こんにちは、一人社長の顧問実績が豊富な税理士の植村拓真です。
弊所では事業が安定してきた個人事業主やフリーランスの方から、節税対策に関するご相談をいただくケースがよくあります。節税対策の一環として、従業員を雇用せず自分一人で会社を経営する、一人社長を検討されている方も多くいらっしゃいます。
上記の方々からよく訊かれるのが、一人社長の経費に関する下記のような質問です。



本記事をご覧いただいている方の中にも、上記のように思っている方がいらっしゃるのではないでしょうか。一人社長になれば、個人事業主よりも経費で落とせる範囲は広がりますが、なんでも経費で落とせるわけではありません。
そこで今回は、一人社長が経費で落とせるものを一覧にして、経費計上に制限があるものや経費で落とせないものとあわせて解説します。
一人社長が経費で落とせるものの範囲や条件に関して詳しく知りたい方は、本記事を参考にしてみてください。
なお、弊所では会社の設立と顧問契約をあわせてご依頼くださる方向けに、合同会社1.6万円、株式会社13.8万円のフルサポートプランを提供させていただいております。
一人社長が経費で落とせるもの一覧
本項目では、一人社長が経費で落とせるものについて一覧で解説します。
- 給与賃金
- 減価償却費
- 消耗品費
- 通信費
- 広告宣伝費
- 地代家賃
- 水道光熱費
- 旅費交通費
- 接待交際費
- 会議費
- その他
それでは、1つずつ見ていきましょう。
給与賃金
一人社長には通常の従業員給与ではなく、役員報酬を支給します。役員報酬に関しては本記事の後半で解説しますが、一定の範囲で経費として落とせるため、法人税を抑える効果が期待できます。
また、役員報酬は給与所得とみなされるため、給与所得控除の対象です。上記の結果、源泉徴収の所得税や特別徴収の住民税、社会保険料の負担軽減にもつながります。
参考:国税庁(給与賃金)
減価償却費
減価償却とは、資産の価値が時間とともに減少すると考え、購入額を減価償却資産の耐用年数にわたって分割して経費計上する方法です。
耐用年数が1年以上で、購入額が10万円以上のものが、原則として、減価償却資産に該当します。上記の理由から、購入した事業年度に全額を経費で落とせないケースがあるので注意しましょう。
参考:国税庁(減価償却費)
参考:国税庁(No.2100 減価償却のあらまし)
参考:国税庁(主な減価償却資産の耐用年数表)
消耗品費
消耗品費とは、事業活動で使用する文房具やコピー用紙など、日常的に発生する支出を指します。購入額が10万円未満であれば、パソコンやプリンタなども消耗品費として扱われます。
- ボールペン
- シャープペン
- 鉛筆
- ノート
- クリアファイル
- 印鑑
- 封筒
- 名刺
- 請求書伝票
- 領収書伝票
- コピー用紙
参考:国税庁(消耗品費)
通信費
通信費は業務で必要な通信手段にかかる支出を指します。通信費として該当するものは、主に以下のとおりです。
- 電話代
- インターネット利用料
- クラウドサービス利用料
- サーバ利用料
- 切手代
- 郵送にかかる費用
個人事業主の場合、通信費は事業用と私用とを按分したうえで、経費計上する必要があります。一方、一人社長の場合は法人という性質上、丸ごと経費で落とせるケースもあります。
参考:国税庁(通信費)
広告宣伝費
広告宣伝費は自社の製品やサービスを広く認知させるための費用を指します。広告宣伝費として該当するものは、具体的に以下のとおりです。
- 新聞や雑誌への広告掲載料
- SNS広告の出稿料
- バナー広告の出稿料
- 折込チラシの印刷代
- 動画広告の制作費用
- ロゴ入りグッズやノベルティの制作費用
- SNS運用代行の依頼費用
事業のPR活動に伴う幅広い支出を経費として適切に落とせば、高い節税効果が期待できます!
