こんにちは、1人社長の顧問実績が豊富な税理士の植村拓真です。
2006年5月に施行された新会社法によって、1人でも会社を設立できるようになりました。弊所にも、売上が拡大してきている個人事業主の方や起業を検討されている方から、1人社長に関するご相談が数多く寄せられています。
特に、下記のようなご質問をよくいただきます。



本記事を読んでいる方の中にも、上記のように思っている方がいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、1人社長は儲かるといわれる理由について、1人社長のメリットとデメリットとあわせて解説します。1人社長を検討している個人事業主の方や起業を考えている方は、本記事を参考にしてみてください。
なお、弊所では会社の設立と顧問契約をあわせてご依頼くださる方向けに、合同会社1.6万円、株式会社13.8万円のフルサポートプランを提供させていただいております。
1人社長は儲かるといわれる理由
1人社長は儲かるといわれる理由として、従業員を雇わないため人件費や教育費などのコストが抑えやすかったり、税制面で個人事業主より優遇されたりするからです。また、1人社長のスキルや努力が直接利益につながるため、適切なビジネスモデルを構築できれば、高い利益率を確保しやすいです。
ただし、事業内容や市場のトレンド、財務管理の巧拙などによって、期待できる収益は大きく変わります。1人社長として儲かるためには、しっかりと事業戦略を立て、スキルを磨きながら、収益を最大化させる施策を数多く実施するのが大切です。
1人社長の税理士の必要性については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:一人社長(一人会社)の税理士の必要性|費用相場と選び方も解説
1人社長の定義
1人社長とは、従業員を雇わずに自分1人で会社を経営する形態を指します。
1人社長は、迅速な意思決定ができたり、人件費を抑えた効率的な経営ができたりするのが特徴です。近年、業務を外注しやすくなったり、AI技術の進歩が加速したりするなど、身一つで事業を行える環境が整ってきています。
上記のような環境変化に伴い、1人社長のような経営スタイルは、今後、さらに増加していくと予想されています。
関連記事:法人化で一人社長になるとは?メリット・デメリットや個人事業主との違いを税理士が解説
1人社長のメリット
本項目で解説するのは、1人社長のメリットについてです。1人社長には下記のような利点があります。
- ビジョンが実現しやすい
- 自由に働ける
- 低コストで会社を経営できる
- スキルアップしやすい
- 税制面で優遇される
- 有限責任にできる
- 資金調達しやすい
- 取引先の幅が広がる
ビジョンが実現しやすい
1人社長はフリーランスのような自由な働き方を維持しつつ、自分の理想や目標を形にしやすいのが特徴です。従業員を抱えないため、組織運営や人材管理などが不要で、ビジネスの方向性を自らの意思だけで決定できます。
さらに、取引先や業務内容なども自分で選べるため、ストレスを感じない理想的な働き方を実現しやすい点も魅力の1つです。
自由に働ける
自由に働ける点も1人社長のメリットの1つです。勤務時間や休日、仕事場所などについて自分の意思で決められるため、より良いワーク・ライフ・バランスを実現できます。
特に、育児や家族の介護をする必要がある場合、時間の調整がしやすい1人社長は、家庭の都合にあわせた働き方ができます。また、従業員を雇用しないため、社内規則で組織を束ねる必要もありません。
上記のため、決まったルールに縛られず、自分がやりやすいように仕事を進められます。以上のように、働き方の自由度の高さは、1人社長ならではのメリットです。
低コストで会社を経営できる
繰り返しになりますが、1人社長は従業員を雇わないため、一般的な会社と比べて人件費や教育費などの固定費を大幅に削減できます。一般的な会社では、従業員を雇うにあたって下記のようなコストが発生します。
- 給与
- 社会保険料
- 福利厚生費
- 採用費
- 教育費
しかし、1人社長の場合、上記のようなコストが生じません。また、自宅をオフィスにすれば賃料を抑えられたり、必要最低限の設備投資だけで事業をスタートさせたりもできます。
以上のように、低コストで利益率の高い経営が実現しやすいのも、1人社長のメリットの1つです。
