こんにちは、フリーランスエンジニアに強い税理士の植村拓真です。
弊所はマイクロ法人やIT業全般の顧問実績が豊富な会計事務所で、フリーランスエンジニアの方からよくマイクロ法人設立に関するご依頼もいただいております。
そんな中で特に、以下のようなご質問もいただく機会が多いです。
本記事を読んでいる方も、上記のようにお考えではないでしょうか。
今回はそんな方に向けて、フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する適切なタイミングについて、メリット・デメリット、やめるタイミングとあわせて解説します。
フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する適切なタイミング
フリーランスエンジニアのマイクロ法人設立には、適切なタイミングがあります。
なんとなくでマイクロ法人を設立すると、税負担の増加や法人の維持費などで損をしかねません。
マイクロ法人の設立を検討する際は、フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する適切なタイミングから確認しておきましょう。
関連記事:フリーランスエンジニアが法人化する目安|メリット・注意点とあわせて解説
社会保険料の負担を抑えたいとき
フリーランスエンジニアで社会保険料の負担を軽減させたいときが、マイクロ法人を設立する適切なタイミングです。
フリーランスエンジニアが加入する国民健康保険や国民年金の負担額は、収入が増加するほど大きくなります。
そこでマイクロ法人を設立し、法人で厚生年金と健康保険に加入して受け取る給与(役員報酬)を調整すれば、社会保険の負担額を抑えられます。
マイクロ法人の目的は社会保険料を抑えることですので、売上は会社を維持できる程度に稼ぎ、役員報酬は所得税と社会保険料を最低限に抑えられる4万5,000円程度に設定しましょう。
所得税が高くなってきたとき
所得税の負担が増加してきたときも、フリーランスエンジニアがマイクロ法人を設立する適切なタイミングです。
フリーランス(個人事業主)で所得が増えると、累進課税制度により所得にかかる税率も増加します。
そこでマイクロ法人を設立して所得の一部を法人側で受け取り、個人事業主と法人の間で所得を分散させれば、所得にかかる税率が低い法人税を活用して節税できます。
【取引先次第】課税売上高が1,000万円を超えそうなとき
最後に、課税売上高が1,000万円を超えて消費税の納税義務が発生する前のタイミングです。
本タイミングでマイクロ法人を設立して個人事業主の売上を移し、課税売上高を1,000万円以下に調整すれば、消費税の免税事業者を継続できます。
マイクロ法人と個人事業主の二刀流とは何かについては、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人と個人事業主の二刀流で節税するメリット・デメリットを解説
フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する理由・メリット
続いては、なぜフリーランスエンジニアがマイクロ法人を設立して二刀流するのか、そしてどんなメリットがあるのかについて解説します。
経費計上できる費用が少ないから
フリーランスエンジニアがマイクロ法人を設立して二刀流する理由として、経費が少ない点がよく挙げられます。
フリーランスエンジニアは、業務を行うために必要なパソコンやツールなどを購入する費用を経費計上できます。
しかし、他業種に比べると事業でかかる費用が少ないため、経費率が低い業種として有名です。
そこでフリーランスエンジニアで社会保険や税金の負担額を抑える手段として、売上が伸びてきた段階でのマイクロ法人設立が有効です。
マイクロ法人はフリーランスよりも経費計上できる範囲が広く、設立すれば先ほど解説した二刀流のメリットも享受できます。
そのため、フリーランスエンジニアで手元により多くの資金を残したい方の中には、マイクロ法人を設立して二刀流する方もいます。
マイクロ法人で事業を選択しやすいから
フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する理由として、事業形態ごとに別々の事業を選択しやすい点も挙げられます。
