こんにちは、植村会計事務所代表の植村拓真です。
弊所ではさまざまな方から起業に関するご相談をいただきますが、中には会社員(サラリーマン)で副業で起業を検討している方もいらっしゃいます。
結論から述べますと、会社員でも副業で起業できます。
副業で起業する理由は、節税対策の一環であったり、事業規模の拡大であったりとさまざまです。
本記事を読んでいる方も、同じような理由で副業での起業を検討しているのではないでしょうか。
今回はそんな方に向けて、会社員をしながら社長になり副業で起業するメリット・デメリットとあわせて解説します。
特に、会社員をしながら社長になるデメリットは、知らないと損をしたり会社を維持できなかったりする内容なので、本当に起業すべきかどうかを判断するうえで参考にしてみてください。
会社員をしながら社長になるメリット
会社員を継続しながら、副業で起業して社長になる方は少なくありません。
副業での起業にはさまざまなメリットがあるからです。
本項目では、会社員をしながら社長になるとどんなメリットがあるのかについて解説します。
大きな節税効果を期待できる
会社員が副業で会社を設立して社長になる場合の給与は、役員報酬として受け取ります。
個人事業主(フリーランス)であれば事業の売上はすべて自由に使用できますが、原則、社長個人は会社から受け取った役員報酬分しか自由に使用できません。
一見すると法人化のデメリットですが、役員報酬は税法上で給与所得として扱うので、給与所得控除を受けられます。
つまり、法人化により個人事業主よりも大きな節税効果を期待できます。
給与所得控除とは、所得税を算出する際に給与やボーナスから一定額を差し引ける控除のことです。
以下の表をご覧ください。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
162万5,000円まで | 55万円 |
162万5,001円〜180万円まで | 収入金額×40%-10万円 |
180万1円〜360万円まで | 収入金額×30%+8万円 |
360万1円〜660万円まで | 収入金額×20%+44万円 |
660万1円〜850万円まで | 収入金額×10%+110万円 |
850万1円以上 | 195万円(上限) |
たとえば、役員報酬を170万円に設定した場合、以下の計算式を用いて算出します。
さらに、所得税と法人税の税率では、年間所得が増えるほど法人税のほうが低くなります。
副業で所得が多い会社員の方ほど、起業して社長になれば節税効果は大きいです。
関連記事:法人税と所得税ならどっちが得?税金面で法人化すべきケースを解説
関連記事:会社と個人事業主はどっちが得?メリット・デメリットを比較して法人化を検討
経費計上できる範囲が広がる
会社員をしながら社長になるメリットの一つに、経費計上できる範囲が広がる点があります。
個人事業主では認められない出費でも、法人化により経費計上が認められるケースが増えます。
たとえば、役員の退職金や社員旅行の費用です。
個人事業主であれば退職金はありませんし、娯楽目的の旅行の費用は経費として認められません。
一方、法人であれば経費として認められるため、個人事業主よりも多くの出費を経費計上できます。
対外的な信用度が上がる傾向がある
対外的な信用度が上がる傾向がある点も、会社員をしながら社長をするメリットです。
起業して会社を設立すると、取引先や金融機関などからの信用が高まる傾向があります。
法人は個人事業主とは異なり、登記簿謄本を確認すれば事業内容や代表者の氏名などの会社に関する情報を確認できます。
登記簿謄本は第三者でも法務局で閲覧できるため、個人事業主よりも対外的な信用度が高いです。
決算期を自分で決められる
会社員をしながら社長になるメリットとして、法人の決算期を自由に設定できる点も挙げられます。
決算期は会社を設立する際に自由に決められるため、本業や副業の都合に合わせられます。
たとえば、本業と副業の繁忙期を避けて設定すれば、所得税や法人税、住民税などの申告作業を集中して行えるため、自由に決められる点は大きなメリットです。
また、年度末の売上や支出のタイミングに合わせて設定すれば利益を調整しやすくなるため、節税対策にもつながります。