関連記事:1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点を税理士が解説
スキルアップしやすい
1人社長はあらゆる業務を自分1人で行うため、さまざまなスキルが磨けるのもメリットの1つです。
また、集客のためにSNS運用や広告運用、LP制作などを学んだ結果、習得したスキルが新たな商品やサービスのアイデアにつながるケースもあります。
以上のように、スキルアップのしやすさも1人社長のメリットです。なお、経理や税務会計に関する業務は、専門知識が求められるため、税理士の力を借りるのも手段の1つです。
関連記事:一人社長(一人会社)の税理士の必要性|費用相場と選び方も解説
税制面で優遇される
1人社長は個人事業主よりも税制面での利点が多く、高い節税効果が期待できます。たとえば、青色申告の特典で赤字を繰り越せますが、個人事業主の場合は最大3年なのに対し、1人社長の場合は最大10年です。
また、課税所得が800万円を超えると法人税の税率は一律になるため、課税所得が多い場合、所得税よりも税負担の軽減が期待できます。さらに、一定の要件を満たしていれば、役員報酬を経費として計上できるため、節税につながります。
以上のような税制面での優遇措置は、1人社長のメリットです。なお、1人社長になると法人格を所有するため、個人事業主よりも経費として認められる範囲が拡大します。
関連記事:一人社長が経費で落とせるもの一覧|制限があるもの・落とせないものも解説
有限責任にできる
会社の設立によって有限責任にできる点は、1人社長のメリットの1つです。会社の設立は法人格を取得するのを意味し、個人とは別の人格とみなされるため、事業で生じた負債は会社が負う形になります。
上記の理由から、1人社長の場合、個人の財産への影響を最小限にできます。一方、個人事業主は無限責任であり、事業で生じた負債については個人の財産で補填しなければなりません。
以上のように、1人社長になれば、負うべき責任の範囲が限定されるため、個人事業主よりもリスクを抑えながら事業を運営できます。
関連記事:一人会社のリスク・デメリットと回避する方法を税理士が解説
参考:J-Net21(有限責任と無限責任について教えてください。)
資金調達しやすい
個人事業主に比べて資金調達がしやすい点は、1人社長のメリットの1つです。会社を設立すると社会的な信用度が高まるため、金融機関の融資審査が通りやすくなったり、投資家から投資してもらいやすくなったりします。
また、法人を対象とした補助金や助成金も多く、個人事業主よりも資金調達の選択肢が多いです。特に、事業規模の拡大を目指す場合、1人社長の社会的な信用度を活かしながら資金調達を行えば、成長のチャンスをさらに掴みやすくなります。
関連記事:日本政策金融公庫の融資審査を確実に通すためのチェックポイント6選
取引先の幅が広がる
上記によって取引先の幅が広がるのは、1人社長のメリットの1つです。法人としか契約を結ばない企業もあるため、1人社長になれば、新たなビジネスチャンスを得やすくなります。
個人事業主では取引できなかった企業との契約も期待できるため、事業規模の拡大につながります。取引先を増やしたい場合、1人社長も検討してみましょう。
なお、1人社長が会社を設立する際、税理士が必要なケースといらないケースについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:一人合同会社の設立に税理士が必要なケースといらないケースを選び方とあわせて解説
1人社長のデメリット
本項目で解説するのは、1人社長のデメリットについてです。1人社長になると数多くのメリットが得られる一方で、デメリットもあります。
下記のようなデメリットをきちんと把握したうえで、1人社長を検討していきましょう。
- 事業上の全責任を負うリスクがある
- 労働力に限りがある
- 激しい市場競争にさらされる
- 会社の設立と廃業にコストがかかる
- 社会保険や税金の負担が増えるおそれがある
- 事務業務に手間がかかる
- 会社のお金を自由に使えない
事業上の全責任を負うリスクがある
1人社長は事業上の全責任を負うリスクがある点に注意しましょう。
1人社長として会社を設立すれば、法律上、法人と個人の責任が区別されるため、個人事業主よりも責任の範囲が限定されます!