後ほど解説しますが、マイクロ法人と個人事業主を二刀流する際の各事業形態の業種は、別々のものを選択しなければなりません。
税務署から租税回避と見なされて、税務調査の対象となるリスクがあるからです。
そこでフリーランスエンジニアであれば、個人事業主でエンジニア、法人にてコンサルティングや教育事業を選択するケースがあります。
法人側でエンジニアで培ったノウハウや経験を活かして事業を選択できるため、マイクロ法人を設立しやすい傾向があります。
関連記事:マイクロ法人でおすすめの事業や業種の選び方を税理士が解説
他業種に比べて経理や税務会計に時間がかからないから
フリーランスエンジニアは他業種に比べて経理や税務会計にかかる時間が少ないため、節税対策の手段としてマイクロ法人の設立が選択されるケースがあります。
エンジニアの業務では複雑な在庫管理や多額の設備投資が必要ないため、経理や税務会計が他業種よりもシンプルです。
また、繰り返しになりますが、フリーランスエンジニアは経費が少ない傾向があるため、経理処理が複雑になりづらい傾向があります。
とはいえ、マイクロ法人と個人事業主を二刀流する際は、各事業形態で税金を申告する必要があります。
確定申告や決算申告などの経験がなく、フリーランスエンジニアの事業に集中したい方は、税理士への依頼を検討してみましょう。
フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する際の注意点・デメリット
マイクロ法人とはいえ法人には変わりありませんので、設立前後で注意点やデメリットもあります。
本項目で解説する内容を知らなければ、マイクロ法人の設立を後悔する恐れがありますので、マイクロ法人を設立する前に確認しておきましょう。
マイクロ法人の設立に時間がかかる
繰り返しになりますが、マイクロ法人は法人に変わりないため、設立に時間がかかります。
設立する際には、定款の作成や公証役場での認証、登記申請など、さまざまな手続きが必要です。
各種手続きはスムーズに行えた場合でも、すべてを完了するまでに数週間〜1ヶ月程度かかる傾向があります。
さらに、マイクロ法人の設立手続きが完了したあとも、法人用の銀行口座を開設したり、税務署への届け出、社会保険の手続きなどが必要です。
上記のとおり、マイクロ法人の設立には多くの時間がかかります。
すぐに事業を開始できないケースもありますので、準備期間があることを理解したうえで、設立のタイミングを見極めましょう。
年金が減額されるリスクがある
マイクロ法人と個人事業主の二刀流には、将来受け取る年金が減るリスクがあります。
マイクロ法人で厚生年金に加入すると、法人の収入や役員報酬を基に年金が算出されるからです。
厚生年金は収入に応じて保険料が変動するので、マイクロ法人で節税するために役員報酬を低く設定すると保険料も低くなり、将来受け取る年金が減額されてしまいます。
マイクロ法人と個人事業主を二刀流する際は、年金が減額されるリスクを考慮したうえで、役員報酬の設定や今後の資金計画を慎重に行って、経済面での安定を確保しましょう。
関連記事:役員報酬はいくらにするのが得?節税対策と効果を最も高める方法を解説
マイクロ法人の設立と維持に費用がかかる
マイクロ法人の設立では、定款の作成や公証役場にて行う認証、登記など、さまざまな場面で費用がかかります。
これらの設立費用は数万〜十数万円かかるため、設立時にまとまった資金が必要です。
さらに、マイクロ法人を維持するためには、社会保険料や法人の住民税均等割など、さまざまな維持費が必要です。
特に、税理士に設立手続きや経理。税務会計を依頼する場合、税理士報酬も設立費や維持費として考慮しなければなりません。
マイクロ法人を設立する際は、法人の設立費と維持費も含めたうえで、運営にかかるコストのシミュレーションを行っておきましょう。
自宅の住所がバレるリスクがある
マイクロ法人の設立で法務局にて登記を行う際、自宅の住所を使用すると第三者にバレるリスクがあります。
法人の情報が記載されている登記簿謄本は、法務局で手続きを行えば誰でも閲覧できるからです。
(※令和6年10月1日より施行される代表取締役等住所非表示措置により非表示にできるケースもあります)
自宅の住所が公開されていると、プライバシー侵害のリスクが高まり、不要な営業や訪問を受ける恐れもあります。
ですので、第三者に自宅の住所を知られて困る場合は、登記を行う際にバーチャルオフィスやレンタルオフィスを利用しましょう。