参考:国税庁(広告宣伝費)
参考:国税庁(No.5260 交際費等と広告宣伝費との区分)
地代家賃
地代家賃とは、事業活動に必要な事務所や店舗の家賃、月極駐車場の使用料などを指します。具体的には以下のとおりです。
- 事務所の家賃
- 自宅兼事務所の家賃
- 店舗の家賃
- 倉庫のレンタル料
- 月極駐車場代
- トランクルームのレンタル料
- 資材置き場の賃借料
- 社宅の家賃
上記の費用は事業活動として使用される場合に経費として落とせます。
ただし、プライベート部分との明確な区別が必要です。一人社長が自宅の家賃を経費で落とす方法については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点を税理士が解説
参考:国税庁(地代家賃)
参考:国税庁(No.2600 役員に社宅などを貸したとき)
水道光熱費
水道光熱費とは、事業活動に必要な下記のような費用を指し、経費として落とせます。
- 水道代
- 電気代
- ガス代
- 灯油代
オフィスや店舗で使用する分は全額を経費で落とせますが、自宅兼事務所の場合は事業用と私用とを区分し、使用時間もしくは日数を基準とした按分が必要です。
水道光熱費は電気代、水道代、ガス代など個々に分けて経費の管理を行うと、どの項目にコストがかかっているのかを把握しやすいのでおすすめです。
参考:国税庁(水道光熱費)
旅費交通費
旅費交通費は取引先への訪問といった出張時の交通費や宿泊費などが該当し、事業活動として必要な支出であれば経費で落とせます。
また、業務の都合で海外へ出張する場合にも旅費交通費として経費で落とせます。旅費交通費として該当するものは、具体的に以下のとおりです。
- 新幹線の乗車料
- 航空券代
- 電車代
- バス代
- タクシー代
- レンタカー代
- 高速道路料金
- ガソリン代
- 駐車場代
- 宿泊費
- 出張日当
参考:国税庁(旅費交通費)
接待交際費
接待交際費とは、取引先や仕入先、顧客など、事業活動に関連する人や企業との接待や贈答などに使った費用を指します。具体的には以下のような支出が接待交際費に該当します。
- 取引先との会食でかかった費用
- 取引先とのゴルフ代
- 取引先への手土産代
- 取引先への慶弔金
- 取引先を招待して行うパーティー代
- 顧客へのお中元代やお歳暮代
- 顧客を招待して行う旅行代
上記は事業活動に必要であれば経費として落とせますが、税法上の制限があり全額を経費にできるわけではありません。
詳細は後述の一人社長の経費計上で制限があるものの項目をご参照ください。また、事業活動に関係のない支出やプライベートな交際費用は、接待交際費として認められません。
参考:国税庁(接待交際費)
参考:中小企業庁(交際費課税の特例)
会議費
会議費とは、会議や打ち合わせ、取引先との商談をする際にかかる支出を指します。たとえば、以下のような支出です。
- 会議室の利用料
- 会議で提供する弁当や飲料
- 会議の資料作成にかかる費用
1日がかりの会議で昼食を伴うような場合、1人あたり10,000円以下であれば会議費として経費で落とせます。
事業活動で必要な会議に関連する費用を、経費で落とす場合に上限はありませんが、税務上のリスクを回避するためにも会議の目的や内容は明確に記録しておくのが重要です。
その他
上記以外にも一人社長が経費で落とせるものは、下記のとおりです。
一人社長と個人事業主の経費計上における違い
本項目では、一人社長と個人事業主の経費計上における違いについて、下記の2点に分けて解説します。
- 給与の概念の有無
- 個人事業主だと経費計上できないもの
上記2点について順番に見ていきましょう。
給与の概念の有無
一人社長と個人事業主の大きな違いは給与の概念の有無です。
個人事業主の場合、事業活動から得られた利益はそのまま自分の資産となるため、自分に対して給与や報酬を支払う考え方はありません。
一方、一人社長になるために会社を設立すると、法人格を獲得するので、事業活動から得られた利益は会社の資産として扱われます。
上記の理由から、一人社長の場合、会社から役員報酬の形で給与所得を受け取ります。役員報酬は条件を満たせば経費で落とせるため、節税効果が期待できるのも一人社長のメリットの1つです。
関連記事:役員報酬はいくらが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
個人事業主だと経費計上できないもの
個人事業主は性質上、事業とプライベートの区別が曖昧なため、事業活動に必要な支出かどうかをシビアに見られるからです。
たとえば、一人社長は生命保険料を経費で落とせるケースがありますが、個人事業主だと経費で落とせません。
また、家賃や自動車にかかる費用についても、個人事業主は家事按分して経費計上する必要があるため、全額を経費で落とせません。
