こんにちは、フリーランスエンジニアの顧問実績が豊富な税理士の植村拓真です。
2024年11月からフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行され、フリーランスエンジニアの方が安心して働ける環境整備が進められています。
弊所でも、フリーランスエンジニアの方から、税務に関するご相談をいただく機会が増えてきており、以下のような質問をよくいただきます。



本記事を読んでいるフリーランスエンジニアの方の中にも、上記のような疑問を抱いている方がいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、フリーランスエンジニアが使える節税対策に関して、経費や控除などの活用について詳しく解説します。
売上規模が拡大し、納める税金の額が増えてきているフリーランスエンジニアの方は、本記事を参考にしてみてください。
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フリーランスエンジニアが使える節税対策
本項目では、フリーランスエンジニアが使える節税対策について解説します。
フリーランスエンジニアが使える主な節税対策は、次のとおりです。
- e-Taxを利用して青色申告を行う
- 家族を青色事業専従者にする
- 必要経費を適切に計上する
- 税額控除を活用する
- 所得控除を活用する
- 少額減価償却資産の特例を活用する
- iDeCoへの加入
- 小規模企業共済への加入
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
e-Taxを利用して青色申告を行う
たとえば、課税所得が500万円の場合、青色申告特別控除を適用すれば、課税所得を435万円まで抑えられます。
最大65万円の特別控除を受けるには、複式簿記による記帳に加え、下表のとおり、e-Tax(イータックス)での電子申告または優良な電子帳簿の保存が必要です。
e-Taxとは、国税庁が提供する国税電子申告・納税システムで、申告や納税などをインターネットを通じてオンライン上で行えるサービスです。
優良な電子帳簿の保存要件については、国税庁のホームページをご参照ください。
なお、青色申告を選択する場合、納税地を所轄する税務署へ青色申告承認申請書を、下表の期限内に提出しましょう。
e-Taxを利用して青色申告を行う際に不明な点がある場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
関連記事:確定申告の丸投げがフリーランスに必要なケースと費用相場を解説
家族を青色事業専従者にする
家族を青色事業専従者にすると、支払った給与を経費計上できるため、課税所得の圧縮による節税効果が期待できます。
生計を一にする配偶者や親族が、年間を通じて6か月を超える期間、ご自身の事業活動の手伝いを行っていれば、青色事業専従者として認められます。
ただし、労務の対価として不相当に高い給与を支払っているケースでは、過大な部分に関して経費計上を否認されるおそれがあるため注意しましょう。
白色申告でも同様の制度がありますが、経費計上できる金額に以下のような上限が設けられているため、青色申告を選択した方が、高い節税効果を期待できます。
事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ事業専従者一人につき50万円
引用:国税庁(No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除)
なお、家族を青色事業専従者にする場合、青色事業専従者給与に関する届出書を、下記の期限までに納税地を所轄する税務署へ提出しましょう。
青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2月以内)に提出してください。
なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
引用:国税庁(A1-11 青色事業専従者給与に関する届出手続)
必要経費を適切に計上する
必要経費を適切に計上すれば、課税所得を圧縮できるため、税負担の軽減が期待できます。
- 経費計上できる主な支出
- 経費計上できる主な税金
経費計上できる主な支出
フリーランスエンジニアが経費計上できる主な支出は、次のとおりです。
なお、自宅を事務所として使っているケースで、水道光熱費や通信費などの家事関連費を経費計上する場合、合理的な割合で家事按分する必要があります。
家事関連費に該当する支出は、事業で使用している割合のみ経費計上が認められており、支出の全額を経費計上できないため注意が必要です。
フリーランスエンジニアが経費計上できる支出については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:フリーランスエンジニアは経費率が少ない!一例や計上時の注意点を税理士が解説
関連記事:副業ITエンジニアの経費まとめ|申告が必要なケースから経費の例まで解説
経費計上できる主な税金
フリーランスエンジニアが経費計上できる主な税金は、以下のとおりです。
固定資産税や自動車税を経費計上する場合、自宅や車をプライベートと事業の両方で使っているケースでは、合理的な割合で家事按分する必要があるため注意しましょう。
また、延滞税や加算税などの罰則的な性質を持つ税金も、必要経費の対象外です。税金を経費計上する際に不明な点がある場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
参考:国税庁(租税公課|令和6年分 確定申告書等作成コーナー よくある質問)
税額控除を活用する
税額控除は、算出された所得税額から一定の金額を控除する制度であり、同額の所得控除と比べると高い節税効果を期待できます。
税額控除には、さまざまな種類があり、フリーランスエンジニアが活用しやすいものとしては、次のとおりです。
- 配当控除
- 外国税額控除
- 住宅借入金等特別控除
- 住宅耐震改修特別控除
- 住宅特定改修特別税額控除
- 認定住宅等新築等特別税額控除
上記の詳細については、国税庁のホームページをご参照ください。
関連記事:確定申告の丸投げがフリーランスに必要なケースと費用相場を解説
所得控除を活用する
所得控除の適用によって、課税所得を減らせるため、節税効果が期待できます。フリーランスエンジニアが活用できる主な所得控除は、次のとおりです。
- 社会保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 医療費控除
- 寄附金控除
- 基礎控除
- 生命保険料控除
上記について順番に解説していきます!
