こんにちは、植村会計事務所代表の植村拓真です。
弊所では、合同会社の設立を格安でフルサポートさせていただいているのですが、ご依頼の際に以下のようなご相談をいただきます。
合同会社を設立する際、役員報酬の決め方がわからずに悩む方は少なくありません。
特に、法人の税金や社会保険の負担額を抑えたいと考えている方が目立ちます。
合同会社から受け取る役員報酬の金額をうまく設定すれば節税につながると、なんとなく知っている方はいらっしゃいます。
しかし、実際に合同会社から受け取る役員報酬の金額をいくらに設定すればいいのかについては、考慮すべき内容が多くてわからない方も多いです。
そこで今回は、合同会社の役員報酬の相場と決め方について、前提知識や注意点とあわせて徹底解説します。
一人社長の役員報酬(給料)については、以下の記事をご覧ください。
関連記事:合同会社の一人社長が給料(役員報酬)を設定する際のルールと決め方
合同会社の役員報酬で節税する際の前提知識
合同会社で役員報酬を経費扱いするためには、ある特定の条件を満たさなければなりません。
本記事では、そんな合同会社にて役員報酬で節税する条件について触れたうえで、報酬額の相場などについても解説するのですが、中には
上記のような方もいるのではないでしょうか。
本項目では、そんな方向けに合同会社の役員報酬で節税する際の前提知識から解説していきます。
そもそも合同会社とは
合同会社の役員報酬について解説する前に、法人化を検討している方向けに合同会社とは何かから解説します。
合同会社とは、2006年の会社法改正により設けられた新しい会社形態です。
現在の会社形態は株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4種類あり、合同会社は持分会社に分類されます。
持分会社である合同会社の出資者は社員と呼ばれますが、会社の従業員ではありません。
合同会社で出資者になれば、出資した金額に応じて経営に関われて、会社の重要な意思決定に参加できます。
つまり、合同会社の社員とは経営者のことです。
合同会社では出資者全員が代表権と業務執行権を持ちますが、全員が代表権を持つと経営の一貫性を欠くおそれがあるため、代表取締役のポジションにあたる代表社員の選任が認められています。
そんな合同会社ですが、株式会社よりも設立費用が安く、定款認証を法務局または地方法務局で受ける必要がありません。
さらに、決算公告の義務や役員の任期がないといったメリットがあります。
設立費用の安さや経営のしやすさを重視する方から選ばれる傾向がある会社形態です。
役員報酬と給料の違い
合同会社を設立する際の重要な決定事項に、役員報酬の金額設定があります。
役員報酬はスタッフに支払う給料とは異なり、経営を委任された役員に対して支払われる報酬を指す言葉です。
給与は雇用契約に基づいて労働の対価として支払われます。
金額は役職や勤続年数などに応じて決まり、変更する際は労働者の同意が必要です。
一方、役員報酬は役員としての責任を果たすための対価です。
役員報酬額は会社の社員総会で決まり、原則として1事業年度は変更できないため、慎重に設定しなければなりません。
給与のように残業代や通勤手当などは加算されず、毎月一定の金額が役員に支払われます。
合同会社の役員報酬を決める際、役員に該当する出資者が役員報酬を受け取ります。
出資していない方に支払うお金は、役員報酬ではなく給与です。
合同会社の役員報酬で節税する際のルール
それでは、合同会社の役員報酬で節税する際のルールについて解説します。
合同会社から受け取った役員報酬分の金額を経費扱いするためには、本項目で解説する内容を守らなければなりません。
守らなければ損金算入が認められませんので、確認しておきましょう。
定期同額給与
合同会社から受け取る役員報酬を損金扱いして節税するには、定期同額給与の条件を満たす必要があります。
定期同額給与とは、役員報酬を毎月一定の金額で支払う形式のことです。
役員報酬は、合同会社の設立時または事業年度の開始から3ヶ月以内に金額を決めます。
そして、繰り返しになりますが、他のタイミングでは原則として変更できません。
他のタイミングでも変更できるケースはありますが、増額した分に関しては損金として認められず、税負担が増えてしまいます。
さらに、正当な理由がないまま役員報酬額を減らすと、減額分も損金算入できなくなります。
合同会社で役員報酬を損金算入する場合は、定期同額給与の条件を満たすように設定しましょう。
事前確定届出給与
続いては、事前確定届出給与です。