一方、一人社長の場合、法人名義で契約ができるようになるため、家賃も自動車にかかる費用も丸ごと経費にできるケースがあります。
以上のように、一人社長は法人格を有して事業とプライベートの区別が明確なため、個人事業主よりも経費で落とせる範囲が広いです。
参考:国税庁(No.2210 必要経費の知識)
参考:J-Net21(生命保険のしくみと税務)
参考:国税庁(第3節 保険料等)
経費に関する基礎知識
本項目では、経費に関する基礎知識について、以下の4つに分けて解説します。
- 経費とは
- 会計上の経費
- 税法上の経費
- 支出が経費で落ちるとは限らない
上記について1つずつ見ていきましょう。
経費とは
経費とは、事業活動を行ううえで必要な支出を指し、経常費用ともいわれます。法人税法では損金とも呼ばれ、益金から差し引ける費用を意味します。
上記の費用を経費として落とせば課税所得が減らせるため、税負担を軽減が期待できます。個人事業主や一人社長に関わらず、経費で落とせるのは事業活動において必要な支出のみですので、適切な経費計上を行いましょう。
次の項目以降では、会計上と税法上の経費の違いについて詳しく解説します。
参考:国税庁(No.2210 必要経費の知識)
参考:J-Net21(企業会計上の利益と法人税法上の所得)
会計上の経費
会計上の利益は、収益から費用を差し引いて算出します。上記の費用が会計上の経費とされており、企業会計原則や簿記のルールに基づいて計上されるものです。
会計上の経費は、原則として全額が計上されます。ただし、会計上の経費が税法上の経費として認められるとは限りませんので注意しましょう。
上記の理由については次の項目で解説します。
参考:J-Net21(企業会計上の利益と法人税法上の所得)
参考:J-Net21(決算書の作成にあたり、最低限守るべきルールはありますか?)
参考:e-Gov(会社法 第四百三十一条)
税法上の経費
繰り返しになりますが、税法上の経費は損金とも呼ばれ、先に述べた会計上の経費とは異なる概念です。損金は課税所得を計算する際に益金から差し引くもので、一人社長の納税額に影響を及ぼします。
ただし、損金として認められるのは税法で規定された範囲内の支出に限られます。たとえば、接待交際費や役員報酬などは損金算入にあたって条件があるので注意が必要です。
上記については本記事の一人社長の経費計上で制限があるものの項目をご参照ください。
上記の判断には専門知識が必要なため、不安に感じる場合は税理士に相談してみるのをおすすめします。
参考:J-Net21(企業会計上の利益と法人税法上の所得)
参考:財務省(法人課税に関する基本的な資料)
関連記事:一人社長(一人会社)の税理士の必要性|費用相場と選び方も解説
支出が経費で落ちるとは限らない
会計上の経費と税法上の経費(損金)は、必ずしも一致しないのを念頭に置きましょう。会計上は経費であっても、損金に該当しないケースがあるため、事業活動における支出のすべてが経費で落ちるとは限らない点には注意が必要です。
上記を損金不算入といい、一定の要件を満たしていない役員報酬や接待交際費の一部などは損金不算入とされています。繰り返しになりますが、詳細については本記事の一人社長の経費計上で制限があるものの項目をご参照ください。
以上のような違いから、会計上の利益が0円だとしても、損金不算入に該当する支出によって課税所得が生じ、法人税を支払うケースもあります。
繰り返しになりますが、一人社長になると経費を活用した節税効果が期待できる一方で、個人事業主よりも経理や税務会計に関する処理が複雑です。
参考:J-Net21(企業会計上の利益と法人税法上の所得)
参考:財務省(法人税の益金・損金の計算に関する資料)
関連記事:法人化で一人社長になるとは?メリット・デメリットや個人事業主との違いを税理士が解説
一人社長の経費計上で制限があるもの
本項目では、一人社長の経費計上で制限があるものについて解説します。
一人社長の経費計上において制限があるものは、下記のとおりです。
- 役員報酬
- 接待交際費
- 寄付金
- 同族会社との取引で発生する費用
それでは、順番に見ていきましょう。
役員報酬
役員報酬は一定の要件を満たした支給方法でなければ、経費で落とせません。
経費で落とせる役員報酬の支給方法は、次のとおりです。
定期同額給与 | 一定額を毎月支払う |
事前確定届出給与 | あらかじめ定めた支給額どおりに支払う |
業績連動給与 | 会社の利益に応じて支払う |
上記は本店所在地を所轄する税務署に事前の届出が必要です。また、報酬額の勝手な変更や届出と相違のある支給などが生じた場合、経費で落とせないおそれがありますので注意しましょう。
上記の詳細については国税庁のホームページをご参照ください。
関連記事:合同会社の一人社長が給料(役員報酬)を設定する際のルールと決め方
参考:J-Net(役員報酬はどのように決めればよいのでしょうか?)