社会保険料控除
フリーランスエンジニアの方が支払う国民健康保険や国民年金などの保険料は、社会保険料控除の対象です。
年間で支払った社会保険料の合計金額を、所得から控除できるため、高い節税効果が期待できます。
下記のとおり、家族の分も代わりに納付している場合、社会保険料控除に含められるため、制度を漏れなく活用しましょう。
納税者が自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができます。
引用:国税庁(No.1130 社会保険料控除)
配偶者控除
配偶者控除は、配偶者の合計所得金額が48万円以下で、ご自身の合計所得金額が1,000万円以下の場合に適用されます。
なお、合計所得金額に関しては、国税庁のホームページをご参照ください。
控除の対象となる配偶者とは、12月31日の時点で、次の4つの要件をすべて満たしている人です。
(1)民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
引用:国税庁(No.1191 配偶者控除)
配偶者の所得がパートやアルバイトなどの給与所得のみの場合、給与所得が103万円以下であれば、配偶者控除を受けられます。
上記のケースでは給与所得控除が適用されるため、下記の計算式のとおり、合計所得金額が48万円以下の要件に収まるからです。
103万円 ー 55万円(給与所得控除額) = 48万円
下表のとおり、配偶者控除の控除額は、ご自身の合計所得金額に応じて決まります。
配偶者控除を活用するにあたって不明な点がある場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
扶養控除
扶養控除は、年齢が16歳以上で、合計所得金額が48万円以下の親族を扶養している場合に適用できる控除です。
一般の控除対象扶養親族に該当する場合は38万円、19歳以上23歳未満の特定扶養親族に該当する場合は、63万円の控除が受けられます。
70歳以上の老人扶養親族については、同居している場合は58万円、同居していない場合は、48万円の控除が受けられます。
なお、扶養控除の対象となる親族の要件に関しては、国税庁のホームページもご参照ください。
医療費控除
医療費控除は、ご自身もしくは家族のために支払った医療費が、一定額を超えた場合に適用できる所得控除です。医療費控除の控除額は、以下の計算式で算出されます。
引用:国税庁(No.1120 医療費を支払ったとき|医療費控除)
医療費控除の控除額は、最高で200万円です。医療費控除の対象となる主な医療費は、以下のとおりです。
- 診療費
- 治療に必要な医薬品の購入費
- 出産に関連する費用
- 入院にかかる費用
- 歯の治療にかかる費用
なお、下記のとおり、医療費の領収書は、5年間保管しておく必要があります。
医療費控除の明細書の記載内容を確認するため、確定申告期限等から5年を経過する日までの間、医療費の領収書(医療費通知を添付したものを除きます。)の提示または提出を求める場合があります。
引用:国税庁(No.1120 医療費を支払ったとき|医療費控除)
参考:国税庁(No.1122 医療費控除の対象となる医療費)
関連記事:【個人事業主・法人対応】確定申告を税理士に丸投げする費用相場やメリット・デメリットを解説
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寄附金控除
引用:総務省(個人住民税における寄附金税額控除の対象寄附金)
なお、下記のとおり、税額控除を選択できるものもあります。
政治活動に関する寄附金、認定NPO法人等に対する寄附金または公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除に代えて、税額控除を選択することができます。
引用:国税庁(No.1150 一定の寄附金を支払ったとき|寄附金控除)
ふるさと納税も寄付金控除の対象です。ふるさと納税の概要は、以下のとおりです。
ふるさと納税は、ご自身の選んだ自治体に対して寄附を行った場合に、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税および個人住民税からそれぞれ控除が受けられる制度
引用:国税庁(No.1155 ふるさと納税|寄附金控除)
寄附先が寄附金控除の対象かどうかは不安な場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
関連記事:【個人事業主・法人対応】確定申告を税理士に丸投げする費用相場やメリット・デメリットを解説
基礎控除
基礎控除は、確定申告を行う全員に適用される所得控除です。現行の控除額は、下表のとおりです。
500万円 ー 48万円(基礎控除の控除額)= 452万円(課税所得)
なお、下記のとおり、令和7年度税制改正により、令和7年12月1日から基礎控除の控除額の引き上げが行われる予定です。
