こんにちは、相続案件の対応実績が豊富な税理士の植村拓真です。
弊所では相続税に関するご依頼をいただく機会が多いのですが、中には以下のような方がよくいらっしゃいます。
税理士に依頼する費用を抑えたいと考えて、相続税の申告を自分で行おうとする方は少なくありません。
しかし、相続税の申告は不動産の土地を評価する方法が複雑ですし、控除や特例を理解したり期限を守ったりなど、さまざまな要素が原因で正確に行うのは困難です。
少額の申告ミスが原因でも税務調査の対象となる恐れがあるため、我々税理士への依頼を検討される方もいらっしゃいます。
とはいえ、相続税を自分で申告して税務調査に入られるリスクを軽減させる方法がないわけではありません。
本記事では、相続税を自分で申告する際の税務調査のリスクと軽減させる方法について解説しますので、参考にしてみてください。
相続税を自分で申告する際の税務調査のリスク
相続税を自分で申告する場合、税務調査のリスクを考慮しておく必要があります。
そもそも相続税の申告が必要なのは、相続する財産が基礎控除額の「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」を超えるケースです。
たとえば、法定相続人がひとりで500万円を相続する場合、基礎控除額が3,600万円ですので相続税を申告する必要はありません。
しかし、基礎控除額を少額でも超える場合、相続税を申告しなければ税務調査の対象となりかねません。
相続税の申告額を誤った場合も、税務調査の対象になるリスクが高まります。
税務署は相続する財産の規模はもちろん、正確に申告できているかや資金移動の履歴、遺産を分割する方法などを確認するためにも、税務調査を実施するケースがあります。
特に、多額の財産を相続する場合は税務調査のリスクが高まります。
相続税の申告漏れや計算ミスの可能性が高まりますし、ペナルティを課す際の金額が大きくなるからです。
相続税を自分で正確に申告するためには、税務に関する知識を身につけたうえで、財産の評価を適切に行い、必要書類を漏れなく揃える必要があります。
自力での申告が不安な方は、税理士への依頼を検討しましょう。
関連記事:相続手続きに税理士は必要か?報酬の目安や探し方とあわせて解説
そもそも相続税の税務調査とは
そもそも相続税の税務調査とはどんなものなのかについて解説します。
税務調査の内容
相続税の税務調査とは、相続税の申告が正確に行われているかを税務署が確認するための調査のことです。
税務署は納税者が相続する財産について幅広い情報を収集したうえで、申告内容の矛盾点や不備がないかを確認します。
たとえば、被相続人や相続人の銀行口座の入出金履歴や保有している不動産の状況、株式や国債、生命保険などが調査対象です。
相続税の申告書に納税者が記載した内容と調査員が集めた内容に異なる点があると、税務調査に入られるリスクが高まります。
相続税の税務調査は、相続人が相続する財産が大きいケースや申告内容が複雑なケースに実施される傾向があります。
そんな相続税の税務調査には、任意調査と強制調査の2種類ありますので順番に見ていきましょう。
通常は任意調査で事前に連絡が入る
相続税の税務調査には任意調査という調査方法があり、事前に税務署から相続人に連絡が入ります。
そして、調査の日時、調査場所を指定されるのが主な流れです。
税務調査が実施される当日は、相続人全員と税理士がいれば税理士も立ち会います。
任意調査では調査官が相続人に対して質問を行い、必要に応じて預金通帳や不動産の権利証などの書類が確認されます。
あくまで事前に準備された内容に基づいたうえで調査を行うので、無理やり建物内を調査されるわけではありません。
悪質な脱税行為は強制調査の対象となる
悪質な脱税行為が疑われたり、任意調査を拒否したりした場合、相続税の税務調査は強制調査の対象となります。
強制調査は任意調査とは異なり、相続人に事前に連絡は入らずに突然実施されます。
相続税の納税義務がある方は正確に納税して、税務調査の連絡が入った場合は誠実に対応しましょう。
税金の申告や税務調査の対応を自力で行うのが困難な方は、相続に強い税理士への依頼を検討してみてください。
税務調査に入られやすい時期
相続税の税務調査に入られやすい時期は、被相続人が亡くなってから三回忌を過ぎた頃、つまり申告書提出後の1年〜1年半後に行われる傾向があります。
相続する資産が多かったり内容が複雑だったりする場合、事前調査に時間がかかって、2年〜3年後に突然税務署から税務調査の連絡が入るケースもあります。
相続税の税務調査が実施されやすい月は8〜11月ごろです。