接待交際費
繰り返しになりますが、接待交際費とは、取引先との関係を深めるための接待や贈答などにかかる費用を指します。事業活動上の必要性があれば、飲食だけでなく、スポーツ観戦や冠婚葬祭などに関する費用も対象です。
事業活動の一環として支出した場合、経費として損金算入できます。ただし、証憑書類として領収書が必要だったり、損金算入できる額に下記のような上限が設けられていたりしますので注意が必要です。
法人が支出した交際費等は、原則として、損金の額に算入しないこととされていますが、中小法人は、①800万円までの交際費等の全額損金算入②接待飲食費の50%の損金算入(注1)の選択適用が認められています(注2)
注1)接待飲食費の50%の損金算入の適用は中小法人以外の法人(事業年度終了日における資本金の額等が100億円以下の法人に限る)にも認められています。
注2)適用期間は令和6年3月31日までに開始した事業年度です。
引用:中小企業庁(交際費課税の特例)
なお、飲食にかかる費用を参加した人数で割った額が1人あたり10,000円以下だった場合、接待交際費の範囲からは除かれます。節税対策のために接待交際費を経費で落とすケースでは専門知識も必要なため、税理士へ相談しながら実施するのがおすすめです。
参考:国税庁(No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算)
参考:国税庁(第1款 交際費等の範囲)
参考:J-Net(交際費等の損金算入の特例)
寄付金
寄付金とは、組織や団体に対して無償で提供する金銭や資産を指し、協賛金や見舞金なども含まれます。寄付金の経費で落とす場合、国や地方公共団体への寄付は経費で全額落とせますが、その他に関しては下記のような規程が設けられています。
寄付と似た概念に贈与がありますが、違いとしては、贈与は契約の一種であるのに対し、寄付は契約なしに行われる点です。なお、寄付金ではなく広告宣伝費や福利厚生費として扱われるケースもありますので、判断に迷う場合は税理士に相談してみましょう。
同族会社との取引で発生する費用
同族会社との取引で発生する費用を経費で落とす場合、税務署から非常に厳しく精査されるおそれがあるため注意が必要です。同族会社の行為又は計算の否認に関する判決は複数あり、下記のように不服申立てを行っても判決が覆らないケースは多くあります。
所得税法第157条に規定する同族会社の行為又は計算の否認は、同族会社たる法人の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効なものであっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地から税務計算上これを否認し、通常あるべき行為又は計算に引き直して税法を適用するものである。ところで、原処分庁が算定した同業者の不動産管理料割合は適正と認められ、これを基に算出された適正管理料の額に基づいて計算した請求人の所得税額は請求人の申告所得税の額に比べて著しくかい離していることが明らかであり、本件不動産管理委託契約に基づく行為又は計算は、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていると認められるから、請求人の不動産所得の金額を所得税法第157条を適用して算定した原処分は相当である。
引用:国税不服審判所(過大な不動産管理料につき、所得税法第157条を適用して否認した更正は適法であるとした事例|平成4年11月19日裁決)
同族会社との取引で発生する費用を経費で落とすケースでは、妥当性や正当性を証明できなければ、税務上のリスクが高まります。上記のような場合、税理士に相談しながら進めるのが安心かつ確実です。
関連記事:税務調査における修正申告・更正とは?違いについて税理士が解説
参考:e-Gov(法人税法 第百三十二条|同族会社等の行為又は計算の否認)
参考:国税庁(税務署長の処分に不服があるとき)
一人社長が経費で落とせないもの
本項目では、一人社長が経費で落とせないものについて解説します。
一人社長が経費で落とせないものは、以下のとおりです。
- 罰金
- 債務が確定していないもの
- 家族旅行の費用
上記について1つずつ見ていきましょう。
罰金
上記は社会的なペナルティの意味を薄れさせないための措置です。具体的には、駐車違反や速度超過による交通反則金、国税や地方税の支払い遅延による延滞税などが経費として落とせません。
なお、社会保険料の延滞金については法人税法第55条に規程がないため、例外的に経費で落とせるとされていますが、納期限を守るのが大切です。