事前確定届出給与とは、役員に支給する金額と時期を届け出て、届け出た内容通りに賞与の形で支給する給与のことです。
本来であれば、合同会社で役員に支払う賞与は損金算入できません。
しかし、事前に役員に支給する賞与の金額と時期を決定したうえで、税務署に事前確定届出給与に関する届出書を提出後、届け出た通りに支払えば損金算入が認められます。
事前確定届出給与の届出には、以下のとおり提出期限があります。
ケース | 提出期限 |
A.新設法人で役員の職務を定めた | 設立日以降2ヶ月を経過する日 |
B.社員総会などの決議で支給について定めた | ⑴⑵のうち早い日
⑴①か②の早い方から1ヶ月経過する日 ①事前確定届出給与を定めた社員総会などの決議日 ⑵会計期間の開始日から4ヶ月経過した日 |
C.臨時改定事由が生じて事前確定届出給与の定めをした | ③④のうち遅い日
③上記①の届出期限 |
業績連動給与
最後は業績連動給与で、合同会社の役員報酬を業績に応じて変動させる給与のことです。
損金算入するためには、有価証券報告書などで業績指標や計算根拠を開示しなければならないため、株式を公開していない非上場の合同会社であれば適用されません。
役員報酬とは何か、いくらに設定するのが得かについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:役員報酬はいくらが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
合同会社の役員報酬の決め方
合同会社で役員報酬を損金算入して経費扱いするための条件について解説しました。
本項目からは、合同会社の役員報酬を決める方法について見ていきましょう。
よく用いられる定期同額給与として支給したうえで損金算入するケースで解説します。
役員報酬について定款で定める
合同会社における役員報酬の決め方として、定款で定める方法があります。
会社設立時の定款に役員報酬の金額について記載するのですが、決め方には以下の2種類があります。
- 総額を決めて各社員で分配する
- 各役員の報酬額を個別に定める
定款で役員報酬の金額を決めるメリットは、会社内外の透明性向上と運営方針への信頼性を高められる点です。
また、出資者同士のトラブルを回避できるため、安定した経営基盤を築きやすくなるメリットもあります。
ただし、合同会社から支給する役員報酬の金額を変更する際、定款そのものの変更が必要です。
つまり、社員の同意を得たうえで法的手続きを行わなければならないため、時間や手間がかかります。
合同会社の役員報酬について定款で定める際は、現在はもちろん、今後の運営方針や業績の変動も考慮しましょう。
社員の過半数の同意もしくは社員総会で決める
もうひとつの決め方として、社員の過半数の同意もしくは社員総会で決める方法があります。
役員報酬の金額を定款で定めない分、経営の状況や方針に合わせて変更しやすい点がメリットです。
社員総会で決める場合は、全社員で役員報酬に関する議題を協議したうえで決定します。
社員の過半数の同意を得る方法に比べると、全社員が参加する分手間はかかりますが、公平性を保ったまま意思決定するためトラブルに発展しづらいです。
役員報酬を変更できるタイミング
合同会社の役員報酬(定期同額給与)の変更は、いくつかのタイミングで行えば認められます。
まず、役員報酬の変更は、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。
事業年度の開始から3ヶ月を超えてしまった場合、原則として事業年度内の変更は認められません。
例外で役員の職制上の地位変更、経営状況の著しい悪化が原因で変更する必要がある場合は、役員報酬の金額を変更しても経費算入が認められます。
合同会社の役員報酬額の相場と考え方
それでは、合同会社の役員報酬額の相場と考え方について解説します。
相場も役員報酬を損金算入するうえで重要な考慮すべき要素ですので、確認しておきましょう。
同じ業種や規模の会社の報酬額相場を参考にする
合同会社の役員報酬を決める際、同じ業種や規模の会社の報酬額相場を参考にする方法があります。
業界における報酬額の水準を考慮すれば、自社の経営規模や収益に見合った金額を設定しやすいです。
合同会社の役員報酬の相場は国税庁の民間給与実態統計調査で確認できますので、参考にしてみてください。
本資料のデータは株式会社のものですが、業種や規模が同じであれば参考にできます。