令和7年度税制改正では、物価上昇局面における税負担の調整の観点から、所得税の基礎控除の控除額及び給与所得控除の最低保障額の引上げを行います。その上で、低~中所得者の方の税負担への配慮から、基礎控除の特例として、所得額に応じた上乗せを行います。
引用:財務省(基礎控除等の引上げと基礎控除の上乗せ特例の創設)
令和7年分以降の確定申告では、下表の控除額が適用されます。
引用:国税庁(令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について)
生命保険料控除
- 生命保険料
- 介護医療保険料
- 個人年金保険料
下表のとおり、新制度と旧制度に分かれており、控除できる限度額が定められています。
引用:公益財団法人生命保険文化センター(税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」)
新制度の場合、各区分で最大4万円、合計で最大12万円まで控除できます。新制度の控除額を求める際の計算式は、下表のとおりです。
一方、旧制度の控除額を求める際の計算式は、下表のとおりです。
なお、生命保険料控除を受ける場合、保険会社が発行する控除証明書を、確定申告の際に添付もしくは提示する必要があります。
生命保険料控除の制度は複雑であるため、活用するにあたって不明な点がある場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
少額減価償却資産の特例を活用する
少額減価償却資産の特例は、青色申告を行うフリーランスエンジニアの方が活用すべき制度のひとつです。
原則、法定耐用年数が1年以上かつ取得価額が10万円以上の資産は、減価償却が必要です。
ただし、少額減価償却資産の特例を活用すれば、取得価額30万円未満の資産に関しては、取得年度に一括で経費計上できます。
たとえば、25万円のパソコンを購入した場合、本来は4年かけて減価償却するところを、上記の特例によって購入した年度に全額を経費で落とせます。
フリーランスエンジニアの方が、少額減価償却資産の特例を適用できる見込みのある資産は、次のとおりです。
- パソコン
- プリンタ
- ソフトウェア
- 事業活動で使用する机や椅子
なお、少額減価償却資産の特例の限度額は、年間で300万円までと定められています。
弊所では、税務相談も実施しておりますので、少額減価償却資産の特例や減価償却に関して不明な点がある場合は、お気軽にご相談くださいませ!
参考:中小企業庁(少額減価償却資産の特例)
参考:国税庁(No.2100 減価償却のあらまし)
参考:国税庁(主な減価償却資産の耐用年数表)
参考:国税庁(No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数)
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iDeCoへの加入
iDeCoに加入すると、以下のようなメリットが得られます。
引用:iDeCo公式サイト(iDeCo〔イデコ〕のメリット)
iDeCoの掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象です。
フリーランスエンジニアの方は、国民年金第1号被保険者に該当するため、掛金の上限額は毎月68,000円までであり、年間で最大816,000円まで控除できます。
老後の資産形成と節税対策を同時に実現できるのが、iDeCoへ加入して得られるメリットです。
なお、iDeCoは毎月5,000円の掛金からスタートでき、掛金の額は1,000円単位で自由に設定できます。また、掛金の額は1年に1回限り変更できます。
小規模企業共済への加入
小規模企業共済は、フリーランスエンジニアの方が、廃業や老後に備えて積み立てておける退職金制度です。
小規模企業共済の掛金は、月額1,000〜70,000円まで500円単位で設定でき、掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除の対象です。
上記のため、年間で最大84万円分を所得から控除できます。
上記の詳細については、国税庁のホームページもご参照ください。小規模企業共済への加入要件は、下記のとおりです。
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊・娯楽業を除く)は、常時使用する従業員数が 5 人以下、建設業、製造業等は常時使用する従業員数が20人以下の個人事業主または会社等の役員です。フリーランスの方は、雇用関係がなく請負契約・準委任契約等で、事業所得で申告されている方になります。
引用:独立行政法人 中小企業基盤整備機構(小規模企業共済)
以上のように、小規模企業共済を活用すれば、将来への備えと節税対策を同時に実現できます。
参考:中小企業庁(小規模企業共済制度について)