参考:国税庁(第6款 罰科金)
参考:国税庁(No.5300 租税公課等の損金算入の可否と租税の損金算入時期)
参考:国税庁(No.2210 必要経費の知識)
債務が確定していないもの
債務が確定していないものについては下記のように規定されているため、事業年度中に経費で落とせませんので注意しましょう。
各事業年度の所得の金額の計算上、その事業年度の損金の額に算入される金額は、別段の定めのあるものを除き、売上原価等の額、販売費、一般管理費その他の費用の額、損失の額とされています。このうち、「販売費、一般管理費その他の費用」については、その事業年度の販売費、一般管理費その他の費用のうち、償却費以外の費用でその事業年度終了の日までに債務が確定しているものに限られています。この償却費以外の費用でその事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件のすべてに該当するものをいいます。
1 その事業年度終了の日までにその費用に係る債務が成立していること。
2 その事業年度終了の日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
3 その事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
引用:国税庁(No.5387 販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定)
家族旅行の費用
下記のような判決が下されたケースがあるため、事業活動上の必要性や家族が旅行に同伴する正当性について明確に説明できない限り、家族旅行の費用を経費で落とすのは困難です。
請求人は、本件慰安旅行費用のうち、請求人及び事業専従者である配偶者に要した費用は、従業員等のレクリェーション費用として必要経費の額に算入される旨主張するが、[1]本件旅行は、家族4人のみで毎年8月に、配偶者及び子女の都合・希望を聞いて実施されており、サラリーマン家庭が行う通常の家族旅行と何ら異なる点は認められないこと及び[2]本件以外にも同様の旅行を実施しているのに、本件旅行費用のみ必要経費になるとした理由も明らかでないことから、本件旅行は、他の企業が実施している従業員のための慰安旅行と変わらないという請求人の主観的理由のみで事業に関連性を持たせ、必要経費に該当すると判断したにすぎず、客観的にみて事業遂行上必要なものであるかが明らかでなく、通常の家族旅行との相違点も認められないため、家事上の経費と判断するのが相当である。
引用:国税不服審判所(請求人の従業員は、青色事業専従者である配偶者のみであるところ、従業員等のレクリェーションのため慰安旅行をし福利厚生費として処理したが、サラリーマン家庭が行う通常の家族旅行と何ら異なる点は認められないとして否認した事例)
あくまでも経費で落とせるのは、事業活動の中で必要な支出のみですので注意しましょう。
関連記事:法人はなんでも経費で落とせる?よくある勘違いと判断基準を解説
経費で落とすメリットは税金の節約
経費で落とすメリットは、課税対象となる所得を減らし、支払う税金を減らせる点です。
一人社長になると、事業活動に必要な支出を幅広く経費で落とせるため、個人事業主よりも高い節税効果が期待できます。繰り返しになりますが、一人社長は一定の要件を満たせば、役員報酬を経費で落とせるため、法人税の節約につながります。
また、役員報酬は給与所得に該当し、給与所得控除が適用できるため、源泉徴収で納める所得税が軽減できる点もメリットの1つです。
一方、個人事業主には給与の概念がなく、一人社長の役員報酬のように経費で落とせないため、所得が増えるほど税負担も大きくなる傾向があります。
関連記事:役員報酬はいくらが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
経費で落とすデメリットは損金不算入の確認が手間
一人社長が経費で落とす際のデメリットは、損金不算入の支出かどうかを確認する手間です。本記事の経費に関する基礎知識の項目で解説したとおり、事業活動における支出の中で税法上の損金に該当するものしか経費で落とせません。
経費で落としたものが損金に該当するかどうかは、最終的に税務調査で精査されます。税務調査で損金不算入と判断された場合、修正申告が必要となり、加算税や延滞税が課されるおそれがあります。
上記の理由から、経費で落とす段階で損金不算入の支出かどうかを判別しておくのが重要です。上記の確認作業は手間ですが、税務上のリスクを回避するためには欠かせません。