事業の活動実態がないと脱税や租税回避に該当するリスクがある
フリーランスエンジニアとマイクロ法人で二刀流する際、事業の活動実態がない場合に税務署から脱税や租税回避とみなされるリスクがあります。
たとえマイクロ法人の設立が節税目的であったとしても、実際に事業が行われておらず、税務署から名目だけの法人であるとみなされた場合、税務調査で指摘されてペナルティを課されかねません。
たとえば、マイクロ法人と個人事業主との間で事業内容や収入・経費などに区別がない場合、税務調査に入られるリスクが高いです。
ですので、マイクロ法人と個人事業主で別々の事業内容を選択したうえで収入や経費を分けて、マイクロ法人でも事業を行い、税務調査のリスクを回避しましょう。
関連記事:マイクロ法人設立で後悔する理由と対策を税理士が徹底解説
マイクロ法人の作り方
マイクロ法人の作り方について簡単に解説します。
まず、マイクロ法人の基本事項を決めますが、普通の法人と特に変わりはありません。
法人名、事業内容、資本金の額、事業年度の開始日などを決めていきます。
続いては、マイクロ法人のルールに関する書類である定款を作成します。
記載内容は事業内容や役員の任期、株主総会の方法などです。
定款を作成したあとは、手数料を支払って公証役場で認証を受けます。
定款の認証が完了したあとは、法務局で法人登記を行いましょう。
法務局で登記申請を行う際は、定款や役員の住民票、資本金の払込証明書などの必要書類を持参します。
登記が完了しましたら、税務署や自治体に法人設立届を提出して、社会保険の加入手続きを行いましょう。
各種手続きには期限がありますので、忘れないように行いましょう。
マイクロ法人の設立手順については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:マイクロ法人と個人事業主の二刀流で節税するメリット・デメリットを解説
また、フリーランスエンジニアの事業に集中しながらマイクロ法人を設立したい、適切な節税対策を徹底したい方は、税理士への依頼を検討してみましょう。
関連記事:マイクロ法人に強い税理士は必要?費用相場や後悔しない選び方を解説
フリーランスエンジニアがマイクロ法人と個人事業主の二刀流をやめるタイミング
主に社会保険料の節約や税金の節税目的で設立するマイクロ法人ですが、以下のケースでは個人事業主との二刀流をやめるタイミングだといえます。
- 法人で一本化したほうが節税できる
- 法人の対外的な信用度の高さを活かして事業を行いたい
- 大きく資金調達を実施して事業拡大を目指したい
- マイクロ法人の維持費を支払えない
- 法人と個人事業主の経理や税務会計を正確に行う余裕がない
繰り返しになりますが、あくまでマイクロ法人は社会保険や税金の負担を抑えるための法人です。
大きな売上にかかる税金を抑えたり、売上を伸ばして取引先や金融機関などの信用を得たい場合は、マイクロ法人の特徴を活かせません。
売上が伸びたり、事業拡大を目指したい場合は、法人一本で事業を行ったほうが税金面や信用面で有利です。
さらに、法人一本で事業を行えば、個人事業主分の経理や税務会計の負担が軽減されます。
また、マイクロ法人を維持できない、経理や税務会計の負担が大きくて正確に行う余裕がない場合も、マイクロ法人と個人事業主の二刀流をやめるタイミングです。
関連記事:法人成りを税理士に相談する必要性|メリットや費用相場も解説
まとめ
今回は、フリーランスエンジニアがマイクロ法人と二刀流する適切なタイミングについて、メリット・デメリット、やめるタイミングとあわせて解説しました。
フリーランスエンジニアでマイクロ法人を設立して二刀流する際は、以下の点に注意しましょう。
- 法人設立に時間と費用がかかる
- 年金が減額される恐れがある
- 第三者が登記情報を確認できる
- 事業実態がないと税務調査に発展する恐れがある
フリーランスエンジニアは他業種に比べると、マイクロ法人と個人事業主で二刀流しやすい業種です。
故にマイクロ法人の設立を検討される方が多いのですが、上記のとおりメリットだけでなくデメリットや注意点もあります。
フリーランスエンジニアで売上が少ない、顧問税理士をつける予定がなく経理や税務会計を正確に行う余裕がない、税務調査に対応できないといった方は、後悔しないためにもマイクロ法人の設立を見送りましょう。