会社員をしながら社長になるデメリット
会社員をしながら社長になる際、メリットだけでなくデメリットもあります。
会社員の副業ならではのデメリットがありますので、起業する前に確認しておきましょう。
社長として副業で確定申告する必要がある
会社員をしながら社長になる大きなデメリットとして、副業の会社で行っている事業で得た収入に対して確定申告が必要な点が挙げられます。
副業でも会社で社長として事業を行う以上、法人税や住民税、消費税などを申告しなければなりません。
さらに、会社から役員報酬を受け取っている場合、個人分の所得税や住民税などの申告も行う必要があります。
確定申告は正確に行わなければ、後日税務調査の対象になるリスクもあるため注意が必要です。
本業と副業の両立に集中したい、インボイス制度の対応がよくわからない、万が一の税務調査の対応が不安といった方は、税理士への依頼を検討しましょう。
税務調査のリスクが高まる
会社員をしながら社長になると、税務調査を受けやすくなる点もデメリットです。
繰り返しになりますが、起業して会社を立ち上げると、専門知識が必要な法人税や消費税の申告が必要で、ミスをして税務署から指摘を受けやすくなるからです。
特に、税務署は役員報酬額の設定や経費の使い方が適正かチェックする傾向があります。
たとえば、役員報酬額が極端に低い場合や、事業とは無関係なプライベートでの出費を経費計上していると、税務署から指摘を受けやすいです。
税務調査に入られると準備や対応に時間がかかりますし、精神面での負担も大きいので、日頃からしっかりと帳簿付けや領収書の整理などをして、適正な申告を心がけておきましょう。
会社を設立する費用と時間がかかる
起業して法人化する以上、会社設立には費用がかかってしまいます。
会社を設立するには、登録免許税や定款の認証費用などが必要で、たとえば合同会社の場合でも6万〜10万円ほどかかります。
株式会社であれば、約24万円とさらに多くの費用が必要です。
さらに、準備資金として資本金も用意しなければなりません。
設立後も、事務手続きや必要書類の作成と提出、法人用の銀行口座の開設など、さまざまな手続きに時間と費用がかかります。
起業して会社を設立するには初期費用と時間がかかりますので、会社員をしながら無理なく起業できるように、事前に金銭面と時間面で入念に計画を立てておきましょう。
会社を維持するための費用がかかる
副業で会社を設立すると、設立費用だけでなく維持するための費用もかかります。
たとえば、法人住民税は赤字経営であっても最低7万円かかりますし、社会保険料の支払いも必要です。
起業直後で売上が少ない時期でも固定費が発生するので、運転資金を用意しておきましょう。
本業の会社に副業がバレるリスクがある
会社員をしながら社長になると、副業が勤務先にバレるリスクがあります。
勤務先が副業を禁止している場合、本リスクを考慮したうえで起業しなければなりません。
たとえば、本業と副業の会社で社会保険に加入すると、本業の会社に通知が届いて副業バレする恐れがあります。
他にも、年末調整や確定申告の際に住民税の増減が原因で、本業の会社に副業バレするケースもあります。
他にも副業がバレるリスクがありますので、次の項目で対策法を確認しておきましょう。
会社員をしながら社長になる際の注意点
会社員をしながら社長をする際の注意点も解説します。
副業で起業して損をしないためにも、本項目で解説する内容に目を通しておきましょう。
勤務先に副業がバレると困る方は対策が必要になる
勤務先が副業を禁止しており、会社員を継続しながら社長になる場合、しっかりと対策を取る必要があります。
副業禁止の企業では、副業がバレると処分や職場での人間関係が悪化するなど、さまざまなリスクがあるため注意が必要です。
たとえば、住民税の通知方法が副業バレの原因になるケースがあります。
会社員の給与と副業の会社から受け取っている役員報酬が一緒に計算されると、住民税の金額が変動して、勤務先から指摘される恐れがあります。
住民税の通知が原因の副業バレを回避する方法は、確定申告時に住民税の普通徴収を選ぶことです。
住民税を普通徴収で納める場合、勤務先ではなくご自身で納税するためバレません。