関連記事:一人会社のリスク・デメリットと回避する方法を税理士が解説
一人社長がよく経費で落としているもの
本項目では、一人社長がよく経費で落としているものについて解説します。
一人社長がよく経費で落としているものは、次のとおりです。
- 社用車
- 生命保険料
- 出張日当
- 自宅の家賃
上記について1つずつ順番に見ていきましょう。
社用車
一人社長がよく経費で落としているものの1つ目は、法人名義で購入した社用車です。ただし、経費で落とす際には下記のような注意点があります。
社用車は減価償却資産に該当するため、一括で経費で落とせません。耐用年数に基づき複数年にわたり経費計上を行います。
社用車として普通自動車を購入した際の減価償却の期間は、新車だと6年、中古車だと2年です。なお、社用車の維持に必要なガソリン代や車検代、修理代などの費用も経費で落とせます。
参考:国税庁(No.2100 減価償却のあらまし)
参考:国税庁(主な減価償却資産の耐用年数表)
参考:国税庁(No.5404 中古資産の耐用年数)
生命保険料
一人社長がよく経費で落としているものの2つ目は生命保険料です。一人社長が生命保険料を経費で落とす場合、法人名義で保険に加入するのがポイントです。
会社を契約者、一人社長を被保険者とし、保険料を一定の割合で経費として落とします。経費で落とせる割合は下記の保険の種類によって異なります。
- 終身保険
- 定期保険
- 養老保険
詳細は国税庁のホームページをご参照ください。
ただし、今後の税制の変更によって生命保険料を経費で落とせなくなってしまうおそれもあるので注意しましょう。
出張日当
一人社長がよく経費で落としているものの3つ目は出張日当です。一人社長が出張日当を経費で落とす場合、出張旅費規程を事前に作成しておく必要があります。
上記の規程があれば、実際にかかった費用にかかわらず、規程で定めた金額を日当として経費で落とせます。たとえば、宿泊費を1万円と定めた場合、実際の支出が7千円であっても、経費で落とせるのは1万円全額です。
ただし、出張日当として支給する額は同業他社の出張旅費規程を参考にしながら、正当な金額に設定するのが重要です。
また、税務調査に入られた場合に備え、事前に作成した出張旅費規程の内容と実際の出張内容とに齟齬がないのを証明するために、出張の記録はしっかりと残しておきましょう。
参考:J-Net(旅費交通費支給規程)
参考:国税庁(No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い)
自宅の家賃
一人社長がよく経費で落としているものの4つ目は自宅の家賃です。一人社長が自宅の家賃を経費で落とす場合、家事按分ではなく賃貸料相当額に基づく計算がなされるため、個人事業主よりも経費で落とせる範囲が広くなるのを期待できます。
賃貸料相当額の詳細は国税庁のホームページをご参照ください。一人社長が自宅の家賃を経費で落とすためには、会社と一人社長との間で賃貸借契約を結ぶ必要があります。
一人社長が持ち家を自宅兼事務所にする場合、会社から一人社長に賃貸料相当額を支給する形となり、支給した分を会社側の経費として落とせます。
また、一人社長名義で賃貸している物件を自宅兼事務所にする場合についても見てみましょう。上記のケースでは、賃貸契約を法人名義に変更したうえで、一人社長の役員報酬から賃貸料相当額を家賃として天引きする形となり、会社が家主に支払う賃料を経費として落とせます。
なお、一人社長が会社所有の物件を自宅兼事務所にする場合では、一人社長が会社に賃貸料相当額を家賃として支払う形となり、会社側は物件の取得や維持に関わる費用を経費として落とせます。
以上のように、一人社長が自宅の家賃を経費で落とすためには、さまざまなルールや注意点があるため、税理士に相談しながら実施するのがおすすめです。
関連記事:1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点を税理士が解説
参考:国税庁(社宅に係る仕入税額控除)
参考:国税庁(No.5300 租税公課等の損金算入の可否と租税の損金算入時期)
参考:J-Net(減価償却とはどのようなものなのか教えてください。)
一人社長になる場合の注意点と対策
本項目では、一人社長になる場合の注意点と対策について、以下の2点に分けて解説します。
- 経費で落としても節税が追いつかないケースもある
- 国の政策に基づいた節税制度の活用
それでは、順番に見ていきましょう。
経費で落としても節税が追いつかないケースもある