参考:国税庁(No.1135 小規模企業共済等掛金控除)
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フリーランスエンジニアが節税対策を実施するメリットとデメリット
本項目では、フリーランスエンジニアが節税対策を実施するメリットとデメリットについて解説します。
節税対策を実施するメリットとデメリットは、次のとおりです。
- 手取りの増加が期待できる
- 節税対策に手間がかかる
それでは、順番に見ていきましょう。
手取りの増加が期待できる
適切な節税対策を実施すると、納税額を減らせるため、手取りの増加が期待できます。
青色申告特別控除や所得控除、必要経費などを適切に活用すれば、所得税や住民税の負担を軽減させられます。
また、節税対策の実施は、納める税金を少なくするだけでなく、事業の成長と収益の安定化を実現するためにも重要です。
- 外注を活用する
- 新規事業を展開する
- 法人化の準備資金に充てる
- 小規模企業共済やiDeCoへ加入する
- 業務効率化ツールや設備に投資する
- 広告宣伝やブランディングに力を入れる
- スキルアップのために研修やセミナーを受講する
- 経営やマーケティングのコンサルティングを受ける
以上のように、節税対策によって手取りが増加すると、事業活動を有利に進められる選択肢も増えます。
節税対策に手間がかかる
フリーランスエンジニアの方が節税対策を実施する場合、経理や税務会計に関する業務に時間をとられる点はデメリットです。
- 会計ソフトへの入力作業
- 経費計上の証憑書類となる領収書や請求書の保管
- 納税地を所轄する税務署へ提出する申請書類の作成
特に、青色申告の場合、複式簿記による記帳が求められるため、白色申告と比べると処理が複雑です。
また、確定申告の期限前は、帳簿の整理や確定申告書の作成に追われ、フリーランスエンジニアの業務に集中できない状況に陥るおそれもあります。
税務に関する知識に不安があったり、節税対策に割ける時間が足りなかったりする場合、税理士への依頼も検討してみましょう。
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フリーランスエンジニアの税金の基礎知識
本項目では、フリーランスエンジニアの税金の基礎知識について、下記の2点に分けて解説します。
- 納付する主な税金
- 課税所得の計算方法
それでは、順番に見ていきましょう。
納付する主な税金
フリーランスエンジニアが納付する主な税金は、次のとおりです。
- 消費税
- 個人事業税
- 所得税
- 個人住民税
消費税
事業者は消費者から受け取った消費税を、消費者の代わりに申告と納付する仕組みになっています。
原則、消費税の納税義務が発生するのは、下表のとおり、前々年の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。
引用:国税庁(消費税のしくみ)
2023年10月からインボイス制度が導入されたため、課税売上高が1,000万円を超える見込みがない場合でも、インボイス発行事業者の登録を検討しましょう。
インボイスを発行できない消費税の免税事業者のままでいると、今後の取引に影響が出るおそれがあるからです。
消費税の免税事業者との取引では、仕入税額控除を受けられないため、取引先は税負担が増加します。
上記の結果、取引先は消費税の免税事業者との取引を中止したり、消費税相当分の値引きを求めてきたりするおそれがあります。
なお、インボイス発行事業者の登録を行うと、消費税の課税事業者として消費税の申告が必要になるため注意しましょう。
インボイス発行事業者の登録を行うべきかどうか判断に迷う場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
フリーランスエンジニアが受けるインボイス制度の影響については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:フリーランスエンジニアのインボイス制度影響まとめ|登録しないで免税事業者を選ぶ際の注意点も解説
個人事業税
原則、年間290万円の事業主控除を超える所得に対して課税されます。個人事業税の税率は、法定業種ごとに3〜5%で設定されています。
個人事業税の納付時期は、原則として、8月と11月の年2回です。フリーランスエンジニアは法定業種に明示されていないため、事業活動の実態により課税の有無が判断されます。
取引先と請負契約を結んでいたり、事業活動の実態が請負業とみなされたりする場合、個人事業税の課税対象です。
所得税
所得税は1〜12月の1年間の所得に応じて課される国税です。
所得税の税率は超過累進税率であるため、下表のとおり、所得が多くなるにつれて段階的に上昇し、最高45%に達します。
所得税の課税対象は、収入金額から必要経費や所得控除を差し引いた課税所得です。なお、所得控除は15種類あるため、適切に活用すれば、税負担の軽減が期待できます。