ただし、金融機関から融資を受ける際、1人社長は社会的な信用度が低いと判断されるケースもあり、経営者保証を求められる場合があります。
上記の場合、個人事業主と変わらないリスクを負うため、1人社長として会社を設立し、有限責任だからといって安心はできません。また、1人社長はトラブルや訴訟などの対応を、すべて1人で対処する必要があるのも念頭に置きましょう。
以上のようなリスクを軽減させるためには、専門家の力を借りるのも手段の1つです。
参考:J-Net21(経営者保証ガイドラインについて教えてください。)
参考:J-Net21(有限責任と無限責任について教えてください。)
労働力に限りがある
1人社長は業務のすべてを身一つでこなすため、労働力に限界がある点はデメリットの1つです。事業規模を拡大させる場合、業務の効率化を図る必要があります。
上記の理由から、営業や事務など外部に委託できる業務については、積極的に外注したりフリーランスに業務委託したりするケースが多いです。外注や業務委託を有効活用すれば、擬似的な組織を形成でき、事業全体の生産性向上が期待できます。
以上のような工夫を行い、事業規模を拡大させていきましょう。なお、1人社長として会社を設立すると、個人事業主よりも経理や税務会計に関する業務が複雑になるため、税理士への丸投げも検討しましょう。
関連記事:【個人事業主・法人対応】確定申告を税理士に丸投げする費用相場やメリット・デメリットを解説
激しい市場競争にさらされる
1人社長が事業を軌道に乗せるためには、激しい市場競争を乗り越える必要があります。成長市場は新規参入しやすい反面、大手や競合が多く、独自のポジションを確立するのは容易ではありません。
一方、成熟市場だとしても小さな隙間を見つけられれば、1人社長でも十分な利益を期待できます。市場競争を勝ち抜くためには、サービスの品質向上や差別化を図るのはもちろん、市場のニーズやトレンドを的確に捉え、柔軟な戦略を立てるのが重要です。
参考:中小企業庁(第2節 中小企業の競争戦略)
参考:J-Net21(優位性の考え方)
参考:総務省(ニッチマーケットが成立する「市場の細粒化」がおこる)
関連記事:日本政策金融公庫の融資審査を確実に通すためのチェックポイント6選
会社の設立と廃業にコストがかかる
1人社長として会社を設立する際、設立時だけでなく廃業時にも費用や手続きが発生する点に注意しましょう。会社の設立時には登録免許税や定款認証の手数料などがかかり、費用の目安は、次のとおりです。
株式会社で設立する場合 | 22万〜25万円程度 |
合同会社で設立する場合 | 10万〜12万円程度 |
また、会社を廃業する場合、下記のような手続きが求められ、個人事業主よりも手間がかかります。
1. 株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)による解散決議
2. 清算人・代表清算人の選任
3. 清算人就任登記・解散登記
4. 閉解散の通知・公告
5. 会社財産の現況調査
6. 現務の結了・財産の換価・分配・処分
7. 債権者保護手続き(解散公告など)
8. 決算報告承認総会の招集・開催
9. 清算結了登記
そのほか、税務上の手続きとして解散確定申告、清算確定申告なども必要です。
引用:J-Net21(廃業するにはどうしたらよいですか?)