手間のかかる大規模な相続に関する税務調査は、8~11月に実施される傾向があります。
税務署の人事異動が7月で、業務が落ち着いてから精密な税務調査が行われるからです。
一方、問題が少ないと判断されるケースは、5〜6月に税務調査の対象となる傾向があります。
税務署が年度末である6月に向けて調査数のノルマを達成するために、時間をかけずに処理できる案件を優先して選ぶ傾向があるからです。
上記の内容はあくまで傾向ですので、想定していない時期に相続税の税務調査が入る恐れもあります。
相続税の税務調査が不安な方は、税理士への依頼を検討してみましょう。
相続税を自分で申告して税務調査に入られやすいケース
それでは、相続税を自分で申告して税務調査に入られやすいケースについて解説します。
そもそも無申告である
相続税の納税義務があるにもかかわらず、勘違いや故意で無申告の状態を放置している場合、税務調査に入られるリスクがあります。
たとえば、控除や特例を適用した結果で、納税義務がないと判断して無申告を放置した場合でも税務調査の対象です。
基礎控除額を3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算して、算出した金額を相続する財産の金額が下回っていれば相続税の申告は不要です。
しかし、控除額の勘違いや相続する財産の見落としで納税義務の発生に気づかないでいると、突然税務調査の連絡が入ってしまう恐れがあります。
申告内容に不備がある
相続税の申告内容に不備がある場合も、税務調査の対象になるリスクがあります。
申告書の記載内容に間違いがあると、税務署は重視して税務調査を進めます。
特に、添付すべき書類が不足していたり、申告された財産と税務署が把握している被相続人の預貯金や不動産などの情報が異なったりする場合、税務調査のリスクは高いです。
相続財産が高額である
相続する財産が高額、特に総額が2億円を超えると税務調査の対象となるリスクが高まります。
財産が多いほど、相続税の申告で計算ミスや財産の把握漏れなどが発生する確率が高まるからです。
たとえば、不動産や美術品などの評価が適切でなかったり、財産の一部に把握漏れがあったりすると、税務署から意図的に財産を隠しているのではと疑われるケースがあります。
税務署は富裕層をリストアップして念入りに税務調査を行う傾向があるため、多くの財産を相続する際は相続税の計算や財産の把握漏れに注意しましょう。
借入金に見合った財産が相続されていない
被相続人が多額の借入金を保有していたにもかかわらず、不動産や事業設備などの財産が申告されていない場合、税務署は申告漏れを疑って税務調査を実施するケースがあります。
相続人がどんな財産があるのかを把握できておらず、申告内容に漏れがあると判断されるケースが多いからです。
現金や預貯金の相続が多い
相続する財産に現金や預貯金が多い場合、税務調査の対象となるリスクが高い傾向があります。
現金や預貯金は金額が不動産などよりも明確であるため、相続税の計算ミスや申告漏れを指摘しやすいからです。
さらに相続時に、預貯金の入出金が頻繁に行われていると判明した場合、税金対策として財産を移動させていたのではと税務署に疑われて、税務調査の対象となるリスクが高まります。
また、被相続人が個人間の貸し借りを行っていたケースも考えられますが、相続人が把握しきれていないケースが多く、相続税の申告漏れが発生しやすいです。
特に、貸付金は返済が完了していない状態だと債権として相続する財産に含まれるため、無申告を放置してしまうとペナルティとして追徴課税が課される恐れがあります。
名義預金や暦年贈与が多い
名義預金や暦年贈与が多いケースも税務調査の対象になる傾向があります。
名義預金とは、被相続人が相続人である配偶者や子どもなどの名義で銀行口座を開設して管理している預金のことです。
銀行口座の名義が相続人の場合でも、被相続人が預金通帳や印鑑を保管しており名義人が自由に資金を動かせなければ、預金は被相続人の財産とみなされます。
特に専業主婦や学生など、収入が少ない傾向がある相続人に多額の預貯金がある場合、税務署は名義預金や暦年贈与を疑います。
また、暦年贈与には年間110万円以下であれば非課税となる基礎控除はありますが、長期間利用して行われた場合は注意が必要です。
暦年贈与が毎年定期的に繰り返されている場合、税務署から多額の財産を贈与をする意図があったと見なされて、追加の贈与税を課されるケースもあります。
証券口座の残高が多い
相続人名義の証券口座に収入に見合わない高額な残高があると、税務調査の対象になりがちです。