上記の詳細については、本記事の所得控除を活用するの項目もご参照ください。
参考:国税庁(所得税のしくみ)
参考:国税庁(第5 報酬・料金等の源泉徴収事務)
参考:国税庁(No.1100 所得控除のあらまし)
個人住民税
個人住民税は、居住地の都道府県および市区町村に納める地方税で、地域の行政サービスに必要な費用を住民が公平に負担する仕組みです。
下表のとおり、個人住民税は主に均等割と所得割の2つで構成されています。
原則、所得割は前年の課税所得に対して、都道府県民税4%と市町村民税6%の合計10%が課税されます。
一方、均等割は所得に関係なく定額で課税され、均等割の内訳は、次のとおりです。
- 市町村民税:3,000円
- 都道府県民税:1,000円
- 森林環境税:1,000円
なお、所得税は非課税でも、控除額の違いにより個人住民税が課税されるケースもあるため注意しましょう。
参考:東京都主税局(個人住民税|暮らしと税金)
参考:武蔵野市(所得税は非課税でしたが住民税は課税になりました 非課税となる基準が異なりますか)
参考:国税庁(No.1199 基礎控除)
課税所得の計算方法
所得税や住民税の税率は課税所得に対してかかるため、課税所得の金額は税負担を左右します。
課税所得 = 収入金額 ー 必要経費 ー 所得控除
収入金額はフリーランスエンジニアの事業活動で得られた報酬の総額を指します。また、必要経費は報酬を得るためにかかる費用を指し、以下のような支出が該当します。
- OA機器の購入費
- オフィスの家賃や水道光熱費
- 携帯電話やインターネットの利用料金
- スキルアップのための研修費
なお、プライベートでも利用しているものに関しては、合理的な割合で家事按分が必要ですので、経費計上する際には注意しましょう。
家事按分の割合に関して不明な点がある場合は、税理士への相談も検討してみましょう。
繰り返しになりますが、所得控除は基礎控除や社会保険料控除など、全部で15種類あり、節税効果が期待できます。
参考:国税庁(No.1300 所得の区分のあらまし)
参考:国税庁(No.2210 必要経費の知識)
参考:国税庁(No.1100 所得控除のあらまし)
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フリーランスエンジニアの節税対策の一環として法人化も検討する
本項目では、フリーランスエンジニアの法人化について解説します。
法人化は節税対策のひとつとして有効な手段です。
フリーランスエンジニアの法人化に関して、以下の観点に分けて解説していきます。
- 法人化の基礎知識
- 法人化のメリット
- 法人化のデメリット
- 法人化の判断基準
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
法人化の基礎知識
法人化の基礎知識として、法人税と所得税の税率の違いについて解説していきます。法人化後は所得税ではなく法人税を納めるようになります。
法人税の税率
法人税の税率は、下表のとおりです。
資本金1億円以下の普通法人の場合、課税所得800万円以下の部分にかかる税率は15%で、課税所得800万円を超える部分には23.2%の税率が適用されます。
たとえば、課税所得1,000万円のケースにおける法人税の税額は、下記のように算出されます。
800万円 ✕ 15% + 200万円 ✕ 23.2% = 166万4,000円
繰り返しになりますが、個人事業主が納める所得税は、超過累進税率であり、最高税率は45%です。
一方、法人税の税率は23.2%で頭打ちとなるため、課税所得が多い場合は、法人化による節税効果が期待できます。
関連記事:法人税と所得税ならどっちが得?税金面で法人化すべきケースを解説
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所得税の税率
繰り返しになりますが、個人事業主が納める所得税は、課税所得の増加に応じて税率が高くなる超過累進税率を採用しています。所得税の税率は、下表のとおりです。
上記の理由から、課税所得が330万円以上の場合、法人税を適用した方が、節税効果を期待できるケースがあります。
ただし、後述しますが、法人化には以下のようなデメリットもあるため注意が必要です。
- 手間やコストがかかる
- 社会保険へ加入しなければならない
- 赤字の場合でも発生する税金がある
法人化を検討する場合は、以上のようなデメリットも踏まえながら、総合的に判断しましょう。
関連記事:法人税と所得税ならどっちが得?税金面で法人化すべきケースを解説
法人化のメリット
フリーランスエンジニアが法人化によって得られるメリットは、次のとおりです。
- 税率が緩やかになる
- 経費計上できる範囲が広がる
- 社会的な信用度が高まる
上記について順番に解説していきます!