上記の理由から、1人社長を検討する場合、万が一の廃業にかかるコストも念頭に置くのが重要です。会社の設立や廃業には手間がかかったり、専門知識を求められたりするため、税理士の力を借りるのも手段の1つです。
関連記事:法人化で後悔したくない!失敗しないコツを税理士が解説
参考:法務局(株式会社の設立手続について)
参考:法務局(合同会社の設立手続について)
参考:J-Net21(廃業の留意点と進め方)
社会保険や税金の負担が増えるおそれがある
従業員を雇用しない1人社長でも、会社から役員報酬を受け取る場合、社会保険への加入が必要です。1人社長の場合、健康保険と厚生年金保険について、会社と個人の両方で負担しなければなりません。
上記のため、個人事業主が支払っている国民健康保険と国民年金よりも、保険料の負担が増えるおそれがあります。また、会社が赤字の場合でも法人住民税の均等割を納付する必要があり、年間で最低7万円の税負担があります。
引用:総務省(法人住民税)
以上のように、1人社長になると社会保険や税金の負担が増えるケースもあるため、事前に税理士へ相談し、シミュレーションしておくのが大切です。
参考:J-Net21(一人で創業する場合の社会保険)
参考:厚生労働省(法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について)
関連記事:一人合同会社の設立に税理士が必要なケースといらないケースを選び方とあわせて解説
事務業務に手間がかかる
1人社長として会社を設立すると、事務業務の負担が大幅に増加します。特に、経理や税務会計に関する業務は、個人事業主よりも複雑です。
個人事業主のときは自力で確定申告を行えていた方でも、1人社長の経理や税務会計に関する業務は太刀打ちできないケースが多くあります。
また、1人社長の決算や確定申告には専門知識が求められるため、税理士に依頼するのが一般的です。
なお、税理士との顧問契約の必要性については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:顧問税理士とは?顧問契約の必要性・メリットや注意点を解説
会社のお金を自由に使えない
繰り返しになりますが、1人社長になると法人格を所有するため、会社のお金と個人のお金は明確に分ける必要があります。会社のお金を私的流用した場合、業務上横領とみなされるおそれがあります。
個人事業主であれば、事業資金と生活費を区別しなくても問題ありませんでした。しかし、1人社長の場合、事業活動によって得られた収益は、会社の資産として区別して管理されます。
上記の理由から、1人社長の給料は役員報酬として受け取る形になります。以上のように、会社のお金を自由に使えない点は、1人社長のデメリットの1つです。
なお、1人社長が役員報酬を設定する際のルールと決め方については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:合同会社の一人社長が給料(役員報酬)を設定する際のルールと決め方
1人社長が儲かるための対策
本項目では、1人社長が儲かるための対策について解説します。1人社長は労働力に限りがあったり、激しい市場競争にさらされたりしますが、下記のような対策を実施しながら売上を拡大させていきましょう。
- 法人化によるリスクヘッジ
- 外注や業務委託の有効活用
- 差別化戦略を立てる
- 複数の取引先を確保する
法人化によるリスクヘッジ
繰り返しになりますが、1人社長として会社を設立すると有限責任になるため、出資額の範囲内で責任を負う形になります。一方、個人事業主の場合、事業上の責任をすべて個人で負う必要があり、財産を失うリスクが大きいです。
上記の理由から、1人社長も個人事業主も1人で事業を運営していますが、1人社長の方が低リスクで事業を行えます。また、法人化によって得られた社会的な信用度を活かし、取引先を広げたり、資金調達を行ったりしながら事業の基盤を強固にしましょう。
さらに、法人化して青色申告書を提出すると赤字を最大10年間繰り越せるため、税制上の恩恵を享受できます。以上のように、法人化によって得られるメリットを活用しながらリスクを回避し、儲かるための基盤を整えたり、チャンスを増やしたりしましょう。
関連記事:一人会社のリスク・デメリットと回避する方法を税理士が解説
外注や業務委託の有効活用
1人社長が効率的に儲かるためには、外注や業務委託を活用して自分の業務負担を軽減させるのが重要です。従業員を雇った場合、人件費や社会保険料などの負担が発生したり、従業員の生活を保証する責任が伴ったりします。
一方、外注や業務委託を活用すれば、必要な業務だけを専門家に依頼でき、コストを抑えながら効率的に事業を運営できます。また、外注や業務委託にかかった費用は経費計上できるため、節税効果が期待できる点もメリットの1つです。
関連記事:一人社長が経費で落とせるもの一覧|制限があるもの・落とせないものも解説
差別化戦略を立てる
1人社長が儲かるためには、競合との差別化を図り、独自の価値を提供するのが重要です。
下記のような模倣されにくい要素を活用し、高い利益率を実現しつつ、価格競争に巻き込まれないビジネスモデルを築きましょう。
- ブランド力
- 独自技術