また、副業の会社から受け取る役員報酬をゼロに設定して、2ヶ所以上での社会保険の加入を避ける方法もあります。
社会保険の加入を1ヶ所にしておけば、社会保険に関する通知が勤務先に届いて副業バレする事態を回避できます。
他にも、社長を配偶者にしたり、副業について勤務先で話さないなど、さまざまな対策方法がありますので、副業バレの対策が必要な方は以下の記事をご覧ください。
関連記事:会社員の会社設立はばれる!勤務先に内緒で法人化する方法と注意点を解説
売上次第では社長になると損をする
副業の売上が少ない状態が続くと、所得にかかる税率、法人住民税や社会保険料などといった会社の維持費が大きな負担となり、損をするケースがあります。
法人化には個人事業主よりも経費計上できる出費の範囲が広かったり、対外的な信用度が高まる傾向があったりなどのメリットはありますが、あくまでメリットを享受できるのは安定した売上がある方です。
次の項目で会社員が法人化して起業するタイミングを紹介するので、事前に確認しておきましょう。
ある程度の安定した売上があり、法人化前から適切な節税対策を徹底したい方は、お気軽に弊所までご相談くださいませ。
会社員が法人化して起業するタイミング
最後に、会社員が法人化して起業するタイミングを紹介します。
起業のベストタイミングは状況により異なりますので、本項目の内容はあくまで参考程度にご覧ください。
副業の利益が500万〜700万円で安定している
会社員をしながら社長になるタイミングとして、利益が年間500万〜700万円で安定している状況が挙げられます。
年間所得にかかる税率が、個人事業主より法人のほうが低くなるケースがあるからです。
個人事業主の所得にかかる所得税は、累進課税制度が適用されて所得が高くなるほど税率も上がり最大45%です。
しかし、法人の法人税率は23.2%が上限であるため、税負担は所得が増えても個人より抑えられるケースがあります。
副業の利益が500万〜700万円で安定しており法人化を検討している方は、法人化した際のシミュレーションを実施して節税につながるかを確認してみましょう。
副業で対外的な信用が必要になった
副業で対外的な信用が求められる場面が増えたときも、会社員をしながら社長になるタイミングです。
繰り返しになりますが、個人事業主と取引を行わない企業があったり、資金調達を行う際の審査で有利になるケースがあったりするからです。
副業で事業規模を拡大したり、スタッフを雇ったり、設備投資を行ったりして売上を伸ばしたい方は、対外的な信用が求められるケースが増えて法人化を検討する傾向があります。
課税売上高が1,000万円を超える
課税売上高が1,000万円を超えるときも、会社員をしながら社長になるタイミングです。
本来であれば、2事業年度後に消費税の課税事業者となりますが、法人化すると2事業年度前の基準期間がなくなり、2年間は消費税の免税事業者を選択できるからです。
ただし、インボイス制度が開始した影響で、あなたが消費税の免税事業者を選択すると適格請求書発行事業者の登録を行えずインボイスを発行できないため、取引先はあなたとの取引で発生した消費税分の満額の仕入税額控除を受けられません。
あなたとの取引で多くの消費税が発生する場合、取引を断られる原因になる恐れがあります。
ですので、取引先がインボイスへの対応を求めていない方は、課税売上高が1,000万円を超えたら会社員をしながら社長になるかを検討してみましょう。
関連記事:インボイス制度と法人成り|タイミングから影響と対策まで解説
関連記事:法人成りで消費税の免税事業者になる要件
まとめ
今回は、会社員をしながら社長になり副業で起業するメリット・デメリットとあわせて解説しました。
会社員をしながら社長になるためには、会社の設立費用や社会保険料の負担、設立関連の手続きなどで多くの資金と時間がかかります。
ですので、事前にご自身のケースで損をしないかどうかのシミュレーションを入念に行いましょう。
法人化、会社設立は大きな節税効果を期待できるため、フリーランスの方だけでなく副業を行っている会社員の方も検討するケースがあります。
本業で十分な資金を貯めている、副業で売上が伸びる見込みかある、すでに副業で売上が伸びて安定しているといった方は、法人化、会社設立を検討してみてください。