケティング業の会社設立はタイミングが重要です。
社会保険料や法人住民税の均等割がかかる
WEBマーケティング業の方が会社を設立する際は、固定の維持費についても事前に把握しておきましょう。
代表例としてまず挙げられるのが社会保険料です。法人が役員に報酬を支払う場合、一人社長で従業員がいない場合でも社会保険(健康保険と厚生年金)への加入義務が発生します。
保険料は法人と個人で半分ずつ負担する仕組みで、国民健康保険と国民年金を全額自己負担していた個人事業主時代と比べて、個人側の負担は軽減されるケースもあります。
一方、法人での負担額が増加するため、事業全体でのコストは上がる点に注意が必要です。さらに、法人住民税には、事業が赤字でも毎年発生する均等割という制度があります。
たとえば、資本金1,000万円以下で従業員50人以下の法人では、年間約7万円(都道府県民税の均等割が2万円+市町村民税の均等割が5万円)が課税されます。
資本金 | 都道府県民税の均等割 | 市町村民税の均等割 |
1,000万円以下 | 2万円 | 5万円 |
引用:総務省(法人住民税)
WEBマーケティング業は初期費用を抑えて始めやすいですが、会社設立による維持費が毎年発生する点にも注意しましょう。
関連記事:会社と個人事業主はどっちが得?違いやメリット・デメリットを比較して法人化を検討
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WEBマーケティングで会社設立を検討するタイミング
最後に、WEBマーケティングで会社設立を検討するタイミングについて解説します。主なタイミングは以下のとおりです。
- 事業規模の拡大を検討するとき
- 年間所得が安定して700万以上あるとき
事業規模の拡大を検討するとき
WEBマーケティング業の方が会社設立を検討するタイミングとして、事業規模の拡大を目指すときが適しています。
たとえば、外部資金を活用して広告運用の規模を広げたり、スタッフを雇ってサービスの幅を広げたいと考えた場合、会社設立によって得られる社会的な信用度は重要な要素です。
個人のままでは、金融機関からの借入や投資家との交渉において信用面で不利になる場面が多く、資金調達のハードルの高さを感じるケースもあります。
そして、法人のみを対象とした補助金や助成金も多くありますし、資金面の支援策を受けやすくなる点も見逃せません。
事業規模の拡大を検討しているWEBマーケティング業の方は、会社設立を検討しましょう。
年間所得が安定して700万以上あるとき
WEBマーケティング業の方が会社設立を検討する目安として、年間所得が安定して700万円を超えているときが挙げられます。
個人に対して適用される所得税は累進課税制度となっており、所得が増えるほど税率が上昇します。
たとえば、所得が695万円を超えると税率は23%に達して、社会保険料や住民税も加えると、可処分所得が想像以上に減少しかねません。
一方、法人税は資本金1億円以下の中小法人であれば所得800万円以下の部分に対して15%、超える部分で23.20%となっており、一定の水準で税率が変動します。
つまり、個人のまま事業を続けるよりも会社設立を選択したほうが、所得に対する税負担を抑える構造が作りやすいです。
年間所得が安定して700万円を超えている段階で税理士と相談して、会社設立による節税効果をシミュレーションしてもらいましょう。
関連記事:法人成りのベストタイミングはいつ?後悔しない会社設立時期の選び方
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まとめ
今回は、WEBマーケティング業で会社設立するメリットや注意点を税理士が解説しました。
最後に本記事の内容をおさらいしておきましょう。WEBマーケティング業の方が会社設立するメリットは、以下のとおりです。
- 1人でも会社を設立できる
- 節税につながるケースがある
- 社会保険に加入できる
- 決算期を自由に決められる
- 社会的な信用度が向上する
会社設立には注意点もあるので、考慮したうえで判断しましょう。
- 複雑な事務作業の量が増加する
- 会社設立にまとまった費用がかかる
- 社会保険料や法人住民税の均等割がかかる
また、会社設立を検討するタイミングや目安は、以下のとおりです。
- 事業規模の拡大を検討するとき
- 年間所得が安定して700万以上あるとき