- デザインセンス
- 顧客サービスの品質
また、ニッチ市場を狙えば、大手が対応しにくい細かなニーズを満たしやすいため、競争優位性の確立につながります。
参考:中小企業庁(第4節 製品・サービスの差別化)
参考:中小企業庁(第2節 中小企業の競争戦略)
参考:J-Net21(差別化「こだわりを追求し、自店の強みを磨こう」)
参考:経済産業省(「アンゾフの成長マトリクス」)
複数の取引先を確保する
1人社長が安定した収益を得るには、取引先を1社に依存せず、複数の取引先を確保するのが重要です。特定の取引先のみと関係を深めるメリットもありますが、該当の取引先が倒産したり契約を打ち切られたりした場合、売上がゼロになってしまうおそれがあります。
複数の取引先を確保しておけば、突然の売上減少や事業上のリスクを回避できたり、価格交渉の場面で主導権を握りやすくなったりします。長期的な事業成長を見据え、複数の取引先を開拓してリスクを分散させましょう。
関連記事:一人会社のリスク・デメリットと回避する方法を税理士が解説
1人社長と個人事業主の比較
本項目では、1人社長と個人事業主について比較するため、下記の4つの観点に分けて解説します。
- 事業開始の手続き
- 維持費
- 税制面
- 責任の範囲
それでは、1つずつ見ていきましょう。
事業開始の手続き
事業開始の手続きに関して、1人社長と個人事業主では、どのような違いがあるのかについて解説します。
1人社長の場合
1人社長として会社を設立するには、本店所在地を所轄する法務局での登記申請が必要です。会社を登記する際、登録免許税が発生し、株式会社なら最低15万円、合同会社なら最低6万円かかります。
また、株式会社を設立する場合、定款の認証が必要で、認証にかかる手数料は3万〜5万円程度です。原則として、資本金は1円から会社を設立できますが、社会的な信用度を担保するためには、ある程度の資本金を用意しておきましょう。
なお、1人社長の場合、法人名義の銀行口座を開設するのが一般的です。以上のように、会社の設立には手間がかかったり、専門知識が求められたりするため、税理士の力を借りるのも手段の1つです。
関連記事:一人合同会社の設立に税理士が必要なケースといらないケースを選び方とあわせて解説
個人事業主の場合
個人事業主として事業を開始する際、個人事業の開業・廃業等届出書を納税地を所轄する税務署へ提出するだけで完了し、設立費用も法務局での登記も不要です。また、銀行口座についても、個人名義の口座をそのまま使用できるため、個人事業主用の口座を新たに開設する必要はありません。
以上のように、事業開始の手続きにコストがかからない点は、個人事業主のメリットの1つです。
関連記事:会社と個人事業主はどっちが得?違いやメリット・デメリットを比較して法人化を検討
維持費
事業を継続するうえでかかる維持費に関して、1人社長と個人事業主では、どのくらい差があるのかについて解説します。
1人社長の場合
1人社長として会社を維持するには、個人事業主よりも多くの費用がかかります。会社を設立すると、経理や税務会計に関する業務が煩雑になるため、税理士と顧問契約を結ぶケースも多いです。
上記によって懸念されるのは、税理士への依頼費用がかさむおそれです。
株式会社の場合、決算公告の義務があり、官報へ掲載したり電子公告を行ったりする際に費用が発生します。また、株式会社の1人社長は、役員を再任するタイミングが来るたびに、役員変更の登記の手続きと費用が発生します。繰り返しになりますが、法人住民税は赤字でも最低7万円の支払いが必要です。
以上のような維持費が発生するのを考慮に入れ、1人社長を検討しましょう。
関連記事:法人化で後悔したくない!失敗しないコツを税理士が解説
個人事業主の場合
個人事業主の維持費は、1人社長に比べ、低く抑えられる傾向があります。1人社長のような必須でかかる費用はありませんが、事務所を借りた場合の賃料や水道光熱費、通信費、交通費などの経費について考慮しておく必要があります。
また、国民健康保険や国民年金の支払いも固定費の1つです。なお、個人事業主が納める所得税は超過累進税率のため、課税所得が増えるにつれ、税負担が重くなるおそれがあります。
関連記事:個人事業主の法人成り|適切なタイミングから注意点まで解説
税制面
税制面に関して、1人社長と個人事業主では、具体的にどういった違いがあるのかについて解説します。
1人社長の場合
1人社長が納める税金は、主に下記のとおりです。
以上のような多くの税負担がありますが、1人社長は税制上のメリットも多いです。青色申告書を提出していれば、赤字を最大10年間繰り越せるため、長期的な節税効果が期待できます。
法人税の税率は、課税所得が800万円を超えると一律23.2%になるため、課税所得が多い場合、個人事業主が納める所得税より税負担を軽減できるケースもあります。
繰り返しになりますが、赤字でも法人住民税の均等割を支払う必要がある点には注意しましょう。また、1人社長は個人事業主よりも経費計上できる範囲が広いため、役員報酬や生命保険料の一部なども経費で落とせます。
なお、1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点については、下記の記事でさらに詳しく解説しています!