税率が緩やかになる
繰り返しになりますが、所得税は超過累進税率のため、下表のとおり、課税所得が増えるにつれて段階的に税率が上昇します。
一方、下表のとおり、法人税は課税所得に対して一定の税率であるため、所得税と比べると税率が緩やかです。
下表は課税所得1,000万円のケースで、所得税と法人税の税額を比較したものですが、法人税の方が約10万円節税できるのが分かります。
比較項目 | 計算式 | 税額 |
所得税 | 1,000万円 ✕ 33% ー 1,536,000円 | 1,764,000円 |
法人税 | 800万円 ✕ 15% + 200万円 ✕ 23.2% | 1,664,000円 |
関連記事:フリーランスエンジニアが法人化するタイミング|メリット・注意点とあわせて解説
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経費計上できる範囲が広がる
法人化すると必要経費として認められる費用の範囲が広がるため、課税所得の圧縮による節税効果が期待できます。
法人化によって経費計上できる範囲が広がる主な理由は、次のとおりです。
- 給与の概念がある
- 法人格の取得によりプライベートとの境目が明確になる
- 役員報酬
- 退職金
- 出張日当
ただし、法人化したからといって、すべての支出が無条件で認められるわけではなく、一定の要件が設けられているため注意しましょう。
なお、法人が経費で落とせるものについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事:一人社長が経費で落とせるもの一覧|制限があるもの・落とせないものも解説
関連記事:合同会社が経費で落とせるもの一覧|いくらまで経費計上できる?
社会的な信用度が高まる
法人登記によって、法人格が付与され、社会的に認められた組織として扱われます。
法人名義での契約ができるようになり、事務所の賃貸借契約や融資の審査などの場面で、個人事業主と比べると信用を得やすくなります。
また、社会的な信用度を重視する大手企業と取引できる確率が高まるのも、法人化で得られるメリットのひとつです。
法人化による社会的な信用度の向上によって、活用できる補助金や助成金の選択肢も増えるため、個人事業主と比べると資金調達もしやすくなります。
関連記事:フリーランスが法人化して1人社長になるメリットとデメリットを解説
法人化のデメリット
フリーランスエンジニアが法人化した場合、以下のようなデメリットもあるため念頭に置きましょう。
- 手間やコストがかかる
- 社会保険へ加入しなければならない
- 赤字の場合でも発生する税金がある
上記について、ひとつずつ解説していきます。
手間やコストがかかる
法人化には初期費用がかかったり、継続的な業務負担が発生したりするなど、個人事業主と比べると手間やコストがかかります。
たとえば、株式会社で法人を設立する場合、登録免許税や定款認証の手数料などを合計すると、20万〜25万円程度が必要です。合同会社で法人を設立する場合でも、約10万円かかります。
また、法人化すると決算が必要になるため、経理や税務会計に関する業務が煩雑になったり、専門知識を求められる場面が増えたりします。
上記のため、法人化後は税理士と顧問契約を結ぶケースも多いです。以上のように、法人化によって、さまざまな手間やコストが発生する点は、念頭に置きましょう。
参考:国税庁(No.7191 登録免許税の税額表)
参考:日本公証人連合会(9-4 定款認証)
関連記事:フリーランスが法人化して1人社長になるメリットとデメリットを解説
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社会保険へ加入しなければならない
法人化すると、たとえ自分1人だけの会社であっても、社会保険へ加入しなければなりません。
上記のため、国民健康保険から健康保険へ、国民年金から厚生年金へ切り替える必要があります。
社会保険は会社と個人が半分ずつ負担する労使折半のため、一人社長の場合、個人事業主の頃と比べると負担が重くなるおそれがあります。
比較項目 | 保険料の月額 | 保険料の月額の合計 | |
法人(一人社長) | 健康保険 | 約49,000円 | 約140,000円 |
厚生年金 | 約91,000円 | ||
個人事業主 | 国民健康保険 | 約53,000円 | 約70,000円 |
国民年金 | 約17,000円 |
なお、上表は新宿区在住の35歳単身者のケースでシミュレーションしています。
以上のように、法人化によって生じる社会保険の負担は、資金繰りに影響を及ぼすおそれがあるため注意が必要です。
参考:地方厚生局(社会保険〔厚生年金保険・健康保険〕への加入手続はお済みですか?)