しかし、手元に残るお金が必ずしも増えるとは限りません。一人社長の場合、以下のような費用が発生するためです。
- 会社の設立費用
- 会社の維持費
- 法人住民税
- 社会保険料
- 税理士の顧問料
経費で落として節税できた分が、上記の費用に追いつかないケースも考えられます。特に、法人住民税や社会保険料は、赤字の場合でも支払いが必要です。
また、税制は国の経済状況や政策で変わるおそれがあるため、今現在、一人社長が享受できているメリットが将来も続く保証はありません。
一人社長を検討する際は節税効果への期待だけでなく、事業計画や生活設計などと照らし合わせたり、税理士の意見も参考にしたりしながら総合的に判断していくのが重要です。
一人社長が抱えるリスクやデメリットを回避する方法については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:一人会社のリスク・デメリットと回避する方法を税理士が解説
参考:e-Gov(健康保険法 第三条)
参考:e-Gov(厚生年金保険法 第九条)
参考:厚生労働省(法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について)
国の政策に基づいた節税制度の活用
本項目では、国の政策に基づいた節税制度の活用について解説します。
国の政策に基づいた節税制度の代表的なものは、以下の3つです。
- 小規模企業共済
- 経営セーフティ共済
- 中小企業経営強化税制
それでは、1つずつ見ていきましょう。
小規模企業共済
小規模企業共済は中小企業基盤整備機構が運営する退職金制度で、中小企業の経営者や役員、個人事業主が対象です。上記は事業をやめた際の生活資金を準備できる仕組みで、掛金の全額が所得控除の対象のため、年間で最大84万円まで控除できます。
小規模企業共済は全国で約162万人が利用しており、高い節税効果が見込まれ、将来の備えとして経済的な安心が得られる制度です。
参考:中小企業庁(小規模企業共済制度について)
参考:国税庁(No.1135 小規模企業共済等掛金控除)
経営セーフティ共済
上記は中小企業基盤整備機構が運営する共済制度で、取引先の倒産リスクに備えるための仕組みです。掛金は全額を経費で落とせます。
年間で最大240万円まで経費で落とせるため、高い節税効果が期待できます。取引先が倒産した場合、無担保かつ無保証で借り入れできる額は、納付した掛金総額の10倍(上限8,000万円)です。
また、一時貸付制度もあり、臨時で事業資金が必要な場合にも活用できます。経営セーフティ共済は中小企業の相互救済を目的に昭和53年に創設され、約64万件の加入実績があります。
小規模企業共済との併用もできるため、経営の安定と節税を同時に実現したい一人社長に最適です。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構(経営セーフティ共済の魅力について)
中小企業経営強化税制
中小企業経営強化税制は、中小企業が経営力向上のために設備投資を行った際、特別償却または税額控除を受けられる制度です。上記の制度を利用するには、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受ける必要があります。
当初は令和3年3月31日までの適用予定でしたが、新型コロナの影響やDX推進の重要性から適用期限が2度延長され、令和7年3月31日までとなりました。上記の制度は大きな設備投資の負担を軽減し、中小企業の生産性向上や競争力強化を支援するものです。
一人社長が経費で落とせるものに関してよくある質問
最後に、一人社長が経費で落とせるものに関してよくある質問についてご紹介します。節税対策として一人社長を検討している個人事業主やフリーランスの方は、本項目を参考にしてみてください。内容は随時追記します。
バレンタインのチョコレートは経費で落とせますか?
バレンタインのチョコレートは事業活動上の必要性があれば経費で落とせます。具体的には以下のとおりです。
会社ロゴ入りのチョコを配布 | 広告宣伝費 |
取引先への贈答品 | 接待交際費 |
来店客へのプレゼント | 広告宣伝費 |
ただし、恋人や家族などにプライベートな贈り物としてバレンタインのチョコレートを渡す場合は経費で落とせません。経費で落とすには、誰に何の目的で贈ったかが重要なため、領収書の裏には相手や目的を記載しておくのが重要です。
関連記事:法人はなんでも経費で落とせる?よくある勘違いと判断基準を解説
ディスプレイモニターを購入したら経費で落とせますか?