関連記事:1人社長の自宅の家賃を経費にする方法と注意点を税理士が解説
個人事業主の場合
個人事業主が納める税金は、主に下記のとおりです。
課税所得は、収入から必要経費と所得控除を差し引いた額で決まります。青色申告をすれば、最大65万円の特別控除や最大3年間の赤字繰越などの特典を享受できます。
1人社長と比較すると、課税所得が低いうちは税率が低く、赤字の場合、納税するものはありません。ただし、課税所得が900万円を超えると、1人社長よりも税負担が重くなるおそれがあるため、事業の成長に応じて1人社長も検討しましょう。
関連記事:法人化で一人社長になるとは?メリット・デメリットや個人事業主との違いを税理士が解説
責任の範囲
1人社長も個人事業主も1人で事業を運営していますが、責任の範囲に関して両者にはどのような違いがあるのかについて解説します。
1人社長の場合
繰り返しになりますが、1人社長は有限責任です。原則として、1人社長が負う債務は出資額を限度とし、左記以上は個人の財産に影響が及びません。
上記の場合、個人の財産にまで影響が出てしまうおそれがあります。以上のように、会社の設立によって有限責任になるものの、個人保証の有無については十分な確認が必要です。
参考:J-Net21(経営者保証ガイドラインについて教えてください。)
参考:J-Net21(有限責任と無限責任について教えてください。)
個人事業主の場合
個人事業主は無限責任のため、事業上の債務は個人事業主の全財産を使って返済する必要があります。1人社長のように責任の範囲が限定されず、万が一、事業が失敗した場合、負債をすべて背負うリスクがあります。
上記の理由から、個人事業主の場合、資金計画をしっかり立て、リスク管理を徹底するのが重要です。
参考:J-Net21(有限責任と無限責任について教えてください。)
関連記事:個人事業主に顧問税理士はいつから必要?費用相場やタイミングも解説
1人社長を検討すべきタイミング
本項目では、1人社長を検討すべきタイミングについて解説します。
1人社長を検討すべきタイミングは、次の3つです。
- 年収が800万円を超える
- 課税売上高が1,000万円を超える
- 事業規模の拡大を考えている
それでは、上記3点について順番に見ていきましょう。
年収が800万円を超える
繰り返しになりますが、個人事業主が納める所得税は超過累進税率のため、課税所得が増えるにつれて税負担が重くなるおそれがあります。
一方、1人社長が納める法人税では、課税所得が800万円を超えると、一律23.2%の税率が適用されます。
以上のような税制面の観点から、年収が800万円を超えている個人事業主は、1人社長を検討すべきです。なお、1人社長の場合、一定の要件を満たせば、役員報酬を経費計上できます。
上記により、税負担の軽減や手元に残る利益の増加などが期待できます。1人社長になるべきタイミングかどうか迷う場合、早めに税理士へ相談するのがおすすめです。
関連記事:一人合同会社の設立に税理士が必要なケースといらないケースを選び方とあわせて解説
課税売上高が1,000万円を超える
課税売上高が1,000万円を超えると、原則として、2年後から消費税の納税義務が発生します。1人社長として会社を設立すれば、設立後の2年間は消費税の納税義務が免除されるため、上記のカウントがリセットされ、節税効果が期待できます。
ただし、インボイス制度の施行に伴い、既に課税事業者となっている場合、上記の恩恵は受けられません。なお、インボイス制度の影響で、免税事業者との取引を打ち切る企業が増えるおそれがあるため、慎重な判断が必要です。
関連記事:インボイス制度と法人成り|タイミングから影響と対策まで解説