参考:全国健康保険協会(令和7年3月分〔4月納付分〕からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|東京支部)
参考:新宿区(令和7年度 国民健康保険料 概算早見表|総所得金額等)
参考:日本年金機構(国民年金保険料)
関連記事:あえて法人化しない理由とは?したほうがいいケースも解説
赤字の場合でも発生する税金がある
個人事業主で赤字の場合は、所得税や住民税は課されません。しかし、法人化すると、赤字の場合でも、法人住民税の均等割を納める必要があります。
法人住民税の均等割の税額は、下表のとおりです。
資本金が1,000万円以下で、従業員数が50人以下のケースでは、年間7万円の均等割が発生します。
繰り返しになりますが、上記は赤字の場合でも納税義務が生じるため、資金計画に織り込んでおく必要があります。
関連記事:法人化で後悔したくない!失敗しないコツを税理士が解説
法人化の判断基準
フリーランスエンジニアが法人化を検討する際、以下の2点を判断基準にしましょう。
- 法人化しても損しない年収がある
- 翌年以降も安定した収益が予想される
法人化しても損しない年収がある
法人化しても損しない年収があるかどうかは、法人化の判断基準のひとつです。
所得税よりも法人税を適用した方が、税負担の軽減を見込める年収で法人化すれば、節税額と上記の負担を相殺できます。
下表は課税所得ごとに法人税と所得税の税額を、比較したものです。
課税所得 | ①法人税の税額 | ②所得税の税額 | ①ー② |
300万円 | 約45万円 | 約20万円 | 約25万円 |
400万円 | 約60万円 | 約37万円 | 約23万円 |
500万円 | 約75万円 | 約57万円 | 約18万円 |
600万円 | 約90万円 | 約77万円 | 約13万円 |
700万円 | 約105万円 | 約97万円 | 約8万円 |
800万円 | 約120万円 | 約120万円 | 約0万円 |
900万円 | 約143万円 | 約143万円 | 約0万円 |
1,000万円 | 約166万円 | 約176万円 | 約▲10万円 |
なお、上表は資本金1億円以下の普通法人のケースで、シミュレーションしています。上表のとおり、課税所得1,000万円前後が、法人化を検討する目安のひとつです。
参考:国税庁(No.2260 所得税の税率)
参考:国税庁(No.5759 法人税の税率)
関連記事:フリーランスエンジニアが法人化するタイミング|メリット・注意点とあわせて解説
翌年以降も安定した収益が予想される
法人化を検討する際、翌年以降も安定した収益が予想されるかどうかは、重要な判断基準のひとつです。
たとえば、法人を設立したあとは、以下のような費用が継続的に発生します。
- 社会保険料の負担
- 税理士への依頼費用
- 赤字でも法人住民税の均等割が発生
また、会社設立時には登録免許税や定款認証の手数料などの費用も発生するため、収益が安定していない場合は、資金繰りを悪化させるおそれもあります。
以上のようなリスクを回避するためには、クライアントの数を増やしたり、案件の受注ルートを複数確保したりするなどして、翌年以降も安定した収益が見込める状態を構築しておきましょう。
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フリーランスエンジニアの節税対策における注意点
本項目では、フリーランスエンジニアの節税対策における注意点について解説します。
節税対策を実施するうえで、以下の点に注意が必要です。
- 課税所得を減らしすぎると融資の審査で不利なケースがある
- 経費計上しすぎると税務署に指摘されるおそれがある
- 浪費に近い経費計上は資金繰りを悪化させるリスクがある
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
課税所得を減らしすぎると融資の審査で不利なケースがある
繰り返しになりますが、必要経費の計上や所得控除の活用は、課税所得を圧縮できるため、税負担の軽減が期待できます。
しかし、課税所得を減らしすぎると、融資の審査で不利に働くおそれがあるため注意しましょう。
特に、フリーランスエンジニアは収入が不安定な印象を持たれやすく、融資を受ける場面では、厳しく審査される傾向があります。
金融機関は確定申告書や課税証明書の内容を参考にしながら返済能力を判断するため、収入金額が多くても課税所得が少なければ、融資の審査でマイナスの影響を与えるおそれがあります。
経費計上しすぎると税務署に指摘されるおそれがある
フリーランスエンジニアの経費率の目安は50%であるため、経費計上しすぎると税務署に指摘されるおそれがあります。
税務署は売上に対して経費の割合が高い事業者を、重点的にチェックする傾向があるため、経費計上しすぎた場合、税務調査に入られるリスクが高まります。
たとえば、プライベートの食事代や家族旅行の費用などを経費計上していたり、虚偽の申告をしていたりするのではないかと疑念を抱かれるためです!