事業活動で必要なディスプレイモニターを購入した場合、経費で落とせます。用途別で分けると勘定科目は、以下のとおりです。
自分の業務で使用 | 消耗品費 |
展示会で使用 | 広告宣伝費 |
商品として販売 | 仕入 |
また、購入金額によって経費計上の方法が下記のように変わりますので注意しましょう。
10万円未満 | 一括計上できる |
10万円以上20万円未満 | 3年間で償却できる |
10万円以上30万円未満 | 青色申告書を提出していれば一括計上できる |
30万円以上 | 5年間で償却 |
購入金額に応じて経費計上の方法が違うため、判断に迷う場合は税理士に相談してみましょう。
参考:J-Net(減価償却とはどのようなものなのか教えてください。)
マイクロ法人で経費にできるものを教えてください
マイクロ法人も一人社長も、株式会社か合同会社で設立するケースが多く、普通法人に該当するため、経費で落とせる範囲は同じです。マイクロ法人で経費にできるものについては、本記事の一人社長が経費で落とせるもの一覧の項目をご参照ください。
また、マイクロ法人は節税効果を期待して設立される場合が多いですが、個人事業主との二刀流で節税効果をさらに高められるケースもあります。
関連記事:マイクロ法人と個人事業主の二刀流で節税するメリット・デメリットを解説
なんでも経費で落とすのは違法ですか?ぶっちゃけどこまで認められますか?
経費で落とす場合の判断基準は、該当の支出が事業活動で必要なのかどうかです。原則として、事業活動に必要な支出は経費として落とせますが、事業活動に直接関連しないプライベートな支出は経費で落とせません。
また、経費で落とすためには、領収書や契約書などの証憑書類を保管したうえで、必要性や正当性を説明できなければいけません。
税務調査で指摘されるリスクを回避するためにも、経費で落とすのに不安を感じる場合は、税理士のアドバイスを受けるのが安心です。
一人社長が経費で落とす場合によくある勘違いについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:法人はなんでも経費で落とせる?よくある勘違いと判断基準を解説
経費で生活するのは公私混同でずるいのでしょうか?
一人社長が経費を活用するのは合法ですが、明らかな公私混同は厳禁です。繰り返しになりますが、原則として、経費で落とせるのは事業活動に必要な支出のみです。
もし、税務調査で指摘されると、加算税や延滞税が課されるリスクがあります。また、極めて悪質な場合は逮捕されるおそれもあります。
一人社長が経費で生活するのは公私混同でずるいわけではありませんが、公私の区別を明確にし、経費で落とした支出に関しては領収書や契約書などの証憑書類を正確に管理しましょう。
懸念がある場合は税理士に相談して解消するのが確実です。合法的に自宅の家賃を経費にする方法については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点を税理士が解説
経費を使いすぎと指摘されるケースはありますか?
経費を使いすぎた場合、税務調査で指摘されるケースはあります。特に、売上に対する経費の割合が極端に多ければ、税務署から指摘を受けるリスクは大きいです。
たとえば、IT業であれば経費の割合は50%です。上記の割合を上回った場合、経費を使いすぎと指摘されるリスクが高まります。
繰り返しになりますが、経費で落せる支出は事業活動において必要かつ合理的であるのが基本です。一人社長だからといって、なんでも経費で落とせると勘違いしないように注意しましょう。
関連記事:法人はなんでも経費で落とせる?よくある勘違いと判断基準を解説
まとめ
今回は、一人社長が経費で落とせるものを一覧にして、経費計上に制限があるものや経費として落とせないものとあわせて解説しました。
一人社長が経費で落とせるものの一覧は、次のとおりです。
- 給与賃金
- 減価償却費
- 消耗品費
- 通信費
- 広告宣伝費
- 地代家賃
- 水道光熱費
- 旅費交通費
- 接待交際費
- 会議費
- 外注工賃
- 福利厚生費
- 損害保険料
- 租税公課
- 新聞図書費
- 荷造運賃
- 修繕費
- 振込手数料
- リース料
- 利子割引料
- 貸倒金
- 立退料
- 税理士等の報酬
- 諸会費
- 雑費
一人社長は、個人事業主よりも経費で落とせる範囲が広いとはいえ、なんでも経費で落とせるわけではありませんので注意しましょう。
一人社長の経費計上において制限があるものは、下記のとおりです。
- 役員報酬
- 接待交際費
- 寄付金
- 同族会社との取引で発生する費用
また、一人社長が経費で落とせないものは、以下のとおりです。
- 罰金
- 債務が確定していないもの
- 家族旅行の費用