関連記事:インボイス制度がやばい・ひどい理由|抜け道と対策を解説
事業規模の拡大を考えている
1人社長になると資金調達の選択肢が増え、助成金や補助金を活用しやすくなります。また、法人格の所有によって社会的な信用度が向上するため、大企業との取引がしやすくなり、取引先の新規開拓が期待できます。
従業員を雇う予定がなくても、事業の幅を広げたり、より儲かる仕組みを整えたりしたい場合、1人社長を視野に入れるのがおすすめです。判断に迷う場合、一度、税理士に相談してみましょう。
関連記事:法人化で一人社長になるとは?メリット・デメリットや個人事業主との違いを税理士が解説
1人社長に関するよくある質問
最後に、1人社長に関するよくある質問をご紹介します。1人社長を検討している個人事業主の方や起業を考えている方は、本項目も参考にしてみてください。内容は随時追記します。
田舎で儲かるビジネスとして、どのようなものがありますか?
田舎で儲かる見込みのあるビジネスは、主に次のとおりです。
観光業 | 宿泊施設やレジャー施設の運営など |
農業 | 有機栽培、特産品の開発、農家民宿など |
漁業 | 養殖、加工品販売、釣り体験など |
林業 | 木材加工、森林体験ツアーなど |
IT業 | WEB制作、ITエンジニア、ITコンサルなど |
コンサルティング | 地域活性化、観光振興、集客支援など |
介護福祉 | デイサービス、訪問介護など |
リノベーション | 古民家の再生、空き家の活用など |
特に、1人社長の場合、設備投資や在庫管理などが不要で、リモート完結できる事業や業種がおすすめです。たとえば、以下のようなものが該当します。
ネットビジネス業 | アフィリエイター、SNSマーケターなど |
IT業 | プログラマー、ITエンジニアなど |
広告代理業 | 専門広告代理店、総合広告代理店など |
自分の経験や強みと照らし合わせながら、継続したいと思えるビジネスを選択するのが重要です。
関連記事:税理士選びで失敗しない方法|依頼タイミングと変更のコツも解説
関連記事:ダメな税理士とは?良い税理士・悪い税理士の見極め方と対処法
ひとり社長に最適なビジネスモデルはありますか?
ひとり社長に最適なビジネスモデルの要素としては、主に下記のとおりです。
- 設備投資にコストがかからない
- ニッチマーケットへの参入
- リピート性の高いサービスや商品の提供
- 在庫をかかえない
- 利益率が高い
繰り返しになりますが、具体的には下記のような業種や職種が該当します。
- ネットビジネス業(アフィリエイターやSNSマーケターなど)
- IT業(プログラマーやITエンジニアなど)
- 広告代理業
自分の強みや得意領域などを活かしながら、競争優位性を確立していきましょう。
参考:中小企業庁(第2節 中小企業の競争戦略)
参考:J-Net21(優位性の考え方)
関連記事:マイクロ法人でおすすめの事業や業種の選び方を税理士が解説
1人社長におすすめの職種はありますか?
設備投資や在庫管理にコストがかからず、オフィスを構える必要がない職種が1人社長におすすめです。具体的には、下記のような職種です。
- 広告代理店
- アフィリエイター
- ECサイト運営
- ITエンジニア
- ITコンサルタント
- SNSマーケター
- YouTuber
- 動画クリエイター
- WEBライター
- WEBデザイナー
- オンラインサロン運営
- セミナー講師
- 営業代行
- コーチング
関連記事:マイクロ法人でおすすめの事業や業種の選び方を税理士が解説
1人社長が役員報酬を設定する際のルールや決め方はありますか?