税務調査で不適切な経費計上が発覚した場合、追徴課税のほかに、延滞税や加算税が課されるおそれがあります。
本来納めるべき税額以上の負担が生じるため、経費計上のしすぎは税務上のリスクを高めるだけです。適切な経費計上を行い、不必要なトラブルを回避しましょう。
万が一、税務調査に入られた場合は、税理士の力も借りながら対応しましょう。
関連記事:フリーランスエンジニアは経費率が少ない!一例や計上時の注意点を税理士が解説
関連記事:フリーランスエンジニアが税務調査に狙われやすい理由を解説
浪費に近い経費計上は資金繰りを悪化させるリスクがある
浪費に近い経費計上は、資金繰りを悪化させるリスクがあるため注意が必要です。
たとえば、必要性の高くないOA機器を購入したり、効果的ではない接待を頻繁に行ったりする行為は、実質的には浪費になります!
上記のような行為によって納税額は減らせますが、手元資金も減少させてしまうため、事業活動に必要な資金が枯渇するおそれがあります。
フリーランスエンジニアの方は、突然の取引中止や体調不良による休業などで、収入が途絶えるリスクと隣り合わせにあるため、手元資金の減少は命取りです。
最悪の場合、事業活動の継続が困難な状況に陥るリスクがあります。
以上のようなリスクを回避するためにも、事業の成長に必要不可欠なものに絞って、手元資金を使っていきましょう。
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まとめ
今回は、フリーランスエンジニアが使える節税対策に関して、経費や控除などの活用について詳しく解説しました。
フリーランスエンジニアが使える主な節税対策は、次のとおりです。
- e-Taxを利用して青色申告を行う
- 家族を青色事業専従者にする
- 必要経費を適切に計上する
- 税額控除を活用する
- 所得控除を活用する
- 少額減価償却資産の特例を活用する
- iDeCoへの加入
- 小規模企業共済への加入
フリーランスエンジニアが必要経費として計上できる主な支出や税金は、以下のとおりです。
- 水道光熱費
- 通信費
- 家賃
- 旅費交通費
- 消耗品費
- 税理士や公認会計士への報酬
- 個人事業税
- 固定資産税
- 印紙税
- 自動車税
- 登録免許税
必要経費を計上する際は、領収書やレシートなどの証憑書類を保管しておき、万が一、税務調査に入られても問題ない状態にしておきましょう。
自宅を事務所として使っているケースで、水道光熱費や通信費などの家事関連費を経費計上する場合、合理的な割合で家事按分する必要があります。
家事関連費に該当する支出は、事業で使用している割合のみ経費計上が認められており、支出の全額を経費計上できないため注意が必要です。
また、フリーランスエンジニアは、下記のような所得控除を活用できます。
- 社会保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 医療費控除
- 寄附金控除
- 基礎控除
- 生命保険料控除
なお、売上規模が拡大し、税負担の増加が見込まれるフリーランスエンジニアの方は、節税対策の一環として法人化も検討してみましょう。
フリーランスエンジニアが法人化によって得られるメリットは、次のとおりです。
- 税率が緩やかになる
- 経費計上できる範囲が広がる
- 社会的な信用度が高まる
一方、フリーランスエンジニアが法人化した場合、下記のようなデメリットもあるため注意しましょう。
- 手間やコストがかかる
- 社会保険へ加入しなければならない
- 赤字の場合でも発生する税金がある
フリーランスエンジニアが法人化を検討する際、以下の2点を判断基準にしましょう。
- 法人化しても損しない年収がある
- 翌年以降も安定した収益が予想される