税務署から被相続人が証券口座を管理していたと疑われるからです。
特に、被相続人が証券口座から配当金や資金を使用していた場合、税務署から実質被相続人の財産であるとみなされて、相続税の申告義務が発生します。
海外の資産が多い
相続する財産に海外の資産が多く含まれている場合、税務調査の対象になるケースがあります。
海外の不動産や銀行口座などは国内の財産よりも評価や管理が複雑で、申告内容に不備が生じやすいからです。
税務署は海外の資産の情報も把握しているので、申告ミスや無申告の放置がないように注意しましょう。
生前に株式や不動産を相続しているのに申告額が少ない
被相続人から生前に不動産所得を受け取ったり、株式を譲渡されていたりなどした場合、相続税の申告額が少ないと税務調査に入られるリスクが高まります。
株式や不動産で利益を得ていたのにもかかわらず、無申告を放置しているケースがあるからです。
被相続人の社会的地位が高く収入も高かった
被相続人の社会的地位が高くかつ高収入であった場合、税務調査に入られる傾向があります。
高収入者は多額の財産を保有しているケースが多く、相続人の申告漏れや過小申告のリスクが高いからです。
また、相続する財産の種類が多い場合、財産構成が複雑で申告に不備が生じやすいため、税務署が相続人に対して税務調査を行いやすいです。
申告書に税理士の署名がない
自力で申告した相続税の申告書に税理士の署名がない場合、税務調査に入られやすい傾向があります。
相続税の申告に関する書類作成や財産評価などでは専門知識が必要で、特に地形や場所によって計算方法が異なる土地の評価額は、非専門家が正確に行うのは困難だからです。
一方、相続税の申告を税理士に依頼した場合、申告書に税理士の署名があるため信頼度が高くなり、税務署の税務調査が入るリスクは軽減されます。
相続税の申告を正確に行う時間がない、よくわからない方は、税務調査のリスクを回避するために税理士への依頼を検討してみましょう。
関連記事:相続手続きに税理士は必要か?報酬の目安や探し方とあわせて解説
相続税を自分で申告する際に税務調査のリスクを軽減させる方法
相続税に関する専門知識や申告経験がなければ、先ほど紹介したさまざまなケースで税務署から税務調査の連絡が入るリスクが高いです。
そこで本項目では、相続税を自分で申告する際に税務調査のリスクを軽減させる方法について解説します。
被相続人が保有する財産を把握しておく
自力で相続税を申告する際、被相続人が保有する財産を事前に把握しておくと、税務調査のリスクを軽減させられます。
相続する財産の把握漏れによる申告漏れを回避できるからです。
たとえば、被相続人名義の銀行口座や賃貸不動産の収入を相続人が把握していない場合、申告漏れによる税務調査のリスクが高まります。
被相続人が存命のうちに相続予定の財産を把握しておきましょう。
相続の事実はやり取りを含めて証拠を残しておく
相続に関するやり取りや証拠を残しておくと、税務調査に入られるリスクを軽減できます。
適切な記録があれば、申告内容の正当性を証明できるからです。
たとえば、遺言書や遺産分割協議書、財産目録などといった書類だけでなく、相続人同士でやり取りしたメールや手紙、LINEなどの連絡記録も保管しておきましょう。
万が一、税務調査が入ったとしても、財産を相続した経緯や評価方法についても正確に説明できます。
正確な申告が困難であれば税理士に依頼する
相続税に関する専門知識が不足していると、正確に申告できない恐れがあります。
繰り返しになりますが、申告ミスは税務調査の対象やペナルティのリスクになりますので、正確な申告が困難な方は税理士への依頼を検討しましょう。
特に相続税に強い税理士に依頼すれば、法令や適切な評価方法に関する最新情報を有しているので、税務調査のリスクを回避できます。
また、相続税に強い税理士に依頼すれば、複雑で時間がかかりがちな手続きを正確かつスムーズに終えられます。
税務調査のリスクを回避したい、よくわからないので手続きが不安な方は、相続税に強い弊所までお気軽にご相談くださいませ。
まとめ
今回は、相続税を自分で申告する際の税務調査のリスクと軽減させる方法について解説しました。
相続税の申告を正確に行うためには、相続税に関する専門知識や経験が必要です。
自力では申告ミスで税務調査のリスクが高まってしまいますので、以下の点を意識しながら財産を相続して申告しましょう。
- 被相続人が保有する財産を把握しておく
- 相続の事実はやり取りを含めて証拠を残しておく
- 正確な申告が困難であれば税理士に依頼する