1人社長が役員報酬を設定する際のルールや決め方については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。なお、役員報酬を設定するにあたり、専門知識も求められるため、税理士に相談してみるのをおすすめします。
関連記事:合同会社の一人社長が給料(役員報酬)を設定する際のルールと決め方
関連記事:合同会社の役員報酬の相場と決め方|かかる税金や節税方法も解説
関連記事:役員報酬はいくらが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
社長1人、社員1人の会社を設立する際の注意点はありますか?
社長1人、社員1人の会社を設立する際の注意点については、本記事の1人社長のデメリットの項目をご参照ください。なお、社長1人、社員1人の会社であっても社会保険への加入は必要ですので注意しましょう。
会社を設立する流れや社会保険の手続きについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:個人事業主の法人成り|適切なタイミングから注意点まで解説
儲かる自営業ランキングみたいなものはありますか?
フリーランス協会がまとめた、下記のデータが参考になります。
なお、本記事の下記の項目で解説した要素を持っている業種や職種は、比較的儲けやすい自営業といえますので、ご参照ください。
- ひとり社長に最適なビジネスモデルはありますか?
- 1人社長におすすめの職種はありますか?
関連記事:マイクロ法人でおすすめの事業や業種の選び方を税理士が解説
1人社長でも年商1億を目指せますか?
上記の理由として、下記の点が挙げられます。
- AIテクノロジーの著しい進化
- 外注や業務委託のしやすさの向上
- 人件費や家賃などの固定費がかかりにくい
- ニッチマーケットの成立
ただし、年商1億を目指すとなると、経理や税務会計に関する業務の煩雑化が予想されるため、税理士のサポートが必要です。年商1億を目指すにあたって最適な税理士を選びましょう。
関連記事:税理士選びで失敗しない方法|依頼タイミングと変更のコツも解説
関連記事:一人社長(一人会社)の税理士の必要性|費用相場と選び方も解説
ひとり社長が抱えやすい悩みはありますか?
本記事の1人社長のデメリットの項目で解説した点について、悩みを抱えやすい傾向があります。ひとり社長を検討している場合、税理士の力を借りながら、会社を設立したあとのシュミレーションを入念に行いましょう。
ひとり社長が抱えやすい悩みについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
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1人社長は副業としてできますか?
1人社長は副業としてできます。
副業で1人社長になるケースについては、下記の記事で詳しく解説しています。
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一人社長は孤独を感じませんか?
一人社長は孤独を感じる場面もありますが、本記事の1人社長のメリットの項目で解説したように、会社員や個人事業主では得られない、さまざまなメリットがあります。ただし、孤独感はメンタルヘルスに影響を及ぼすおそれもあるため、孤独感が気になる場合、下記のような工夫を行いましょう。
- 取引先と親密な関係を築く
- コミュニティに所属する
- メンターやコーチをつける
- プライベートを充実させる
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まとめ
今回は、1人社長は儲かるといわれる理由について、1人社長のメリットとデメリットとあわせて解説しました。
1人社長は儲かるといわれる理由として、従業員を雇わないため人件費や教育費などのコストが抑えやすかったり、税制面で個人事業主より優遇されたりするからです。特に、1人社長には下記のような利点があります。
- ビジョンが実現しやすい
- 自由に働ける
- 低コストで会社を経営できる
- スキルアップしやすい
- 税制面で優遇される
- 有限責任にできる
- 資金調達しやすい
- 取引先の幅が広がる
1人社長になると上記のメリットが得られる一方で、下記のようなデメリットもあります。
- 事業上の全責任を負うリスクがある
- 労働力に限りがある
- 激しい市場競争にさらされる
- 会社の設立と廃業にコストがかかる
- 社会保険や税金の負担が増えるおそれがある
- 事務業務に手間がかかる
- 会社のお金を自由に使えない
上記のデメリットについて、きちんと把握したうえで、1人社長を検討していきましょう。1人社長を検討すべきタイミングとしては、次の3つです。
- 年収が800万円を超える
- 課税売上高が1,000万円を超える
- 事業規模の拡大を考えている