役員報酬は合同会社の利益に直接影響するため、高額もしくは少額に設定するとバランスが悪くなり、税務上のリスクや経営資金の不足につながりかねません。
たとえば、税務調査に入られた場合、役員報酬の金額が相場とかけ離れていると不自然であると指摘されるおそれがあります。
もちろん、会社によって経営状況が異なりますので、相場どおりに設定できないケースもあります。
万が一、税務調査に入られて合同会社の役員報酬について質問された場合は、調査官に自社の経営状況に応じて設定した旨を説明しましょう。
税金と社会保険料とのバランスを考慮する
続いては、税金と社会保険料とのバランスを考慮する方法です。
役員報酬の金額は所得税や住民税といった税金だけでなく、健康保険や厚生年金といった社会保険料にも影響します。
高く設定すると社会保険料の負担が増加して、手取り減少につながるおそれがあります。
一方、低く設定すると、将来受け取る予定の年金額が減少しかねません。
自社に合った役員報酬の金額を設定するには、会社全体の税務負担だけでなく、事業の収益や社長個人の生活費なども考慮する必要があります。
自身で自社に合った役員報酬額を設定するのが困難な場合は、専門家である税理士への相談を検討しましょう。
会社の年間計画に沿って決める
最後は、合同会社の役員報酬を年間計画に沿って決定する方法です。
会社の経営状況や収益予測、事業の成長計画などに基づいて設定すれば、事業年度中に変更しなければならないリスクを軽減させられます。
たとえば、事業年度中に高額の投資を予定している場合、役員報酬を高めに設定すると運転資金が不足するおそれがあります。
一方、低めに設定しすぎると、役員の私生活に支障をきたすだけでなく、長期目線で税務負担を最適化するのが困難です。
合同会社の役員報酬を決める前に、会社全体の年間計画を明確にしたうえでシミュレーションしておきましょう。
合同会社の役員報酬を決める際の注意点
最後に、合同会社の役員報酬を決める際の注意点とよくある質問を紹介します。
いずれも金額を決めるうえで考慮すべき内容ですので、確認しておきましょう。
合同会社の役員報酬をゼロにするデメリット
合同会社の役員報酬をゼロに設定すると、会社に利益を残したり、社長個人の税金や社会保険料を抑えたりできます。
事業を行ううえで必要なコストをなるべく抑えたいと考えて、ゼロに設定する方がいます。
しかし、役員報酬をゼロにする行為には、以下のようなデメリットもあるため注意しましょう。
- 合同会社に利益を残すほど法人で納める税金が増加する
- 社会保険の加入資格を失う
合同会社で役員報酬を設定する際は、社長個人だけでなく法人の税金も考慮してシミュレーションを行い、社会保険に加入できなくなるリスクを念頭に置いたうえで金額を決めましょう。
役員報酬をゼロに設定するデメリットや注意点については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:役員報酬をなしにするデメリットと注意点|決める手順も解説
過大報酬は損金算入が認められない
合同会社の役員報酬を決める際は、多額すぎる報酬を受け取らないようにしましょう。
高額に設定しすぎると過大報酬とみなされて、損金算入が認められないおそれがあるからです。
役員報酬は本記事で解説した条件を守れば損金算入が認められますが、事業規模や支給される役員の業務内容などのバランスが取れていなければなりません。
たとえば、法人側の負担を軽減する目的で、事業規模を無視して多額の役員報酬を設定すると、税務調査で過大報酬とみなされるおそれがあります。
税務当局から役員報酬額が過大報酬であるとみなされた場合、損金算入は認められません。
つまり、負担を減らすどころか増やす結果につながってしまいます。
役員報酬が過大報酬かどうかの基準は定められていませんので、本記事で紹介した相場を参考にしつつ金額を決定しましょう。
まとめ
今回は、合同会社の役員報酬の相場と決め方について前提知識や注意点とあわせて徹底解説しました。
合同会社の役員報酬を決める際は、同規模の同業他社の設定金額を参考にしつつ、合同会社の役員報酬で節税する際のルールの見出しで解説したルールを守れるように設定しましょう。
同規模の同業他社の設定金額を参考にしておけば、税金や保険料の負担が増加したり、税務当局から過大報酬とみなされたりするリスクを回避しやすいです。
より自社に合った役員報酬額を設定して税金を抑えたい、他にも個人や合同会社で徹底できる適切な節税対策があれば実施したい、これから合同会社を設立する予定でスムーズに手続きを終えたい方は、お気軽に弊所までご相談くださいませ。